折原浩平は迷っていた。 気がついたら辺りは暗く、彼のいる森林地帯の見通しをますます悪くしていて。 「はて、何でこんなことになったのか・・・」 支給された鞄をまさぐる。が、あったはずの地図がない。 鞄の中には詰め込まれたダンゴ達のみ、そんな彼の片手には日本酒。 「・・・」 とにかく、神塚山の麓をグルっと周るように歩いていた。 だが、特に誰に会うでもなく時間は過ぎていく。 途中学校らしき場所を通りかかったが、正直あんな所に逃げこんでも袋のねずみだと思い回避した。 「・・・」 正直それでも行っときゃよかったと、今になって後悔するものの後の祭り。 辺りを警戒しながら歩き続け数時間、もう疲労もピークを越している。 ・・・休みたい、眠りたい。そんな欲求が先行する。 ごろん。試しにその辺の草むらに横になってみた。 ああ、星空が綺麗だねえ・・・まだ暗闇もそこまでひどくない。まるでキャンプにでも来ているようだった。 「みんな、どうしてんだろうな」 呟く。それに答える者はいない。 ・・・椎名繭の名前があの放送で呼ばれたということ、それは浩平にとって今だ現実感のないフワフワとした事実であった。 本当に繭が死んだのか?本当に、もうあの無邪気な笑顔が見れないのか? 疑問を解いてくれる要素は・・・ない。あるのは、あの見知らぬ少女の死体という事実。 ・・・放送で呼ばれた名前の中に、あの少女のものも含まれていたのだろうか。 考えれば考えるほど、気は滅入っていく。 あの死体を見つけなければ、今でも繭の生存を信じ続けられたかもしれない。 ふと、そんな思いも沸いてきた。 「馬鹿か、俺は」 現実逃避に意味はない、けれど。 今日一日歩き続けても生きている人間には誰にも会うことがなかったという事実が、浩平自身をナーバスにさせているのも事実だった。 「瑠璃さま、珊瑚さまぁ!」 一方千鶴を破ったイルファは、逃がした瑠璃と珊瑚との合流を目指し駆けていた。 だが彼女等がどちらの方向に走って行ったかを確かめていなかったため、捜索は難航していて。 声を張り上げ自分の位置を知らせるようにするものの、反応は返ってこない。 (もしかして、こちらに逃げられたのではないのでしょうか・・・) 周りの森林地帯は身を隠すには絶好の場所だった、しかし。 ・・・自分の読み違いで、二人の身に何かあったらと。そう思うだけで不安は一気に膨れ上がり、イルファの冷静さを蝕んでいく。 「瑠璃様、珊瑚様!お願いですから返事をしてください!!」 力の限り叫ぶ、今の自分にはそれしかできないから。 ・・・だが、そんなイルファの心情とは裏腹に、機械である体は残酷であった。 それは突然来た。 彼女の意思とは関係なく、視界がブレはじめる。 同時に足元もガクっと揺れ、走り続けようとする思考を置きイルファは勢いよく前のめりに転倒した。 何が起きたかと呆然とする。だがこの力の抜ける感覚を、イルファは知っていた。 (え・・・・・・でも、まだ・・・そんな、時間、じゃ・・・) 霞みゆく思考回路を懸命に働かせ、今日一日の行動を反芻する。 ・・・一日中珊瑚と瑠璃を思って走り回ったこと、そして先の戦闘。 特に後者はボディを酷使しすぎている。それの招いた結果が、これだった。 (そ、んな・・・瑠璃、さ・・・ま・・・・・・) バッテリーが、もたない。 いつもならこうなる前に気づけたはずなのに・・・いや。実際、警報は出ていた。 瑠璃と珊瑚を心配する余り他のことに目を向けられなかった、それは自身の状態にも当てはまっていたようで。 検索、予備バッテリーへの移行はとっくに始まっている。 それすらも尽きようとしている今、彼女にできることは・・・ない。 字の如く目の前が真っ暗になった所で、イルファの思考も途絶えるのだった。 だがイルファの声を張り上げた行為は、少なからずとも意味を持つことになる。 近くにいた少年を、引き寄せることができたのだから。 折原浩平 【時間:1日目午後8時】 【場所:F−7】 【所持品:だんご大家族(だんご残り100人)、日本酒(一升瓶)、他支給品一式(地図紛失)】 【状態:倒れているイルファを発見する】 イルファ 【時間:1日目午後8時】 【場所:F−7】 【持ち物:デイパック*2、フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)】 【状態:電池切れ・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】 - BACK