HERO




夕陽も既に地平線の向こうへと没し、沖木島にも夜が訪れようかという頃合。
横たわっている少女、長岡志保を見下ろしているのは、柊勝平である。
恋人である藤林椋に強制された骨肉腫ファックとやらで何故か持病が完治してしまった勝平君、
抑圧された青春を取り戻すかのように色々と元気いっぱいであった。

「さて……犯すか」

おもむろにズボンのベルトを外す勝平。
猫さん柄のトランクスまで下ろしたところで、ぽんっ、とその肩を叩かれる。

「ん……?」

振り向いた勝平は、象さん丸出しでその場に凍りついた。

「なァに”ヤッて”んだァ……コゾー……!?」

そこにいたのは、人の形をした修羅であった。
少なくとも勝平の目にはそう映った。
その、おそらくは女性であろう人物がドスの利いた声で勝平に迫る。

「さて……犯すか、……じゃ、ねえだろォが……?」
「あ……あは、あはははは、……で、ですよね……?」

ビキビキ、と音が聞こえてきそうな青筋が無数に立っている。
夜叉般若の形相に、勝平ご自慢のマグナムがしおしおと縮こまっていく。

「この”寮監の美佐枝”さんの目の前で、なに風紀乱してんだテメェ……!?」
「……うぅ、その、……ご、ごごごごめんなさ〜い! あいたっ」

ベソをかきながら逃げ出す勝平。
途中で下ろしかけのパンツが足に引っかかって転んでいる。

そのあまりの情けなさに、美佐枝と名乗った女性は追う気もなくした様子で
勝平の後ろ姿から目を逸らし、倒れている少女へと呼びかけようとする。

「ケッ、”ダサ坊”が……! ……ねえ、あんた大丈夫かい……?」

だが、その隙こそが街一番の卑劣未練と異名をとった勝平の狙っていた瞬間である。

「―――な〜んて、ねっ!」
「……!?」

振り向いた美佐枝の視界に、何やら小さな物体が放物線を描いて飛んでくるのが映った。

「パ、”パイナップル”ゥ……!?」
「はは、椋さんはピン抜いたまま2,3個ツッコんで気持ちいいって悦んでたけど、
 フツーは死んじゃうかもね!」
「な……!」
「さよなら、オバサン! 黒焦げになったら犯してあげるから安心してよ!」

いやそんな女絶対いねー、つうか滞空時間長いな! などとツッコむ暇もない。
絶体絶命かと思われたその瞬間。

「え……!?」
「な……っ!?」

一条の赤光が、中空の手榴弾を貫いた。
爆発。爆風が一帯を駆け抜け、膨大な土ぼこりが舞い上がる。
あおりを受けて転倒した美佐枝が、かろうじて顔を上げた。
土埃の向こうから現れたのは、

「あ、あんたは……ッ! ……誰だっけ?」

グラサンかけたオッサンだった。

男はその手に、おかしな形状の銃を持っている。
どこかで見覚えがあるような、と首を捻る美佐枝。
その間に、勝平も起き上がっている。

「こ、この……邪魔するのかよっ!」

その両手には、手榴弾。
更にそれぞれの指の間には和洋中の包丁、果物ナイフにカッターナイフ、アイスピックまでが
挟まれている。ちなみに下は丸出しだ。

「はは……どうだい僕の武装は! 男に用はないよっ! 死ねっ!」
「……どうでもいいけどよ、お前」
「何だっ」
「そんだけ持ってて、ちゃんと投げられんのか」
「……え?」

言われて、己の両手を見る勝平。嫌な汗が流れた。

「若造が……俺様の相手には一千光年早ぇ」
「そ、それ時間の単位じゃな……ぐああああっ!!」

男の言葉と共に、手にした銃から光線が走った。
その光条は狙い違わず勝平の手にした手榴弾を貫き、誘爆させる。

「―――お前に、レインボー」

大爆発を背に、渋い声で呟く男。

「あ、あんた……あたしらを助けてくれたの……?」
「礼はいらねえぜ……。
 マグナムにはマグナム……そいつが俺様のジャスティスだった、それだけの話よ」
「いやその銃、マグナムっていうか今、光線が出てたような……?」
「俺の怒りが、こいつをゾリオンへと進化させたのさ……」
「はあ……」

よくわからないが流す。

「とりあえず、お礼くらいは言わせとくれ。……ありがとう」
「へっ……」

はにかんだように口の端を上げる男。
その表情はどこか少年を思わせる、年齢不相応なものだった。

「あんたの名前……聞かせてくれるかい」
「名乗るほどのもんじゃあねえさ……。
 ……そうだな、俺のことはゾリオン仮面とでも呼んでくれ」
「いや、呼びづらいんだけど……」

美佐枝の言葉もどこ吹く風、男は颯爽と踵を返すと歩き出す。
片手だけを上げたその後ろ姿は、

「いや……あんた、パン屋のご主人だよね……」

美佐枝の呟きは、風に掻き消されるのだった。




【時間:一日目18:30頃】
【場所:F-3】

相楽美佐枝
【持ち物:ガダルカナル探知機、支給品一式】
【状況:唖然】

長岡志保
【持ち物:不明】
【状態:気絶中】

古河秋生
【持ち物:ゾリオンマグナム、他支給品一式】
【状態:異能覚醒・ゾリオン仮面】

柊勝平
 【状態:死亡】
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