「オウ、何だか怖い雰囲気だナ。ムードメーカーエディ様の出番ってヤツダゼ!」 ズジャーン。そんな効果音を引き連れ男女の間に入ったのは、かっこよくポーズを決めたエディだった。 緊張感に包まれた場の空気が緩くなる・・・先に反応したのは、銃身を橘敬介に向け威嚇していた神尾晴子であった。 「・・・うちの嫌いなもん、教えたろか。 肝心な時に女子高生とイチャイチャしてる腑抜けと、空気の読めないお茶らけた奴やぁ!!」 「よせ、晴子っ」 VP70の引き金が引かれようとする、彼女の起こそうとした行動に気づいた敬介が駆け寄るが・・・間に合わない。 空気をつんざく音が響いた、それと同時に「きゃあっ」っという雛山理緒のあげた悲鳴が上がる。 だが、その時にはもう・・・晴子の目の前にいたはずの標的は、消えていた。 「な、何や?」 「何やもくそもナイっつーことだナ。悪いケド、素人に弾当てられるナンテ冗談でもゴメンだぜぇ」 「?!」 正面にいたはずの男は今、晴子の側面に移動していて。 慌てて向き直るものの、すかさず出された手刀で晴子のVP70ははたき落とされてしまう。 「くっ・・・」 「悪趣味でワルイけど、ずっと様子見させてもらってナ。事情は何となく読めたってことヨ」 飄々としたその態度、敬介はただ呆然とそれを見やるしかない。 獲物を手放され、晴子は苦虫を噛み潰したような顔でエディに対し睨みを効かすしかなかった。 「だから何や!これはうちらの問題や、他人が口を挟むようなことじゃあらへんっ」 「イヤイヤ、実はそんなこともなかったりするんだナ。 ・・・フム、あんたの獲物はマシンガンタイプじゃナイ、フム。・・・アンタ、ここまでで何人殺したンダ?」 「はぁ?なんでそんなん答えるわけないやろ、いい加減にしい!」 「フムフム。聞く耳は持ってくれない、カ」 「くだらないこと言ってるとしばくでっ」 「ウーン、じゃあ、質問を変えるゼ。人探し中でナ、こういう子達見なかったカイ?」 那須宗一、湯浅皐月、梶原夕菜、リサ=ヴィクセン、姫百合珊瑚、姫百合瑠璃、河野貴明。 彼等の特徴を、エディは細かく説明する。・・・その間、晴子の機嫌がますます悪くなっていったが彼は気にせず話を続けた。 「・・・うちが答えると本気で思っとるん?どれだけ呑気なんや、あんた」 「じゃあ、そっちのニイサン達は?」 「・・・すまない、僕は見てないようだ」 「わ、私もです」 「ソウカ・・・」 「ほんまいい加減にしいや。邪魔なんや、うちの堪忍袋も限界やで!」 「フム。冷静に話すらさせてもらえないってことカイ。・・・まぁ、仕方ないカ」 ギャーギャー騒ぎ続ける晴子を、エディは軽くいなす。 そして、問答の意味がないと理解した時。彼の態度は急変した。 「オバサンの言い分はワカランでもない、オレッチも大事な子は守りたいからナ」 「誰がおばさんやっ」 「でもな、それで手にかけることにより悲しむ人間が新たに生まれるってことを、アンタは理解した方がイイナ」 「うるさい、だからあんたには関け・・・」 歪んだ晴子の表情が、真顔に戻る。 見開いた目が映しているのは、牙を向いた狩猟者の、眼差し。 「アンタは大事な子が生きているから、そういうことが言えるってことだヨ・・・」 一瞬で空気が歪んだ気がした。 おちゃらけているように見えた男の表情が凍てつく、え・・・という呟きが漏れたと同時に、晴子の体は吹っ飛んでいた。 「晴子?!き、君一体何を・・・っ」 固まっていた敬介が慌てて駆け寄る、だがエディの言葉で彼の足は中途半端に止まってしまう。 「大事なコを守るためはいえ、ゲームに乗ったヤツをオレッチは許すワケにはイカナイ」 低い、脅すような台詞。全力でエディに殴られた晴子の意識は既に途切れている、その声は彼女に届くことはない。 だからエディは向き直り、立ちぼうけで何もできなかった男に対し、吐いた。 「・・・この女が次ぎ会った時もコンナ様子だったら、オレッチは容赦しないゼ。 こういうヤツにユカリちゃんが殺されチマッタなんて考えるだけで・・・オレッチ、ハラワタが煮えくり返りそうナンダ・・・」 殺気。晴子を殴り倒したエディの右手が物語る、細かく震え続けるその理由は・・・怒りだ。 ぞっとする。このような場面に今まで出くわしたことのない敬介には、なす術もない。 「・・・アンタの大事な子は無事だといいナ、だけど急いだ方がイイゼ。 さもないと、オレッチの仲間みたいに蜂の巣にされちまうゼ・・・」 その言葉を最後に、エディはこの場から離脱した。 足元に転がっていたVP70は彼が回収した、それを止める者はいない。 残されたのは殴り倒され意識を失っている晴子に、立ち尽くす敬介。 ・・・そして、小さく震えているしかなかった、理緒。 苦い顔で拳を握り締める敬介の傍を通過し、彼女は倒れ伏せる晴子の元に近づいた。 殴られた頬は赤く染まっている、口の中も切っているのだろうか赤いしみが草むらにできていた。 「・・・よい、しょ」 肩に腕を回し体を起こす、力の抜けた晴子の体はくたんとなって、理緒一人で運ぶことが不可能であることを表す。 それを見た敬介も、ゆっくり彼女に近づき力を貸した。 ・・・とりあえず、気絶した晴子を何とかしなければいけない。 特に行き先を話し合うわけでもなく、二人は村に向かって歩き出した。 「・・・僕は、何もできなかった」 少しずつ進んでいく中、無言の場を先に破ったのは敬介であった。 「それは私も同じです」 「晴子、僕の言うことを・・・聞いて、くれなかった。情けないな・・・」 苦い、苦い呟き。 理緒は、それにかける言葉を思いつけなかった。 ・・・役立たずは自分の方だ。何もできなかったのは、自分の方だ。 俯く彼女の様子を、逆側から晴子を支えている敬介は読み取ることはできない。 運よく鍵の開いていた民家に辿りついても、場の空気が戻る気配はなかった。 神尾晴子 【時間:1日目午後11時過ぎ】 【場所:G−2】 【所持品:支給品一式】 【状態:気絶】 雛山理緒 【時間:1日目午後11時過ぎ】 【場所:G−2】 【持ち物:鋏、アヒル隊長(13時間後に爆発)、支給品一式】 【状態:自失気味(アヒル隊長の爆弾については知らない)】 橘敬介 【時間:1日目午後11過ぎ】 【場所:G−2】 【持ち物:トンカチ、繭の支給品一式(中身は開けていない、少し重い)】 【状況:自失気味(自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)】 エディ 【時間:1日目午後11時過ぎ】 【場所:G−3(移動済み)】 【持ち物:H&K VP70(残弾、残り14)瓶詰めの毒瓶詰めの毒1リットル、デイパック】 【状態:マーダーに対する怒り・人探し続行中】 B−4の場合、H&KVP70の残弾を16にしてください。 - BACK