凶弾




「……やっぱり、僕も行かないと」
敬介が苦痛に顔を歪めながらも、そう呟いていた。
人任せにしてただ待つなど、出来るはずが無かったのだ。
「だ…、駄目ですよ、怪我をしてるのに!」
今にも駆け出しそうな敬介の腕を理緒が掴む。

「やっぱり僕も行かないと駄目だ……これは元々僕と晴子の問題なんだ!」
叫ぶ。それは普段の彼からは考えられないくらいの強い叫びだった。
そして敬介は理緒の腕を振りほどいた。
彼は肩を抑えつつも、そのまま走り出していた。

春原陽平達は暫しの間呆然としていたが、るーこが口を開いた。
「とにかく中へ入るぞ。こんな所で突っ立っているのは危険だ」
「あ、ああ…そうだね」
他の者も同意し、家に向かって歩き出した。
だが、その判断は余りにも遅すぎた。
るーこ達が家の傍まで歩いたその時、理緒の視界の隅で僅かに動く影あった。



――――(ふ…ざけんじゃ……ないわよ……!!)
来栖川綾香は激怒していた。銃を握るその手は怒りで震えている。

綾香は陽平達の様子を近くの木の陰から窺っていた。
撃とうと思えばいつでも撃てたが、まだ綾香の中には殺人への禁忌が少しだけ残っていた。
躊躇してるうちに、大人と思われる風貌の二人は少女達を残してどこかへ走り去った。
恐らくは少女達を連れては行けないような状況………死地へ赴こうというのだろう。

綾香は自らの手を汚して戦っている。生き延びる為に必死に戦っている。
だが、この少女達はなんだ。
危険な事は大人に任せて、自分達はのうのうと家で休む気か?
綾香には少なくともそう見えた。


綾香の体を怒りとアドレナリンが満たしていく。
殺人への迷いが消えた綾香は、銃を構えた。
綾香の狙いは敵の中で唯一銃を持っている女……るーこだった。


綾香が引き金を引こうとしたその時、理緒がるーこを突き飛ばした。
理緒は何かを考えていたのではない。元より考えている暇など無かった。
ただ体が勝手に動いていた。
次の瞬間、理緒の体を衝撃が襲った。

陽平達はその光景を呆然と見ていた。何が起きたのか分からない。
突然銃声が鳴り響いたかと思うと、理緒の胸から血の霧が噴き出し、彼女は地面に倒れこんだ。
るーこですら、反応が遅れていた。今回の襲撃は全く予測出来ていなかったのだ。

「この、大人しく殺られときなさいよっ!!」
陽平達が何が起きたか理解するよりも早く、綾香が勢いよく飛び出してきていた。




春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:呆然】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
【状態:反応が遅れている】

古河渚
【持ち物:敬介の持っていたトンカチと繭の支給品一式(支給品不明・中身少し重い)】
【状態:呆然】



霧島佳乃
【持ち物:鉈】
【状態:呆然】

雛山理緒
【持ち物:鋏、アヒル隊長(12時間40分後に爆発)、支給品一式】
【状態:瀕死(アヒル隊長の爆弾については知らない)】

来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:腕を軽症(治療済み)。激怒】


橘敬介
【所持品:なし】
【状況:左肩に銃弾による傷、平瀬村入り口へ疾走(支給品一式+花火セットは美汐のところへ放置)】

共通
【時間:1日目23:20頃】
【場所:F−02】
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