魔法少女バーニング・ブルマーESP




「くしゅんっ」

可愛らしいくしゃみをしたのは、松原葵。
体操服にブルマーという出で立ちでうろつき回る、ちょっと危ない女子高生である。

「日が暮れてきちゃった……。
 やっぱりこの格好だと、ちょっと寒いな……」

むき出しの腕をさする葵。
元の制服を捨てたわけでもなし、着替えればよさそうなものだが、ブルマー大好き葵ちゃんの
脳裏にはそんな選択肢は浮かばないようである。

「お困りのようですねっ」
「……どうしようかな……焚き火でもしてあったまろうか、どっかの家にお邪魔するか……」
「お・こ・ま・りのようですねっ!」

あんまり相手にしたくなかったが仕方ない。
嫌々顔を上げると、そこに立っていたのは予想通り奇天烈な女だった。
誰のセンスだか知らないが真っ赤なワンピースに白いストールというド派手な制服、
いい歳こいて頭には巨大なリボン。
極め付けに、手に持っているのはおもちゃ屋で女の子がものほしそうに眺めているような
ピンク色のステッキだった。

「……間に合ってます」

足早に立ち去ろうとする葵。

「お困りのようですねっ」

先回りされた。
どうあっても逃がしてくれるつもりはないらしい。

「……えーと、何か御用……ですか……?」
「申し遅れましたっ! 佐祐理は魔法少女ですっ、さゆりんって呼んで下さいね☆」

アブナい人だった。
すげえ逃げたい系。

「魔法少女である佐祐理は困ってる人を見過ごせません」
「はあ……」
「というわけで、困っている声を聞きつけて飛んできちゃいましたっ」
「いえ、特に思い当たる節はありませんが……」

関わりあいになってたまるか。
気合負けしたら終わりだと葵は感じている。

「寒いんですよねっ」
「げ」

聞かれていた。

「そうでしょうそうでしょう、そのちょっと個性的な格好じゃ、寒くても仕方ありません」

あんたにだけは言われたくない、と思ったが口には出さない葵。
賢明だった。

「いえいえ、佐祐理は魔法少女ですからそのくらいは朝飯前でわかってしまうんです〜」

口には出さないが別にどうでもいい。

「そう、実は佐祐理には、ものすごい幸運が訪れたんですよ!」

そんなこと聞いてない。口には出さないが。

「一眠りして起きたら、なんと魔法少女になっていたんです〜」

どんな幸運だ。毒虫になっているのとどっちが悪夢に近いだろう。口には以下略。

「ですから、皆さんにはラッキーのおすそ分けをしてさしあげたいんです」

余計なお世話としか言いようがなかった。略。

「あの……気が済んだら帰っていただけると嬉しいんですが……」
「そうでした、肝心なことを忘れてました〜。佐祐理は馬鹿ですねっ」

ぽかっ、と自分の頭を叩く佐祐理。
葵の話などまるで聞いていない。

(殺したい……)

拳を握り締める葵。

「やっぱり寒い時にはおしくらまんじゅうが一番ですっ」
「……は?」
「えいっ☆」

気合一閃、佐祐理の持つステッキからきらきらと光があふれ出し、一瞬であたりを包み込む。
眩しさに思わず目を覆った葵の耳に、佐祐理の声が聞こえてくる。

「これからも美少女ブルマー戦士として頑張ってくださいねっ―――」
「頑張るかぁっ!」

ツッコんだときには、もう光は消えていた。
佐祐理と名乗るアブない少女の姿もない。
代わりにそこに立っていたのは、

「やあ、オレ北川! 君とおしくらまんじゅうをするために召喚された愛の戦士だ!
 って、何で!? ここはどこ!?」

よくわからない少年だった。
気づかれないうちに立ち去ろうとする葵。

「……ちょっと、君! ねえ、そこのブルマーの君だよ」

気づかれていた。

「オレ、今の今まで家の中にいたんだけど……何が起こったか知らない?」

日本語でおk、と言いたいところをぐっと堪える葵。

「さあ……? 私ちょっと急ぎますんで、これで……」

代わりにすっとぼけてみた。
というか、本当に何が起こったのかわからない。
だが、そう言って踵を返した葵の前に立つ人影があった。

「……葵、ちゃん」
「え、琴音……ちゃん? 色々あって私の設立したエクストリーム同好会で
 マネージャーをやってくれてる、親友の琴音ちゃんなの……?」

どうやら第二期アニメの設定を引きずっているようだ。

「誰? 友達?」

北川空気嫁。

「そう……あなたもそうなのね……」
「え、いや何のこと……? っていうか今度は何……?」

悲しげに目を伏せる琴音に、葵は慣れた調子で訊ねる。
月に一度は勘違いで欝入る→メンテさせられる→仲直りのコンボであった。
本当に面倒くさい女だなコイツと思うが、こんなんでも数少ない友達の一人である。

「ブルマー……今時そんなの絶滅寸前っていうか来期からウチの学校でも
 廃止されるとかされないとか揉めてるような代物を履いたりして……」
「え、そうなの!?」
「そりゃ勿体無い!」

ブルマー大好き葵ちゃんと何でも大好き北川君である。

「そんな属性をつけてまで男に媚を売る……!」
「いやそりゃちょっとは狙ってるけど……けど変なのしか寄ってこないよ実際?」
「わたしなんて超能力者よ!? 異端者の悲劇! 古典的だけど王道!
 こんなに立派な悲劇のヒロインなのに……! なのにどうしてこんなに人気がないの!?」

そりゃオメーが全身から面倒くさい女臭振り撒いてるからだろ。
変なスイッチ入れる前にリサーチしろよリサーチ。
……と思っても口には出さない葵。
いつものことだがこうなると琴音は何を言っても止まらない。
それにせっかくモテない度合いがあまり変わらないのに、アドバイスなんかしてたまるか。
本気でアスリート続けてたらマトモな男とっ捕まえられる可能性なんて限りなく低いんだぞ、と
内心半泣きで思う葵。本音の部分では醜い足の引っ張り合いであった。

「……そんな葵ちゃん、浄化してあげるっ!
 えいっ、パイロキネシス! サイコキネシス!」
「ひょいっ」
「……え? うわああああああ―――」

グシャ。
炎上したまま空高く放り投げられ、自由落下する北川。
どうせいつものパターンで超能力攻撃が来るとわかっていた葵が、軽くステップして狙いを逸らしたのである。

黒焦げで脳漿ぶちまける北川には目もくれず、琴音は涙を浮かべて走り出す。

「所詮、私を理解してくれる人なんて、いないのね……!
 ああ……あと18時間もしたら儚く散ってしまう命なのに……!
 なんて可哀想なわたし……! さよなら葵ちゃん、追いかけてきたりしないでね!
 あと18時間で死んでしまうワケありのわたしを追いかけてきたりしちゃダメなんだから……!」
「あー……」

いつものことだけどこの死体どうすんだろ、と思いながら頭をかく葵。

「ま、いっか……。どうせ来栖川先輩の家が何とかするだろうし……」

呟いて、琴音の走り去った方へ歩き出す葵。
面倒くさいなあ、一眠りしてから考えようかなあ、などという内心は
決して口には出さない我慢の子であった。




 【時間:1日目18時過ぎ】
 【場所:H−8】
姫川琴音
 【持ち物:武器不明、支給品一式】
 【状態:悲劇のヒロイン、2日目午後0時頃に首輪爆発】
松原葵
 【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
 【状態:ブルマー。琴音の捜索開始】
北川潤
 【状況:死亡】
倉田佐祐理
 【持ち物:マジカルステッキ】
 【状況:魔法少女】
※北川の所持品:SPAS12ショットガン(8/8+予備12)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)、
水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2は336の日本家屋にそのまま。
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