狩る者、狩られる者




沈黙。それは、余りにも重過ぎる空気。
定時放送は、見事に二人の期待を裏切った。

「・・・ぐすっ、うえぇ・・・」

最初に崩れたのは立田七海、手で顔を覆い泣き崩れる彼女の姿はあまりにも弱々しい。
車椅子ゆえ、駆け寄って抱きしめることもできなければ屈んで背を撫でることもできない。
小牧郁乃は自分の状態を恨んだ。
だがそれ以前に、彼女自身精神的にも・・・かなり参っていた。
郁乃にとっての大切な人、小牧愛佳の名前も放送に上げられたということ。
正直、もう夢も希望も朽ちた気がした。
あまりの非現実さに、涙も出てくれない。

現在二人が身を潜める場所として選んだホテル跡、ここにちょうど辿り着いた時その放送は流れた。
爆発により傷んだ建物のどこにスピーカーなんてあったのか、探す気にもならない。
・・・それぐらい、二人は打ちのめされていた。
ロビーらしき入り口から少し入ったレストランにて、今二人は息を潜めている。
とりあえず身を隠すにしても、車椅子の郁乃は上には上れない。
エレベーターが使えるかどうかを確認してはいないが、もし先にこの建物に入っていた人物がいた場合・・・それを使用するのは余りにも、危険な行為であったから。

「どうしたの、一体何を泣いているの?」

呆けていて気づかなった、駆けられた声で郁乃は現実に戻される。

「だ、誰?!」

カツ、カツ・・・暗闇の中で響く靴の音。ローファー辺りだろう。
咄嗟のことで動けない二人の前に現れたのは・・・郁乃と、同じ制服を身にまとった少女であった。
いや、少女と言うには、少し大人っぽすぎるかもしれない。
明らかに上級生、そう見て取れる。

「・・・悲しいことがあったの?私もよ・・・」

暗い建物の中、近づいてきたものは憔悴しきった表情。
病的な眼差しに、「ひっ」と郁乃は小さな悲鳴をあげてしまった。

「何で死ななくちゃいけなかったのかしら・・・あの子が・・・」

ぽろり。瞳から流れる雫。

「何で守れなかったのかしら・・・私・・・」

つーっと流れていく涙を、二人は呆然と眺めていた。
大切な欠片を失くした悲しみ、それは今二人が抱えているものと同じもの。
目の前の彼女に対し、一気に親近感が膨れ上がる。
腰を上げ、黙ったままでいた七海が彼女の正面に向け歩みだした。

「私も・・・です。さっきの放送で告げられて・・・も、もう、どうすればいいか・・・」
「そうなの・・・一緒ね。私も、さっきの放送で知ったわ」
「何で、何でこんなことに・・・」
「分からないわ、分からない。・・・私は、何のために手を汚したのかしら」

え、という呟き。
彼女の傍まで駆け寄っていた七海の足が止まったのは、その時。

「私は、これから何のために手を汚せばいいのかしら」
「七海!!」

郁乃の叫び、それに応じることなく崩れていく七海の体。
最初に膝がつき、そして前のめりに倒れ伏せる。
じわっとした血の泉が、その瞬間にどんどん広がっていく様に郁乃は息を呑んだ。

「・・・どういうことなの?」

一呼吸を終えた後、郁乃は改めて目の前に対峙する女を睨みすえる。
彼女の視線の先には目の前の女の握るバタフライナイフがあった。

「ふふ・・・分からないわ。私も」

女は屈みこみ、さらに止めを刺すようにと血の滴り続ける刃物を崩れ落ちた七海に突き刺していく。

「や、止めて!そんな・・・七海、ななみ!!」
「ふふ・・・切り口が浅いと、また殺り逃しちゃうかもしれないんですもの。
 こういうのは、しっかりやらないとね」

狂ってる・・・車椅子の両端を握り締め、郁乃は怒りと恐怖の両極端な感情に振り回された。
その間も、女の動きは止まない・・・彼女がゆらっと再び立ち上がった時、七海であったはずの少女は悲惨な形に変形させられていた。

「奪う側に回るっていうのは、もう決めたことだから撤回はしないわ」

ゆらり。女の視線がこちらに向く。
郁乃は自分の支給品の入ったバックを握り締め、今まで開けることのなかったその中身をまさぐった。

「それに、あなた私の一番癪に障る女の雰囲気にそっくり」

カツ、カツ・・・再びローファーの音が響き渡る。

「刻んであげる」

気がついたら、向坂環の影は目の前までせまっていた。




向坂環
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:バタフライナイフ、爆竹&ライター(爆竹残り9個)、他基本セット一式】
【状況:郁乃と対峙】

小牧郁乃
【時間:1日目6時半】
【場所:E−4(ホテル跡、一階レストラン)】
【持ち物:支給アイテム不明、車椅子、他基本セット一式】
【状況:環と対峙】

立田七海 死亡

七海の支給品は傍に放置
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