リサ=ヴィクセン(119)は海の家に戻り食事を済ませた後、皆を休ませ一人見張りを続けていた。 「Huー…、全く大変な1日ね…。」 一つ、溜息を吐く。 リサも疲れていたが柳川裕也(111)は新たに怪我も負っており、リサ以上に疲れている様子だったので先に休ませた。 倉田佐祐理(036)や美坂栞(100)はリサ達とは基礎体力も戦闘力も全く比べ物にならない。 彼女達を見張りに起用する事は出来なかった。 考える。 明日はどう動くべきか。出来れば宗一と合流したいが、今は柳川がいる。それに装備も充実している。 宗一と合流するに越した事は無いが、戦力の増強は最優先事項では無いだろう。 ならばどうすべきか。 リサが考え込んでいると、後ろで物音がした。 どうやら柳川が起きてきたようだった。 「柳川、もっと休まないと駄目じゃないの?」 「もう十分休んだ、後は俺が見張ろう。お前こそ、疲れているのが一目で分かるぞ。」 リサは柳川の様子を伺ったが、怪我こそ負っているものの体力面ではどうやら本当に大丈夫そうだ。 「Wow…、『鬼の力』というものは本当に凄いのね。」 リサは驚きを隠せないでいる。 柳川は自分の肩を少し動かしてみたが、まだ痛みが走るようだった。 「本来の力ならこの程度の傷、一晩寝れば殆ど治るのだがな……。今は体力の回復だけで限界のようだ。」 「All right.じゃあ見張りをお願いするわね。でも、少し考え事をしてるからもうちょっとだけここにいるわ。」 リサはそう言うと、口の前で人差し指を立ててから柳川を手招きし、紙の裏にペンを走らせた。 リサは紙の裏に【喋らないで。】と書き込んでいた。 リサが続きを書こうとするが柳川はそれを手で制し、自分のペンを取り出し紙に字を書き始めた。 【分かっている、盗聴されているんだろ?】 【That's right.やっぱり気付いてたのね。さっき寝てる栞の首輪を調べたけど、多分盗撮はされてないわ。】 そう言って、リサは自分の首輪を指差した。 柳川はリサの首輪を念入りに調べたが、レンズなどの撮影に必要な物は見当たらなかった。 【そのようだな。だがこんな筆談などしないでも、俺達が盗聴に気付くくらい、多分予想されているぞ。】 【でしょうね。だから、主催者に聞かれたら不味い会話だけ筆談でするようにしましょう。】 【それも無意味だ。俺は既に何度も主催者を殺すと言ってるが、特にお咎めはないようだしな。】 それを見たリサは人指し指をたてて、チ・チ・チ…というポーズをとった。 【No.それは違うわ。そんな事でいちいち首輪を爆破していたら参加者が大幅に減ってしまうわ。主催者が本当に首輪を爆発させるのは】 そこで気付いたのか、柳川がペンを走らせ始めた。 【実際にゲームに支障が出そうになった時……つまり俺達が首輪を外す直前、もしくは主催者に襲撃をかける直前という事か?】 【Yes.その時だけ筆談にすれば大丈夫だと思うわ。それと、この事はまだ佐祐理と栞には……】 そこまで書くと、柳川は頷いた。 【分かっている。直前まで伝えるな、だろう?】 【話が早くて助かるわ。】 リサはそこまで書くと、紙とペンを片付けた。秘密会議は終わったという事だろう。 「柳川、明日はどうするの?」 「ゲームに乗った連中を倒しつつ、首輪を解除出来る人間を探すつもりだ。 この忌々しい首輪をどうにかしない限り、何かやった途端にドガン、だからな。」 コンコン、と人差し指の先で首輪を叩き、肩を竦めた。 「そうね、私もそれで良いと思うわ。ただ出来れば……」 「分かっている。倉田の探し人と美坂の探し人を見つけてやれ、だろ?」 「Yes.でも何処にいるか分からない以上、私達がやる事は変わらないでしょうけどね。」 「ああ、とにかく動き回るしかないだろうな。人を探すのにも、ゲームに乗った連中を止めるのにも、それしかないだろう。」 それからリサは視線を落とし、少し考え込むような動作を見せた。 「まず首輪を解除出来る人間がどこにいるか、そもそも存在するかも分からない。 仮に上手く首輪を解除出来たとしても、主催者側の情報が殆ど無いわ。」 「これだけ大規模な事をやってのける連中だ…相当な戦力があると考えて間違いないだろう。 主催者との対決はまさしく死闘になるだろうな。」 「前途多難ね……。でも柳川、あなたが目的以外の事を全く省みないような人じゃなくて良かったわ。」 リサはそう言って、にこっと笑った。 「何?俺はゲームを破壊する事しか考えていないぞ?」 柳川は意外そうな顔をしていた。 そんな事を言われるとは全く思っていなかったからだ。 「本当にそうなら、あなたは佐祐理や栞を置いていこうとした筈よ。違うかしら?」 言われて柳川ははっとした。 それは確かにリサの言うとおりだった。 ゲームに乗った者を止めるのも主催者を殺すのも、リサと二人で行動した方が効率良く行なえるだろう。 明日はリサと二人だけで動くべきではないか、という考えが一瞬浮かび上がる。 しかしすぐにその考えは消え失せた。 「俺にとっての最優先事項はゲームの破壊だ、その為ならゲームに乗った者を殺す事にも躊躇いは無い。 だが同時に、倉田を守りたいとも思っている……奴には借りもあるしな。」 その声からは強い意志が感じ取れた。 リサはそれを聞いて、強く頷いた。 「私もあなたと同じよ。栞は絶対に守るわ。」 そう言った後に、リサの目が心持ちいたずらっぽくなった。 「私は正義のヒロイン、貴方は正義のヒーローってワケね。」 「…くだらん、何がヒーローだ。もういいから早く寝ろ。」 柳川は馬鹿にしたような口調でそう言ったが、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。 「All right.じゃあ、後は頼んだわね。」 リサはそう言って立ち上がると、栞達が寝ている部屋の方へと消えていった。 「守りたい、か。俺も随分と丸くなったものだな…。」 制限のおかげで自我を取り戻したとは言え、過去の自分はそんな人間では無かった筈だ。 柳川は自分の変化に少し戸惑いを覚えていた。 リサが寝た後は、辺りにはただ波の音だけが響いていた。 それでも時間は確実に流れ続けている。 夜明けの時は刻一刻と迫ってきていた。 【時間:2日目午前3時20分頃】 【場所:G−9、海の家】 リサ=ヴィクセン 【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、二連式デリンジャー(残弾2発)、食料、支給品一式】 【状態:睡眠中】 倉田佐祐理 【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:睡眠中】 柳川祐也 【所持品@:出刃包丁、(ハンガーは海の家の一室に破棄)、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】 【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、自分の支給品一式】 【状態:見張りをしている。左肩と脇腹の治療は完了したが、治りきってはいない。】 美坂栞 【所持品:支給品一式】 【状態:睡眠中】 - BACK