珊瑚と貴明のやり取りの傍らで沙織がふと、レーダーに目を落とした。 「……ねえ、珊瑚ちゃん。これってやばいんじゃない?」 沙織はレーダーを指し、珊瑚に尋ねる。 珊瑚がレーダーの画面を見るとバッテリーの残量らしいマークが半分程度欠けていた。 「あー、バッテリーの残量が減ってきてるんやな。まあ、昼から使いっぱなしやししゃあないわ」 「じ、じゃあもうそんなに使えないってことだよね?」 沙織がおそれおそれ尋ねる。レーダーが無くなれば行動の危険度が上がるのは素人考えでもすぐ分かるからだ。 「うん、このままやったらな」 「え……このまま…だったら?」 訝しげに珊瑚に尋ねると、珊瑚は事も無げに言ってのけた。 「そや。充電したったらええねん」 「だって、充電プラグも充電器も無いよね。どうやって?」 「充電器が無かったら作ったらええねん。レーダーの下んところに携帯にあるような端子があるやん?そこから充電できるはずやで」 「えっ、つくるって、そんなこと……」 「なあなあ、貴明ー。そこにあるテレビ持ってきてー」 「ん、分かった。おい雄二、ちょっとそっち持ってくれ」 「あいよー」 そんなこんなで珊瑚の目の前にテレビが置かれる。 そこからの流れは見る者を驚嘆させるものだった。 あっ!っという間にテレビは多数の部品にばらされ、組み替えられ、 その次の瞬間にはレーダーの充電器が完成していた。 珊瑚がレーダーを充電器に載せるとレーダーのバッテリー表示が点滅している。 おそらく充電が正常に開始されたということなのだろう。 「はわー、凄いですー」 その様子を見ていて最初に口を開いたのはマルチだったが、他の皆も同様に珊瑚の技量に感嘆していた。 「そや、まるちー。バッテリーのほう大丈夫かー?」 唐突に珊瑚はマルチに呼びかける。 「あ、はい。まだ大丈夫ですよー」 「うちの記憶が確かやったらHM-12型の充電インターバルは8時間ぐらいやったはずや。 これから先何が起きるかわからんし、充電できるうちに充電しといた方がえーよ」 「あー、そうですね。じゃあ、そうします。しばらく失礼しますね」 そう言うと、マルチは自分の手首から充電コードを取り出しおもむろにコンセントに突き刺した。 部屋の片隅でスリープモードに入ったマルチの姿は一部を除けば人間が眠っている様とほとんど変わらないように見えた。 「うち、ちょっとトイレいってくる」 「あ、さんちゃん待ってー、うちも行くー」 そう言うと、二人はリビングから出て行く。 「んー、二人で仲良くお手洗い……仲が良いねぇー」 「雄くん……それってちょっと変態っぽい……」 「ま、待て、新城。そういう意味じゃなくってな……」 狼狽している雄二とジト目で雄二を見ている沙織。 その様子を呆れて見ている貴明の元に珊瑚達が戻ってきたのは数分後のことである。 「そーいえば、貴明達はこれまでなにしてたん?」 戻ってきた珊瑚が貴明達にそう尋ねるが、その手には大量の紙が抱えられていた。 付き添っていった瑠璃の手にもだ。 それが意味することはただ一つ。 それはさっきの筆談の続きをするということ。 「俺達は灯台に居てさ……」 これからの会話に意味は無い。 ただ、筆談をしていることを悟られない為のフェイクだ。 【さっき、何とかなるって書いてたけど、どういうこと?】 【この工具セットがあれば、この首輪、外せるかもしれへん】 【じゃあさ、すぐにでも外してしまおうぜ】 【ううん。まだ、あかんよ】 【何で?何か問題でもあるのか?】 【うん。いくつもな】 【一つは何もないところで首輪の反応が消えたら主催者が怪しむやん?】 【もう一つはうちの首輪。自分で首輪を外すのはかなり難しい】 【そうか。自分の首は難しいか】 【なるほどな。確かに先に誰かだけ外すってこともできねぇし。でも、どうする?】 【瑠璃ちゃんはそういうことできないの?】 【うちは無理や。さんちゃんが凄いねん。さんちゃんは天才やからな】 瑠璃の書いた言葉を疑う者は誰一人いない。それは先ほど目の前で証明されている。 【最初、何とかなるかもしれない、って言ってたよな。何か策があるのか?】 【うん。いっちゃんがいれば。いっちゃんやったら外し方教えれば出来ると思うねん】 【いっちゃんって、誰?】 【9番のイルファさんのこと。珊瑚ちゃんが作ったメイドロボなんだよ】 【じゃあ、そのイルファさんを探して皆の首輪を外せばいいって事?】 【それだけじゃ、まだあかんねん】 【まだあるのか?】 【脱出する方法が無いと首輪外したって意味ない。むしろマイナスになる】 【ん?どういうことだ?】 【雄二が主催者だったとして、首輪が無い参加者が現れたら、どうする?】 【そりゃ、具合が悪いから何とか処分ってそういうことか】 【そう、多分主催者側の人間が処分に来ると思う】 【他にも、一杯困ることはあるよ】 【他にもあるの?】 【うん。例えば首輪を外して死んだことになっているうちらが外歩いてたら 他の参加者の注意を引くだけやし、島の中に主催者のカメラがあるかもわからん そうやってうちらの事がバレたらやっぱり処分されると思う】 【じゃあ、首輪はいつ外すんだ?】 そう尋ねられ、珊瑚はペンを走らせるのを滞らせた。 ほんの僅かに間を空け、珊瑚は、 【参加者がうちらだけになったら、や】 そう書き記した。 【私達、だけ?】 【さんちゃん、なんでや?】 【うちらって言ってもこれから探す人達も込みやけどな】 【珊瑚ちゃん、理由はあるのかい?】 【理由はあるよ。まず、うちらだけになったら誰かが自分だけ助かりたいという理由で 他の全員を殺したってことにすれば首輪の解除が容易に出来る。 24時間で誰も死なへんかったら全員首輪爆発っていうルールもあるしな】 珊瑚は書き続ける。 【最後の一人が決まれば主催者は何らかの手段でこの島にやってくるやろ。それを乗っ取るしか脱出する道はないと思う】 【でもそうなると、必然的に】 【そう、最低でも一人はうちらが殺さんとあかんって事や】 珊瑚の書く文字が歪む。殺さなければならないという事実の重さが全員の心に暗い影を落とす。 【最後の一人は間違いなくゲームに乗ってる。武器もたっぷりあるやろ。何より場慣れしているはずや】 【じゃ、じゃあさ私達を除いて最後の一人が決まったら私達全員が死んだことにしてしまったら?それなら問題ないよね?】 沙織がある種懇願するかのように書き殴る。 だが、それに答えを出したのは雄二だった。 【そりゃ駄目だろな。俺がもしゲームに乗って死力を尽くして最後の一人になれたのに 戦いもせずに抜け道探して逃げ出そうとする奴が居たとしたら間違いなく殺そうとするだろ。 それまでに何十人と殺してたら数人殺すのが増えたってどうって事ないだろうしな】 結局、どんな形にせよ手を汚さないわけにはいかない。 認めたくない結論を明確にされ、沙織は落ち込むしかなかった。 【それにしたって前提条件が最後の一人を本当に生きて帰らせるという話が本当やったら、や。 違ったら処分しに来た人間がこの島にやってくるのに使った乗り物を奪うしか方法があらへん。 どっちにしても主催者との戦いは避けようがないで】 可能性を二つに絞ってみせることで『主催者が島に来ない』という最悪の可能性を珊瑚は伏せた。 最悪の可能性は出来れば知らないほうが良いのだ。 知れば行動の為の活力が失われかねない。 【だから、これからしないといけないことは事はいっちゃん探しと友達集め、それから最後に使わんとあかん武器集めやな】 全員がため息をつく。 「ちょっと早いけど、ご飯にしーへん?あんまり多くはないけど食べれそうなもんあったでー」 テーブルの上のメモを纏めながら珊瑚が話を切り出した。 今、筆談で伝えないといけない事は全て伝え終わった、という事だろう。 「そうだな。そういえばここに来て何も食ってないんだった」 「じゃあ、うち何か作ってくるわー」 「あっ、瑠璃ちゃん。私も手伝うね」 と、台所に向かう二人に向かって珊瑚が一声掛けた。 「瑠璃ちゃん、換気扇回したらあかんでー」 「なんでやさんちゃん、匂い篭るやん」 「うちらがここに居ること匂いでバレるやん」 「あ、そっか。わかったわさんちゃん」 十数分後、瑠璃・沙織の手によりリビングのテーブルには幾つかの料理が並べられた。 「あんまり食材がなかったから、それで出来るものを作ってみただけやけどな」 「瑠璃ちゃんって凄いの。手際とかがまるでプロみたい!」 新城さんがあんまり褒めるので瑠璃ちゃんがなんだか気恥ずかしそうに見えた。 「でも、食材がほとんど残ってへん。なんとかせんとあかんわ……」 「そっか、じゃあ食材探しもしないといけないな……」 貴明は新たに突きつけられる問題の前に頭を悩ませる。 が、美味しそうな料理を目の前にして悩むのは馬鹿がすることだと思い直し、 「じゃあ、頂こうか」 考えるのは後回しにすることにした。 姫百合珊瑚 【持ち物:水を消費、レーダー、レーダーの充電器、工具セット】 【状態:僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】 姫百合瑠璃 【持ち物:水を消費、シグ・サウエルP232(残弾8)】 【状態:擦過傷、切り傷(手当て済み)】 河野貴明 【持ち物:水を少々消費、モップ型ライフル】 【状態:健康】 向坂雄二 【持ち物:水を少々消費、ガントレット】 【状態:健康】 新城沙織 【持ち物:水を少々消費、フライパン(カーボノイド入り)】 【状態:健康】 マルチ 【状態:充電中、健康】 共通 【持ち物:デイパック、多量のメモ用紙】 【時間:一日目午後5時40分頃】 【場所:I-07の民家】 - BACK