耕一達は教会で休憩中だった。 街へは森から侵入した方が安全だと考え、森を進んでいた最中にこの教会を見つけた。 住井が町は危険性が高いから、先に休憩して万全の態勢で行った方が良いと提案した。 それは確かにその通りだった。疲れが溜まれば体の動きも頭の回転も鈍る。 そして町に襲撃者が潜んでいた場合、生き延びるには逃げ足と体力が重要だった。 何しろ耕一達は、銃火器の類の武器を一つも持っていないのだから。 住井は少し探したいものがあるんだ、と言って一人教会の奥へと消えていった。 「お腹は一杯だけど……、ちょっと喉が渇いてきたッスね」 「ああ、よっちと川澄は水が無いんだったな。ほら、飲めよ」 そう言って耕一は舞に水の入ったペットボトルを投げ渡した。 舞とチエはそれを分け合って飲み干していた。 そこに住井が戻ってきた。 「今調べてきたけど、使えそうな物……パソコンや武器は無かった。それからこの教会、水道が止まってるぜ」 「そうか……、まずは水を手に入れないときついな」 「………ここなら水があると思う」 舞が地図で指している場所は、ここからさほど遠くない位置にある分校跡だった。 「水を汲みに行くッスか?」 「ああ、そうだな。町じゃ水を汲んでる余裕があるかなんて分からないし、今のうちに俺が行ってくるよ」 耕一が真っ先に名乗りをあげる。 「一人じゃ危ないだろうし、俺も行くぜ」 「折角だし、私も行ってあげるわよ」 続いて住井と志保も名乗りをあげていた。 「いや、3人は多くないか?水を汲むくらい、一人で十分だぞ」 耕一は軽く反論したが、 「……きっと動き回るグループの方が危険だから、人数は多い方が良い」 舞がそう言ったので、結局3人で水を汲みに行く事にした。 耕一達が教会を出て行った後、舞とチエは礼拝堂にいた。 「でもこの教会、綺麗ッスねー。なんでこんな綺麗な教会が街から遠い場所に建っているんでしょうね」 「………分からない」 教会をこんな場所に建てる意味は無い。 町からこの教会までは距離的にはさほど遠くないが、途中で街道を外れ、森の中を歩かねばならない。 参拝する人達にとって、不便な立地だった。 きっと何か、意味があるはず……。 思考を巡らせる舞達。しかしそれは第三者によって強制的に中断させられた。 教会の外から誰かが歩いてくる足音がする。 「耕一さんッスか?随分早いッスね」 耕一達が戻ってきたのだと思い、チエが出迎えにいこうとする。 しかし歩いてきた人物は耕一ではなかった。 扉が開け放たれる。 「え……?」 開いた扉の先には、綺麗な長い髪の女性が立っていた。 その姿は、この綺麗な教会の雰囲気にとても似合っていた。 しかしその女性―――柏木千鶴は、とても冷たい目をしていた。 舞とチエが動き出すよりも早く千鶴は動き出し、傍にあった椅子を舞に向かって投げつけていた。 舞は素早く剣を手にとった後、その椅子をかわしていたが、その隙に千鶴はチエの目前まで迫っていた。 「うあっ……」 チエは強烈な体当たりを喰らい、舞の方へと吹き飛ばされた。 「よっち!」 舞は素早くチエを抱き止める。気は失っているようだが、大きな怪我は負っていないようだった。 「……あなた、許さないから!!」 舞はチエを地面に横たえ、日本刀を構えて千鶴の方を睨んだ。 その時にはもう、千鶴はチエの日本刀を拾っていた。 「ようやく武器が手に入りました……、素手では限界を感じていた所でしたので助かりました」 千鶴も刀を物色しながらそう言った後、舞を睨み返した。 「では……まずはあなたを、殺します」 そして地面に横たえられているチエの方に視線をやり、 「勿論その後にその子にも死んでもらいます」 ゾッとするような冷たい声で、そう言った。 「させないっ!」 舞が千鶴に向かって斬りかかる。 元々剣だけを頼り、夜の学校での戦いを生き延びてきた少女、舞の攻撃は鋭く、正確だった。 「――――!」 予想外の動きに意表を衝かれた千鶴だったが、後方に跳び、すんでのところでその一撃をかわしていた。 千鶴の額に汗が滲む。 「……あなた、ただの一般人では無いようですね」 「……」 舞は何ももう何も答えず、再び千鶴に斬りかかっていた。 ギィンッ! ギィンッ! ギィィィンッ! 刀と刀がぶつかり合う音が教会中に響いていた。 一瞬でも気を抜いたらその瞬間に命を落とすであろう斬り合いが行なわれていた。 命を懸けたその戦いの迫力は、さながら武士と武士との決闘のようだった。 千鶴は体のバネを使って、凄まじい勢いで突きを放った。 その目標は、舞の心臓――― ギィンッ! 舞が素早く反応し、千鶴の刀を跳ね上げる。 がら空きになった千鶴の胴を狙って刀を横に振るが、千鶴は後ろに下がってかわしていた。 舞は素早く突進し、今度は舞が千鶴の心臓目掛けて日本刀を突き出す。 千鶴はサイドステップでその一撃をかわし、舞目掛けて刀を振り下ろしていた。 ギィィィンッ! 舞は何とかその一撃を受け止めるが、千鶴の攻撃は一撃一撃が重く、舞の腕は軽い痺れに襲われ始めていた。 (………この敵の攻撃は学校の魔物達と同じ……かわさないと駄目) 千鶴の怪力を知った舞は、出来るだけ千鶴の攻撃を受け止めるのは避け、 勘と経験を頼りに千鶴の攻撃をかわす戦法に切り替えた。 身体能力では舞の上を行く千鶴であったが、こと剣の戦いに限っては実戦経験で遥かに上回る舞に分がある。 一進一退の攻防が続けられていたが、徐々に千鶴が押され始めていた。 舞の剣が斜めに振り下ろされる。 ブシャァッ! 「くぅぅぅっ!」 後ろに飛んでかわそうとした千鶴だったが、体力の消耗からか動きが鈍ってきており、完全にはかわし切れなかった。 千鶴の左肩が軽く引き裂かれる。 千鶴は肩を押さえ、息を切らしていた。 「くっ……仕方ありません。刀の戦いではあなたに分があるようです」 劣勢を認めた彼女は舞に背を向けて逃げ出した。 舞は追うか迷ったが、千鶴の足の速さを考えると追っても無駄だと判断して、追撃はしなかった。 何より今は、チエが心配だった。 千鶴は駆けるウォプタルに乗りながら、考え込んでいた。 その内容は得意の筈の近接戦闘で不覚を取った事への反省ではなく、別の事についてだった。 (楓……、私本当に、これで良いのかしら?罪の無い子供達を無差別に襲撃して、傷を負わせて、殺して……。 きっと貴女が今の私を見たら、物凄く悲しむでしょうね……。でも、それでも―――) 「それでももう、妹達も耕一さんも、誰一人として、死なせたくはないのよ……」 柏木家の当主としての責務を果たす為、柏木家の長女として皆を守る為、千鶴はその手を汚していく。 柏木千鶴 【時間:1日目午後9時半頃】 【場所:g3左上】 【持ち物:日本刀・支給品一式・ウォプタル(状態:疲労)】 【状況:左肩に浅い切り傷、疲労、逃亡中。マーダー】 川澄舞 【時間:1日目午後9時半頃】 【場所:g3左上の教会】 【所持品:日本刀・支給品一式(水は空、容器も現在は無い)】 【状態:疲労】 吉岡チエ 【時間:1日目午後9時半頃】 【場所:g3左上の教会】 【所持品:支給品一式(水は空、容器も現在は無い)】 【状態:気絶】 住井護 【時間:1日目午後8時50分頃】 【場所:g3左上の教会】 【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式(水は半分ほど)】 【状態:分校跡に水を汲みにいく】 柏木耕一 【時間:1日目午後8時50分頃】 【場所:g3左上の教会】 【所持品:大きなハンマー・支給品一式(水は空、空の容器を3人分持っている)】 【状態:分校跡に水を汲みにいく】 長岡志保 【時間:1日目午後8時50分頃】 【場所:g3左上の教会】 【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式(水は三分の二ほど)】 【状態:足に軽いかすり傷。分校跡に水を汲みにいく】 - BACK