彼女は終始無言だった。 しばらく考えていたのだった。 放送が聞こえた直後、彼女は海の向こうを確認していた。 夕闇に消えて見えていたのは、紛れも無く日本防衛軍保有のイージス艦。 そして夜の海の向こうに見えた光 あれは間違いない。日本保有のヘリ空母の中の一つだ。 「・・・・・・規模が大きすぎる・・・」 主催者は篁じゃない。放送と、この異常な海軍の動きで明らかだ。 ──その当の篁もヘンなガキのナイフに当たって開始早々消えていた事などリサに知るよしも無い。 (相手は海、こちらは島) (しかも相手は少なく見ても2隻以上か・・・) この場合、主催者に直接攻撃するという事は島から船で主催者の近くまで乗り込み、そこで一気に操舵室を奪うしかない。 だが相手も戦艦。そう簡単に近づけるか、奪取できるか。 (やるとなると、間違いなく海戦) (しかし、相手側も戦闘準備は万端のようね・・・) こうやって拉致された事なども考えると、エージェントとしての身元がバレた可能性すらある。 また、仮に最後まで生き残ったとしても、敵側には戦いの記録が残る。 むしろ、その例の「化け物」退治のために・・・つかまったのかも知れなかった。 (余計な事口走らなければよかった)と彼女は深く後悔していた。 首輪から、ギャグのように飛び出してきたヘンな音声。 このような機能があるという事は逆に言えばこちらの声も盗聴できるという事。 余計な話を知っている事を、むざむざ別の敵に知らせてしまった。 (確かに生かしておくとは言ったものの・・・果たしてあの久瀬という?男。私を生かすだろうか?) 答えは簡単、Noになる。 そもそもスパイと判った段階で、そのスパイに価値なんてあるもんじゃない。 となるとやはり、主催者である久瀬?の一味や「あの」戦艦郡を攻撃し、データごと破壊するしかない。 しかしどうやって? 船はどこから手に入れる? そもそも近づけるのか? こんな状況下でありながら、ヘリの音すら聞こえる。おそらくCH-47輸送ヘリの音。 参加者が使う事はありえないだろう。つまり敵側には攻撃ヘリや輸送ヘリがあるという事になる。 運営がこの島に定期的に来ているのか? となるとどうする? 乗っ取るか? しかしどうやって輸送ヘリを強奪する? いろいろと調べながら、戻ってきたのは12時近くだった。 状況を確認していた面もあり、海から見えた灯台にいってきて調べてたのだ。 判った事は、まず、敵艦は空母だけで1隻、大船だけで4隻以上ある可能性がある。 そして、光の動きでわかるが空軍・攻撃ヘリも相当数ある。 また、やはり島の中にも「化け物」と呼ばれる怪人がいるかもしれないこと。 幸い、まだその「化け物」には遭遇しなかったが・・・ しかし、海の家に帰った時。 リサは暗闇の家の中で、信じられない光景を目にしていた。 そこにあるのは変わり果てた栞の死体だった。 狙撃された跡もない。彼女はただ、血を吐いて、倒れていた。 「何?・・・ねえ・・・」 まだ体は温かい。だが、脈を調べても、動かない。 彼女は体を動かした。だが、その屍は動こうとしなかった。 毒でも飲まされたのか。それとも、自殺か。 自殺は有り得ない。ついさっきまで姉を探すと頑張っていた少女だ。 何故か、全く判らなかった。だが、明らかに口から血を吐いて死んでいる。 狙撃されたのか、毒を飲まされたのか。それとも全く別の要因? 「敵・・・・・・?それとも一体何?」 暗闇の中で体を急いで調べても、全く外から攻撃された跡もない。 ただ唯一判ることは、これで、守るべき者も、守らなければならない者も、全て無くなった事。 そして、ここも安全ではない事。 だが、リサにはそれを悲しむ暇すらなかった。 海から、不審な音がしていた。明らかに船が近づいている音だ。 恐怖を感じないといったらウソになる。彼女はとっさに身を隠す。 船は海岸に接岸したあと、数名の兵隊が下りて来た。 闇夜の中で、声が聞こえてきた。 ───何とか上陸は出来た。 ───よし、岩切・光岡・御影・横蔵院・縦王子・砧の6名は船を守れ。 島には坂神・御堂・石原・猪名川・スフィーの5名で入る ───了解した ───ですの。 ───状況を確認し次第・・・・・・ (海から・・・参加者が上陸してくることはありえない・・・・・・) (という事は・・・主催者?!) 美坂栞 【時間:2日目午前0時】【場所:G−9(海の家)】 【所持品:無し】【状態:死亡】 リサ=ヴィクセン 【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾6) 鉄芯入りウッドトンファー、八徳ナイフ、支給品一式】 【状態:警戒】【備考:目的喪失】 - BACK