目指せヘタレマスター




「帰れとは言ったけど、ほんとに出てくことないじゃない……」
七瀬留美は、思わず藤井冬弥と12人のヘタレを追い出しってしまったことを気に病んでいた。
既に20人を超える参加者が殺されている。
消防署内にいれば安全だなどという保障は何処にもないが、

あたしが追い出したがために藤井さんが殺されてしまったら……

そう考えるといてもたってもいられなかった。
放送を聞いたときの彼の反応、ショックを受けていたのは間違いない。

「怖い時はさ、助けてって言っていいんだ」

「それでね、助けてって泣いていいんだよ」

 彼と出会ったときのことを思い浮かべる。
恐怖に震え、思わず銃を向けた自分を優しく諭してくれた彼……

(あーもう! 何やってんだろあたし!)

 留美は消防署を飛び出し、冬弥の向かったほうへ駆け出した。


 全力で走ったおかげで、1時間ほどで留美は冬弥に追いつくことが出来た。
「はぁ、はぁ、ほんとに出てくんじゃないわよ馬鹿……」
「七瀬さん、追いかけてきてくれたんだ」
心配になったなどとは口が裂けても言えない。
見ると冬弥は11個のボールらしきものを腰に着けている。

「何そのボール?」
「俺はさっき、天啓を受けたんだ」
「はあ?」
「エロゲー界には大勢のヘタレ主人公たちがいる。
この殺し合いは、彼らをヘタレから脱却させるために用意されたに違いない。
先の12人はヘタレの中のヘタレ、いわばヘタレ12神。
彼らがヘタレてしまったのは、初代ヘタレ王の俺の責任だ。
俺は彼らを救わねばならない」

 なんと電波なことを言ってるのだろうか、留美は開いた口が塞がらなかった。
「ゲットしたヘタレたちはこのヘタレボールに入れておくことが出来る。
敵が現れたらボールから出して戦わせるんだ。
戦いを通じてレベルを上げていくことにより、彼らはヘタレから脱却するだろう」
「その人は外に出てるみたいだけど?」
留美は鳴海孝之を指差した。
「皇帝であるこの俺にボールに入れというのか?」
「ヘタレたちにはそれぞれ個性がある。
中にはこいつのようにボールに入りたがらないものもいるんだ」

 もう勝手にしてくれ、留美がそう思ったとき、
一人の少女が雄叫びを上げて向かってくるのが見えた。

「ウォォォォォォ!」
「さっそく敵が現れたようだ」
冬弥はそう言ってボールを構える。
「いけ、黒崎崇! キミに決めた!」
「うおー! ムティカパぱーんち!」

保科 智子 のこうげき!
黒崎 崇 は 9999 のダメージをうけた!
黒崎 崇 は しんでしまった!

「一撃で即死、ヘタレにしかなせないわざね……」
「くっ、戻れ! 黒崎崇!」
冬弥は黒崎崇をボールに戻し、次なるボールを取り出した。

「次はお前だ! いけ、柊空也!」
「うおー! ムティカパきーっく!」

保科 智子 のこうげき!
柊 空也 は 9999 のダメージをうけた!
柊 空也 は しんでしまった!

「なんて手強いんだ! ゲットしたくなってきたぜ!」
「あの人ヘタレ主人公じゃないでしょ……」
「うん? 様子がおかしいな」

「ぐおーっ! 私はムティカパやーー!!」

 ギューンと音を立て、目の前の少女の手の爪が伸びた。
「進化したか! 絶対にゲットしてやる!」
「馬鹿言ってないで逃げるわよ」
追いかけてくるんじゃなかったと、留美は大いに後悔した。




 七瀬留美
 【時間:午後8時ごろ】
 【場所:C−06】
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:呆れている】

 藤井冬弥
 【時間:午後8時ごろ】
 【場所:C−06】
 【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん 黒崎崇くん(死) 宮本浩くん 白銀武くん
     鳩羽一樹くん 柊空也さん(死) 朝霧達哉くん 人見広介くん 来栖秋人くん 鍋島志朗くん】
 【状態:俺=ヘタレトレーナー】

 保科智子
 【時間:午後8時ごろ】
 【場所:C−06】
 【所持品:支給品一式(水、食料少し消費)、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾×3、ムティカパの塩漬け×2】
 【状態:ムティカパ症候群L2】
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