か細いネットワーク




由依はうす暗い廊下を歩いていた。
板目の廊下はリノリウムの床の反響とは違い、歩くたびにぎいぎいとした不気味な音が鳴る。
辺りはもう既に真っ暗。唯一かすかな月明かりが廊下をほんの少し照らしてくれてるとはいえ、都会育ちな由依にはお化け屋敷にいるような感覚である。
がらがら…がらがら…
目の前の引き戸をできるだけ音が鳴らないよう注意しながら開け、様子をうかがう…人の気配は感じない。
引き戸より身を乗り出し、教室の中を見回す。人影は…ない。そのまま静かに戸を閉める。
三階から各部屋部屋を覗いているのだが運がいいのか悪いのか誰もいなかった。
これで二階はあと突き当たりの部屋を残すだけ…。


あれから由依は自分はこれからどうするべきか悩み続けていた。
お姉ちゃんや郁未さんたちに会いたい、このおかしなゲームをやめさせたい、身内の亡くしてしまった人たちを救いたい、ゲームに乗ってしまった人を思いとどまらせたい…。
でもそれ以上に……怖い。
あの時襲いかかってきた女の人に対して逃げることしかできなかった自分。
既に多くの人が亡くなっている現実を突きつけられても何もできない自分。
こんなあたしにできることは―――



がらがら…がらがら…
注意深く引き戸を開く。そこは本来なら教師が集まっている職員室だった。
由依にとっては休み時間等で騒ぎ過ぎた際にに叱られるいやな場所。
ただ、ある事情で転入した際には親身になって色々と相談ができる場所でもある。
でも今はもちろん誰もいない。この校内の今の生徒は外部から転入した女生徒(正確には当校の制服を着ているだけなのだが)一人だけなのだから。
由依は辺りを確認した後、中へと入る。隅まで見回したが、やはり誰もいない。
あるのは並べられた机の上に整頓されたファイルの山、筆記用具類、それに電話……電話?

由依は支給品の携帯を取り出す。確かこの携帯は島内だったらどこにでもつながるとあったような…。
試しに携帯の呼び出しをバイブレーションに切り替えた後、携帯にかけてみた。
ぶーっ ぶーっ
けたたましい音と共に当然のように着信が来た。 携帯のディスプレイを見るとここの職員室らしき電話番号が表示されている。どうやら本当に使えるらしい。
だったら……由依は周りにこの島の連絡先が書かれたリストがないかを調べた。ほどよく電話の近くのlファイルに挟まった主要連絡先リストが見つかる。
そのリストを見ながら支給品の地図に載っている施設の電話番号をかたっぱしから登録していく。
普段から携帯をいじっているせいなのだろう、あっという間に島の主要な施設に対して携帯で連絡が取れる状態にはなった。
ただ登録をしている際に由依には一つ疑問が沸いていた。

今どこかに電話をかけたらつながるのだろうか?



携帯電話を手のひらで弄びながら由依は考える。
電話に出る人はいるのだろうか、電話に出た人が見知らぬ人だったらどうするのか、ましてやゲームに乗っている人だったりしたら。
それに例え切られなかったとしても何を話せばいいのだろう?

できることは――何もないかも知れないけど――


由依は携帯のディスプレイと見つめながら、ある電話番号を選び、通話ボタンを押した。
しばらくの無音の後、相手先のコール音が聞こえてきた。

今あたしができることは―――このゲームに取り込まれてしまった多くの人の心を救うこと!




【場所:D−06:鎌石小中学校・職員室】
【時間:1日目22時30分頃】

名倉由依
【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)、
      カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、
      荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:全身切り傷のあとがある以外普通、電話中(相手待ち)、このゲームで傷ついた人への介抱を目的に】
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている
     由依がどこにかけているのか、また誰かがその電話に出るかどうかは次の書き手にお任せ】
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