ウルトの鼓動




「沖ノ島(おきのしま)は、福岡県宗像市にある宗像大社の神領で、
 玄界灘の真っ只中に浮かぶ周囲4kmの孤島である。
 島全体が御神体とされ、今でも女人禁制である。
 沖津宮には宗像三女神の田心(たごり)姫神が鎮座している。
 ……っていう感じなんだけど」

自慢の薀蓄を披露する芳晴。

「お前、クラスでウゼえって言われたことない?」
「何てこと言うんでしょうねこの悪魔っ子は……」

傷つく芳晴。
謎の発光体が飛来し、一瞬で去っていった後も、芳晴たちは沖ノ島で
ノートの探索を続けていた。
浜辺をぐるっと回って船を探していたともいう。
収穫ゼロ。

「館山の沖ノ島なら良かったのにねえ……」
「そっちならビーチで泳いで帰ればいいんだけどね」
「一応ノートを探しに来てるんだが……」
「言い忘れてたけど、ここ住民一人らしいですよ」
「ぶち殺すぞ」
「無人島になっちゃうよ」
「お前をだよバカ」
「助けてくださいよ江美さん」
「……帰りたい」

ひと悶着あったが、とりあえず沖津宮の神主のところになら
無線か電話があるだろう。
そう考えた一行は、ぐだぐだと揉めながら社務所を目指すことにする。

「……で、社務所ってどこよ」
「御前浜から急な斜面の約400段を上ると、田心姫神をまつった
 沖津宮に着く。……ってGoogleで読んだことありますよ」
「何でそんなのググったのよ……」
「偶然としか言いようがありませんね」
「やっぱぶち殺そうぜコイツ……」

原生林と岩肌に難儀しながら、夜の山を登る一行。
が、巨石に囲まれた斜面の、その途中でまず立ち止まったのはエビルだった。

「……? どうしたんですか江美さん。
 疲れたならおぶって行きますよこの城戸芳晴が!
 さぁどーんと! そのあるかないかの胸を! この俺の敏感な背中に!
 ぶべらっ」
「……おい、何か聴こえないか……?」

何らかの打撃を喰らって倒れた芳晴は無視して、エビルが呟いた。
反応したのはイビル。
続いてルミラも耳を澄ませるような仕草をする。

「はぁ? 虫ケラどもの声しか聞こえねー……って、ん〜?」
「……聞こえるわね、確かに」
「この上の方から……? ううん、下の方から聞こえてくるような……」
「下は地面の中だぞ……」

コリンとユンナには何も聴こえていないらしい。
怪訝そうな顔をしている。

「え〜っと、何……? 『がらわしき……』」
「声が小さいな……『のけんぞく、しん……』」
「あんだって……? 『ちさるがいい……』」

顔を見合わせる魔族三人。
次の瞬間、異口同音に声を上げた。

「……『穢らわしき闇の眷属、神域より速やかに立ち去るがいい』!?」
「それはきっと田心姫神の声ですね江美さんとその下僕たち! べへらっ」

起き上がるや否や、再び謎の打撃で昏倒する芳晴。

「まだ生きてたのかコイツ……ってタゴリヒメ……?」
「この島に祀られてるとかいう女神の名前だったわね」
「じゃ、あんた達出ていきなさいよ」
「出られるもんなら一秒でも早くおさらばしたいっつーの」
「お帰りはあちらになっております」
「断崖絶壁じゃねえか」
「1分で出られます」
「まずはテメエに道先案内させてやろうかクソ天使」

仲が悪い。
そんなこんなでいつも通り揉めている一行だったが、最初に異変に気づいたのは
地べたに這いつくばっていた芳晴だった。

「ん……なんか……揺れてる……?
 地震……地震だ!」

跳ね起きる芳晴。

「大変です江美さん! 危ないから二人で遠くに逃げましょう!
 誰もいない楽園に末永く幸せに避難しましょうほげらっ」

転がり落ちる芳晴。
そうこうしている内に、地震は立っている面々にもはっきりと
感じられるほどになっていた。

「お、おい……」
「この揺れ、ちょっと危ないわね……」
「……落石注意」

揺れは収まる気配をみせない。
それどころか次第に大きくなっているようにすら感じられた。
こうなったら一旦飛んでやり過ごすか、と芳晴のことを無視して
全員の意見が一致をみた、その瞬間。

『出てけって言ってるでしょうがーーーーー!』

山が、爆発した。
舞い上がる土砂と、爆風にも近い風圧に巻き込まれ、さしもの一行も
斜面を転げ落ちていく。

『……って、あ、あれ……? 魔族は……?』

巻き起こる土煙が収まった後、山中にあった筈の祭殿は跡形もなく
崩壊していた。
代わりにそこにあったのは、夜目にも鮮やかに輝く白い人型。
麗しい女性の姿を象ったような、それは巨大な機械人形であった。
声にならぬ声で、機械人形が呟く。

『……こほん。どうやら、随分と永い時を越えたようですね……。
 肩が痛いのは寝過ぎのせいです……歳のせいではありませんよ』

聞いてないですはべらっ
どうやら麓で人間がひとり儚く散ったようだが、女神として祀られた
機械人形は小さなことにはこだわらない。

『……あら、この気配は……カミュも起きているのね……』

遠い空を視認する白い機体。
その背から、大きな翼のようなパーツがせり出してくる。

『どうやら……私も行かねばならないようですね』

輝く翼を広げ終えるや、嵐の如き暴風を起こして羽ばたくと、
白い機械人形は一気に飛び立った。
見る間に小さくなる白い機体。


「な、何だったんだ、今の……?」
「さあ……」
「ホントここに着いてからロクなことが無いよね……」
「うん……」
「大丈夫ですか江美さん! いま人工呼吸をぴぎらっ」
「早く帰りたい……」

後に残された天使と魔族、ついでに人間はしみじみと頷きあうのであった。




城戸芳晴・コリン・ユンナ・エビル・ルミラ・イビル
【状況:シャワーとベッド……】

アヴ・ウルトリィ
【状況:覚醒、沖木島へ】

備考【ナイトライターご一行様の冒険は永遠に不滅です!】
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