やっぱり妹が好き




「う、僕は何をしていたんだっけ?」
気絶から目覚めた春原陽平は、頭を軽く振り、辺りを見回した。
地面には住井が裸で横たわっている。
春原は何をされていたか思い出しぞっとした。
「ひぃぃー! なんで僕は出会ったばかりの男とこんなことしてたんですかねえ!
なにが運命のいたずらだよ! 消えろこの変態男色野郎っ!」

 春原は気絶している住井を蹴り飛ばし、
体に付着した精液を水で流してその場を去った。
「岡崎には女がたくさんよってくるのに、どうして僕はこうなんだよ……
僕だって、僕だって……」
春原はあったかもしれない展開を想像し、現実逃避を始めた。



「杏、今まで黙ってたけど、実は僕杏のことが……」
「はあ? 冗談は顔だけにしなさいよね!」
大量の辞書が飛来し、春原は吹き飛ばされた。
「ぐあー!」



「渚ちゃん、実は僕渚ちゃんのことが……」
「春原さんにはわたしよりもっとふさわしい人が現れると思います」
「たぶん男だな」
「なんでだよ!」



「早苗さん、僕と付き合って下さい!」
「早苗に手を出す奴はお前かーー!」
秋生の鉄拳がうなる。
「ぎゃぁー!」



「春原、お前のその『ひぃぃー!』って顔可愛いな」
「な、何を言ってるですかねえ……」
「次やったらキスするな」
「ひぃぃー!」



「って、何で妄想の中でもこんな目にあってるんですかねえ!
しかも何で当然のように岡崎とか混じってるんだよ!
僕はまともな恋なんて出来るキャラじゃないってことなのか……
想像することすらできないなんてあんまりじゃないか……」

 落ち込んでとぼとぼと歩いてゆく途中、彼の脳裏に一人の少女が浮かんだ。
それはこの島にきて最初に思い浮かべた顔……
「おにいちゃん……」

「それだーーー!」

 春原は急速に生気を取り戻した。
「ははは、妄想なんて出来なくて当たり前だったんじゃないか。
大切な妹がいるのに、それを差し置いて他の人となんて……
僕はとんでもない間違いをしていたよ。ごめんよ芽衣」

 住井に犯されたショックから逃避すべく、妄想はどんどん加速していく。


「芽衣。僕は芽衣が大好きだ」
そう言って芽衣の唇を奪う。
「お、おにいちゃん」
さらに彼女の服に手をかける。
「だ、駄目だよ。わたしたち兄妹なのに……」
「愛があればそんなこと関係ないさ」


 当てもなく歩き続けていた春原は、突如聞こえてきた会話に妄想を中断させられた。
「誰かいるのか?」

「瑠璃子、やっと会えたよ瑠璃子」
「お兄ちゃん」
春原の目に入ったのは、再会の喜びにひしと抱き合う兄妹の姿。

 そう、春原の妹への純粋?なる萌えがこの場に彼を引き寄せた───

「ああ! 会いたかったよ瑠璃子。無事で本当によかった。
もう絶対に放さない。何処にもいかないで、ずっと僕の傍にいてくれ」
拓也の抱擁が強まる。
「お兄ちゃん……苦しいよ」
「瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、
瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、
ルリコアイシテル、ルリコアイシテル、ルリコアイシテル、ルリコアイシテル……」

「なんて美しいんだ!」
おにいちゃんと呼ぶ妹の声、それはなんと甘美なことだろう。
兄と妹、それはなんと素晴らしい関係なのだろう。
妹、妹さえいればほかには何もいらない。

 思わず大声を上げてしまった春原に、拓也と瑠璃子は目を向けた。
「誰だお前は! もしや瑠璃子を……」
春原は拓也の威圧的な視線に萎縮する。
「ち、違います! 僕はお二人の兄妹愛に心の底から感動しただけです!
いやあ、妹ってほんっとうにいいものですね!」
拓也は春原に歩み寄り、がっちりと手をとった。
「……わかってるじゃないか、君!」
「……へ?」

 春原は妹萌えを媒介に、なぜか狂人と打ち解けることに成功した。

「僕は妹の話をするのが大好きでね。まあいわゆる自慢話で恐縮だけど……」
「……お兄ちゃんは私が妹だから好きなの?」
「違う! 違うんだ瑠璃子! 僕は瑠璃子でなければ駄目なんだ!」
そう言って拓也は瑠璃子を抱きしめる。

「妹なら誰でもいいなんて言うやつは妹萌えの風上にも置けない!
妹萌え失格だっ!」
「まったくその通りですっ!」
今ここに、妹を愛する二人の男の熱い友情が結ばれた。


 春原はまだ知らない。最愛の妹は既にこの世にいないということを。
彼に絶望を告げる第2回定時放送まであと5時間半───




 住井護
 【時間:午後11時半ごろ】
 【場所:F−7】
 【所持品:コルトパイソン、仁科の支給品(未定)、支給品一式×2】
 【状態:気絶(アッー)】

 春原陽平
 【時間:2日目午前0時半ごろ】
 【場所:G−8】
 【所持品:スタンガン、支給品一式(水残り少し)】
 【状態:僕、この島を出たら芽衣と結婚するんだ】

 月島拓也
 【時間:2日目午前0時半ごろ】
 【場所:G−8】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:瑠璃子愛してる、瑠璃子愛してる、ルリコアイシテル……】

 月島瑠璃子
 【時間:2日目午前0時半ごろ】
 【場所:G−8】
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:主催者に対抗する、拓也のペースに飲まれ気味】
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