夜風が潮の香りを運ぶ。 海の家から眺める外の風景は、一部の月明かりの注ぐ場所を除き闇としか認識できない。 美坂栞は、そこで静かに佇んでいた。 この海の家、どうやら先客がいたらしく物資については粗方持ち出された形跡があった。 同行していたリサ=ヴィクセンは、今後のことも考え今は食料集めと周囲の探索を兼ねて外出している。 体調が万全とはまだ言えない栞は、正直体力の限界を迎えておりそれに同行することはできなかった。 今、この海の家にいるのは彼女一人。 どうやら辺りに人気はなく、とりあえずは安全だった。 ・・・だが、不安が消えることなんて、ない。 ストールごと肩をぎゅっと握り締め、栞は夕方の放送をもう一度反芻した。 「・・・あゆ、さん・・・」 自分を救ってくれた奇跡の少女。 また、相沢祐一と栞自身の出会いにも彼女の存在がなければ成り得なかったかもしれないことで。 そんな彼女が亡くなってしまった。 ・・・怖くなる。次の放送で、もしまた大切な人の名前が呼ばれてしまったらどうしよう。 チクリ、チクリと蝕むられる心。 悲しみは耐えない、それは栞の心を精神的にも弱らせていく。 ・・・リサがいないことがつらかった。 寂しかった。 この孤独を、味わっていたくなかった。 「早く、早く帰ってきてください・・・リサさん・・・」 ぎゅっと、今度は彼女の支給品であるトンファーを抱きしめる。 海の家で初めて栞の支給品を開いた時、二人は驚愕で動けなかった。 ・・・コルト・ディテクティブスペシャル、それは一丁の拳銃。 本当に殺すことが目的として作られた物が、栞の手に渡ってしまったのだ。 「私が出かけている間、何かあったらそれで身を守れる?」 「嫌です、私、こんなもの持っていたくない・・・っ」 「栞・・・」 「リサさんが持っていってください、その変わりそのトンファーを貸していただければ・・・私は、それでいいです」 「OK,なるべく早く戻ってくるわ」 「はい・・・あと、これも良かったら・・・」 「あら、どうしたのこれ」 「台所みたいな所で。便利そうだと思って、とっておいたんです・・・」 「やるじゃない!栞っ!!ふふ・・・だ〜い、好きっ」 「きゃっ、ちょ、ちょっと、リサさん・・・っ」 数時間前の戯れ。でも、今となってはそれが恋しくて仕方ない。 ・・・あの時渡した八徳ナイフが役に立つ時が来るのだろうか。 栞はひたすら、リサの帰りを待ち続けるのだった。 美坂栞 【時間:1日目午後10時】 【場所:G−9(海の家)】 【所持品:鉄芯入りウッドトンファー・支給品一式】 【状態:不安】 【備考:香里の捜索が第一目的】 リサ=ヴィクセン 【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾6)、八徳ナイフ、支給品一式】 【状態:健康、食料を探しながら周囲を探索中】 【備考:宗一の捜索及び香里の捜索が第一目的】 - BACK