「グッバイ、俺の初恋・・・」 魔犬と共にこの場から離脱した国崎往人を、高槻は一滴の涙を零しながら見送った。 (この後どうすりゃいいんだか・・・) 一人取り残された彼の胸中は複雑だ。 思い返せば、数時間前誓ったのは『ハードボイルドな漢を演出しつつ、ムチムチなお姉ちゃんを美味しく頂く』というものだったのに。 それなのに。 反芻するのはしなやかな肉体とほどよい筋肉。 そして、それとは反比例に柔軟に締め付ける往人の・・・ 「おっと、ここで勃たせる訳にはいかないな。回想中止中止」 とにかく、ここにきて高槻の見方は少し変わった。 即ち。 「『ハードボイルドな漢を演出しつつ、ムチムチなお姉ちゃんと美青年を美味しく頂く』・・・これっきゃないか!!」 ・・・自ら言葉にするには、あまりにもせつない台詞であった。 とにかく人がいないのであれば、ここに用などない。 早速移動を開始しようとする・・・が。 移動するにも周りは森で方角は取れない。 来た道を戻ろうにも、往人を追いかけ適当に走ってきたので自分がどこから来たのかすらも分からない。 ・・・素晴らしい、幸先の悪さである。 仕方ないので適当な方向へ向かって、高槻は適当に歩きだした。 「く、はぁ・・・」 時間を無駄に使いながら森の中をウロウロしていた時である、その呻き声を耳にしたのは。 そっと足を止めてみる、だが声はそれっきり聞こえてこない。 「・・・何だ?」 訝しげに視線を彷徨わせる高槻の視界には、不自然なものは映らない。 それならばと周辺の茂みをあさってみたら、彼はやっとその人影を見つけることができた。 人影は草むらに横たわり、真っ赤な顔で肩を上下させながら呼吸をしている。 一目瞭然、発熱しているようだった。 右腕には赤く染まった布が巻かれているが・・・どうやら、これが原因のようで。大方そこから菌でも入ったのだろう。 「お、こりゃあ・・・って、何だ男か」 白い肌とその幼い顔つきで一瞬騙される高槻であったが、よく見れば女性特有の柔らかい印象は皆無。 据え膳食らわばとも思っていたので、彼の期待は見事に崩されたことになる。 「紛らわしいな、くそっ」 無視して通りすぎようとした時だった。 「・・・待、て・・・」 「ああん?」 細々とした声。周りが喧騒に満ちていたら、きっと聞き取れなかったであろう。 振り向くと、弱々しいながらもこちらに対し睨みをきかせている様子の彼、七瀬彰が目に入る。 「知るか。勝手にくたばってろ」 「・・・・・・・で・・・」 「ああん?聞こえねーよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・行かない、でぇ・・・」 吐息交じりの擦れた声、ただでさえ小さい呟きはそのか弱さを語っているようで。 ・・・・それは、高槻の中の征服欲にも似た背徳的な感情を刺激する。 そう。もしかしてこれは、中々良いシチュエーションではないのだろうか。 今一度彰の元に戻り、前髪を掻き分け彼の顔つきを確認してみる高槻。 (・・・ふむ、いけるかも。) 一方彼が彰を値踏みする間も、彰は彰で必死であった。 何せ、彼が殴り殺した少女の死体がこの先には放置してあるのだから。 (見られるわけにはいかない、今ここで僕のやったことを他人に知られるわけにはいかないんだ・・・っ) 彰の手の甲は今もまだ赤みが残っていて、よくよく考えれば状況を物語ってしまえる現状である。 まずい、今のほぼ無力な自分が敵を作ってしまうのはあまりにも危険だ。 だから、彼は彼で必死だった。その必死さが、高槻の欲望の目に止まってしまうとは気づかずに。 ニヤリ。高槻は気味の悪い笑みを作りながら、身動きのできない彰を抱き上げる。 そして彼の望みどおり、先に進まず今来た道を戻るように歩き出そうとした。 「そこまで言われちゃあ仕方ないな、うん。よーしよし、俺様が面倒見てやろう」 「ふふふのふ、そうは問屋がおろさないんだよ」 「何ぃ?!」 上機嫌の高槻に浴びせられたのは、冷酷な言葉の刃。 気がついたら、彼の前には立ちはだかるように一人の少女が立っていた。 真っ赤に染まる金属バットを構えたその姿に、思わず高槻も萎縮する。 「男の子なんかいらないよ、BLなんかクソ食らえだよ」 「な、何だお前は?!」 「知る必要はないよ・・・男の子なんて、みんな死んじゃえ」 どこか虚ろな表情の少女、神岸あかりの放つ雰囲気の邪悪さに、高槻は腕の中の彰を庇うよう身構える。 こいつは何だ・・・もしかして、不可視の力の使い手か? 高槻が思案する中、意識朦朧な彰も勘づいたのか薄く目を開け事態を確認するよう視線を彷徨わせる。 そんな彰を抱く力を強くし、高槻はあかりの出方を窺うのだった。 「心配するな、お前は俺が守る!」 「・・・・・なんの、話?」 高槻 【時間:1日目午後11時頃】 【場所:E−5】 【所持品:支給品一式】 【状態:あかりと対峙】 七瀬彰 【時間:1日目午後11時頃】 【場所:E−5】 【所持品:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】 【状況:発熱中】 神岸あかり 【時間:1日目午後11時頃】 【場所:E−5】 【所持品:血塗りの金属バット、支給品一式】 【状態:絶賛GLの戦士中】 - BACK