風子と蝋燭




俺達は今夜の泊まる場所を探し平瀬村を歩いてた。
ようやく手頃な民家を見つけ、玄関に移動しようとした時、
向こうの方を見知った少女が歩いているのが見えた。
あれは……

「おいっ、風子!」
「…!」
少女――伊吹風子はこちらに気付き、走り寄ってきた。
「ねぇ岡崎さん、この子誰?」
「こいつは伊吹風子、俺と同じ学校の奴だ」
「へぇーっ、可愛い子ね」
「照れますっ」
その後簡単に自己紹介を済ませた。
みちると風子なら子供同士気が合いそうだな、と言ってやったら、
風子には最悪ですっ、と罵声を浴びせられ、みちるにはみちるキックを浴びせられた。
物理攻撃と精神攻撃、二つを兼ね備えた最悪のコンビが誕生したようだ。

「しかし、三角帽子をかぶってたら本当に寄ってきたな……」
「そんな、風子をライトに集まる虫か何かみたいに言わないでください」
「いや、まさしく光に集まる虫そのものだと思うんだけど」
「そんなことはないはずです。岡崎さんの方が、風子に魅了されて寄ってきてるんです」
「ぜんぜんそんなことは無いぞ」
「あ、もしかして…」
「岡崎さんは風子を探す為にその帽子をかぶってくれてたんですか?」
「ああ、まあな」
「……ありがとうございます」
「おう、無事会えて良かったよ」
言って、ぽんと手のひらを風子の頭に載せてやる。
「わっ…」
ばっと、手で払いのけられた。
もう一度載せてみる。

再び手が伸びてくるが、今度はそれをひょいと避けて、再び載せる。
ばっ、ひょい、ぽん、ばっ、ひょい、ぽん、ばっ、ひょい、ぽん、ばっ、ひょい、ぽん……

「わーっ!」
どんっ
風子は俺に体当たりをかまして、そのまま走っていった。

「ひゃあっ!? どどどこ触ってるのよ!?」
風子は十波の後ろ――尻に隠れていた。
「ひとのおしりに隠れるなーっ!」
「ふーっ…!」
十波の尻に隠れたまま、威嚇してくる風子。

「みちる、十波、よく見とけ、これがあいつの本性だ」
今がチャンスとばかりに、俺は味方を増やそうと試みた。

「おしりに隠れられるのは困るけど……岡崎さん、女の子を苛めたら駄目よ!」
「変人殺人鬼、最悪だね」
……女性陣を全員敵にまわしてしまったようだった。

「…仕方ない。ほら風子、来い」
「………」
風子は警戒しているのかなかなか寄ってこない。
「この三角帽子をやるから、来い」
「!」
それを聞いた途端、風子は態度を一変させて一目散に駆けつけてきた。
その頭に三角帽子を被らせてやる。
「………」
風子は恍惚の表情を浮かべたまま、完全にイってしまわれた。
当分は何をしても反応しないだろう。
「………岡崎さん、この子どうしたの?固まってるんだけど」
「ああ、こいつの癖なんだ、放っとけばそのうち元に戻る。気にせず民家の中へ移動するぞ」


俺は風子を抱えて、そのまま民家の中へと移動した。みちるも十波も続いて入ってくる。
家のリビングは結構広く、4人が寝てもまだスペースには余裕がありそうだった。
「よし、今日はここで寝るか。見張りは交代でしよう」
「うん、分かったわ」

荷物を置いて、食料を探そうとしているところに、声がかけられた。
「この帽子、似合いますかっ、似合いますかっ」
今頃元の世界に戻ってきたようだった。
「それをつける事に関してはお前がナンバー1だ。間違いない」
「照れますっ」
……高校生で三角帽子が似合うというのは、褒め言葉なのだろうか。
若干の疑問は残ったが、気にせず食料を探す事にした。



―――食料調達も無事終え、俺は今見張りをしている。
流石に疲れたのだろう、十波とみちるは熟睡しているようだった。
俺は背中を壁に預け、座り込んでいた。
その時、風子が少し動いた気がした。
「風子、まだ起きてるのか?」
「…はい」
「やっぱ夜は冷えるな…、もっと近くに寄れよ」
「え?」
「少しは暖かくなると思うぞ」
「…分かりました」
風子が近付いてくる。
お互いの肩が触れ合う。
横を向いてみる。

風子の目は、何故かとても哀しげに見えた。
なんでコイツはこんな目をしているんだろう。

……………
…………
………
――――!

俺はある事実を思い出した。
(くそっ……、馬鹿か俺は……!)
放送された中にあった名前。
伊吹公子さん……風子の最愛の姉。
俺は親父の死に気を取られていて、今の今までその事を忘れていた。
俺なんかよりも、風子の方がよっぽど辛い筈なのに、こいつは今までそんなそぶりを全く見せなかった。
今俺に出来る事は……

「…風子、蝋燭をつけるか?」
「良いんですか?」
「ああ、構わないぞ」
机の上に蝋燭を立てて、火を灯す。
部屋が、うっすらとした暖かい灯りに包まれた。
「すごく、キレイですっ」
「ああ、そうだな」
満面の笑みを浮かべる風子。
「クラッカーも鳴らしていいですか?」
「いやそれ、絶対寝てる奴も起こしちまうからな」
言って、腰を下ろす。
風子も横で、腰を下ろした。
「ふぅ…」
二人で再び肩を寄せ合いながら、じっと蝋燭の火を見つめていた。
「……」
蝋燭の火はこんなゲームの中でも、とても綺麗だった。
蝋燭の火はとても小さく、とても儚く見えた……まるでこのゲームの参加者達の命のように。

「なあ、風子」

「…何ですか?」
「お前は俺なんかよりよっぽど強い奴だけどさ、でもこんな時まで無理する事はないんじゃないか?」
「…………」
「辛い時は、泣いてもいいんだぞ?……俺でよけりゃ、胸を貸してやるしな」
「…………ひぐっ」
風子が俺の胸に寄りかかってくる。

「おねぇ……ちゃん……」
風子は泣いていた。
「えぐっ……えぐっ…………」
俺は初めて風子の泣く所をみた。今までどんな時にも涙を見せなかった少女。
こんな小さな体で、俺よりもずっと強い心を持った奴だった。
でも、一番大事な人が死んだ時くらい、泣いても良いと思った。
そんな時にまで強く在ろうとしなくても良いと思った。
だから俺は風子が泣き疲れて眠るまで、ずっと彼女の頭を撫でていた。




【時間:二日目 0:10】
【場所:f-2】 

伊吹風子
【所持品:スペツナズナイフの柄、三角帽子、支給品一式】
【状態:泣き疲れ睡眠】

十波由真 
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】
【状況:睡眠中、後で朋也と交代で見張り】

岡崎朋也
【持ち物:クラッカー複数、支給品一式】
【状況:見張り中、後で十波と交代で睡眠,当面の目的は渚や友人達の捜索】

みちる 
【持ち物:武器は不明、支給品一式】
【状況:睡眠、当面の目的は美凪の捜索】
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