「Oh!このノート、本物だったネッ!」 宮内レミィはそう言って、目の前で倒れ伏せた少女達の生死を確認した。 首筋に手首、どちらも脈拍は感じられない。 このノートに書いてある通り、ただ人の名前を書いただけ。 それだけで、この効果。 「どういうMagicなのカナ。全然分からないヨ」 「そうだな、俺もこの状況がさっぱり分からねえ・・・説明してくれるよな、レミィ」 レミィの背後から響いた声は、彼女も聞き馴染んだ少年のもの。 「ヒロユキ!ハァイ、元気してた?」 「おう、バリバリだぜ。・・・で、これは一体どいうことだ」 「Why?」 「彼女等は、レミィを襲ってきたのか?だから、反撃したのか」 「何のコト?」 「・・・これは、レミィがやったことだろ?」 彼女の近くには二人の少女が倒れていた。動く気配はない。 それは先ほどレミィ自身も確認したことだから、答えはすぐ出た。 「Yes、このデス・ノートに名前を書くだけで人をmurderできるかチェックしたんだヨ!」 「は?」 「だから、このノート!ハイ、面白いヨ、見て見て〜」 レミィが浩之に押し付けたのは、あのボロボロの大学ノートであった。 「何だ、これ」 「拾ったヨ。ここ、人の名前を書くだけで殺せちゃうの!Let's Murder☆」 ビリ。 レミィのはしゃぐ声とそれは、同時に起こった。 ビリイィィ。 レミィの表情が固まるとそれは、ますます大きな音を辺りに響かせた。 「・・・ヒロ、ユキ?」 ビリ、ビリ、ビリ。 浩之は、無言でそれを引き裂いた。 ビリ、ビリ、ビリ。 彼女の話が本当であれ、嘘であれ。もうこれで悲しむ人が出ないように。 ビリ、ビリ、ビリ。 レミィはただ、それをぼーっと見つめていた。 浩之の行動を、止めようとはしなかった。 「はぁ、はぁ・・・」 風が吹く。紙ふぶきとなり、ノートの断片は目の前から掻き消える。 そして、それは舞散る花びらのように、島全体に広がっていった。 「Oh・・・モッタイナイ。」 「ああ、そうだな。レミィが言うとおり、もしあのノートに書くだけで人を殺すことができたんなら、このゲームはお前で優勝間違いなかっただろうな」 はぁ、と一つ溜息。 浩之は、レミィの目を覗き込むようにして・・・言った。 「なぁ、お前さ、本当にいつものレミィか?」 「ン?当たり前ヨ」 「いやさ、ほら。お前、弓矢持つと豹変すんじゃん。それじゃないのか?」 「???」 「そっか、・・・そっか。まいったな」 ポリポリ、頭をかく。 どう対処すればいか・・・彼は、思いつかないでいた。 大声で叱咤すればいいか、真面目に説き伏せるべきか。 だが、どちらもする気にはなれず。 あまりにも、彼女は無垢で純粋な・・・いつものレミィだったから。 だから、浩之はこのような問いかけしかできなかった。 「レミィはそれで、いいと思ってるのか」 「ン?当然ヨ」 即答。あまりの清々しさに二の句が告げない。 そして、それに続いたのはまたもや予想だにしない言葉。 「だって、これは夢ダモノ」 「・・・は?」 浩之の声が間抜けに響く。 レミィはいつもの、あのニコニコとした懐っこい表情で話し続けた。 「明日起きたら、いつものようにオハヨーって皆と会えるから大丈夫ネ。 この子達もそう、今回はゴメンナサイ。でも、今度会ったら謝るヨ、ちゃんと!」 呆気に取られる。気がついたら、苦笑いしかできない自分がいた。 「・・・そうか。レミィがそう言うなら、俺は止められないな」 「そうヨ、ヒロユキ。今日のワタシは一味違うネッ」 痛感。自分の言葉は、レミィに届かない。送らずとも分かる。 そう。だって、こうやってやり取りしている間に、レミィはこちらに向けて弓を構えてきたのだから。 矢もセット済み、それはいつでも放てる状態で。 もう、浩之にできることはなかった。 ・・・正気のようで正気ではない彼女をどう説得するか、思いつくことができない自分は惨めだった。 だから、彼は微笑んだ。 せめて、彼女の夢が悪い形で覚めないようにと、一抹の望みを含ませて。それは、情けであり、同情でもあった。 「じゃあな、レミィ」 「ウン!グッバイ、ヒロユキ」 「また、明日」 ヒュンッと矢が放たれる。それは、一瞬の出来事。 狙い通り、レミィの矢はしっかりと浩之の眉間を貫く。 外すつもりなど、毛頭ないことが窺える一撃だった。 「ウ〜ン、もう疲れたネ。そろそろ休もうカナ〜」 つかつかと動かなくなった浩之に近寄り、はじめに殺した少年よろしくレミィは躊躇なく矢を引き抜いた。 溢れる彼の血にも気を止めずそこから歩き出す彼女は、やはりいつも通りの明るさのままのレミィだった。 だが。ここにきて、ふと罪悪感という感情も出てくる。 『あたし皐月、この子繭。今さ、人を集めて脱出図ろうと思ってんのさ! よかったら、手伝ってよん』 『みゅ〜〜♪』 『わ、イタタっ!髪、引っ張らないで〜』 それは、結局数分しか保たなかった仲間に成り得たかもしれない少女達の声。 そして。 『また、明日』 大切な、友人の声。 「ウン、また明日ネ、ヒロユキ」 大丈夫、目が覚めたらいつもの部屋で、いつもの毎日が待っているはずだから。 草むらにごろんと横になり、レミィは静かな眠りについた。 宮内レミィ 【時間:1日目午後9時過ぎ】 【場所:F−8】 【所持品:和弓、矢・残り5本(回収したので)、他支給品一式】 【状態:ゲームに乗っている】 藤田浩之 死亡 椎名繭 死亡 湯浅皐月 死亡 支給品は全て放置。 - BACK