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ようやく渚が少しだけ落ち着きを取り戻したころ、佳乃がそれを見計らって言った。
「お墓…作ってあげようか」
その言葉に渚ははい、と返事して父の体を持ち上げようとする。しかし、それはあまりにも重過ぎて引きずって行くことすら出来ない。佳乃と二人掛かりでようやく外へ引き摺っていくことが出来た。
「ふぅ〜、次は早苗さんの番だね…」
「…はい。急ぎましょう」
涙声ながらもしっかりと口に出す。佳乃はうん、と言い急いで早苗の体を持ち出す。秋生ほど体が重くなかったが、二人の心にはそれ以上のものがのしかかっていた。
秋生の隣に寝かせた後、佳乃は穴を掘る為のスコップを持ってこようとした。
「あの、ちょっと待ってもらえませんか?」
「え? 何? どうしたの」
「その…もう一人の方も一緒に埋めてあげようと思うんです」
渚の言葉に目を見開く佳乃。
「どうして!? だって、この人たちがキミのお母さんやお父さんを殺したんだよ!?」
「…確かにそうです。今でもこの人を許す事はできません…ですけど、亡くなってしまわれたのなら誰だって平等に弔ってもらう権利があります。…それはわたし一人の思いとは別な事だと思いますから」
渚はそこで一呼吸置き、
「それに、たぶんもうお父さんはその人と仲良くやっているころだと思いますから」
今出来る限りの精一杯の笑顔で渚は答える。
「分かったよ…キミがそう言うなら、私はそれに従うよ。…それじゃ、運んであげようか」
それから葉子を運び終えた後、二人は診療所にあったスコップを持ち出し穴を掘り始めた。二人とも非力なせいで作業は遅々として進まない。
気がつけば、既に夕日は沈み夜の世界になっていた。それにもかかわらず半分ほどしか作業は終わっていない。渚も佳乃も汗と涙、そして土で顔は汚れきっていた。
そんな時に、二人とも――いや正確には渚は知らないのだが――存在を忘れていた少年がようやく帰ってきた。


「…おい、何だよ、これは? 何があったって言うんだ?」
帰ってきた宗一の目の前にあったのは、つい先程まで共に過ごしていた仲間の遺体、そして食料調達の合間に出会った男の姿だった。
宗一の存在にようやく気がついた佳乃が、あ…と小さく声を漏らす。
「宗一くん…」
渚は眠っていたので宗一のことは知らなかったのだが、佳乃が名前を呼んだことからきっと敵ではないのだろう、と判断した。
宗一は呆然としながらも調達してきた食料を二人の前に置き、その中からおにぎりを取り出しながら二人に尋ねた。
「…これを食べながらでいいから、順を追って説明してくれ」
     *     *     *
渚と佳乃から一部始終を説明され、宗一はまたしても自身の行動に後悔した。
どうして、あの時俺はあの視線の意図に気がつかなかった? あの二人は妙に俺を気にしていた。もし診療所に残っていたら、少なくとも、この二人は死ぬ事は無かった。
「クソッ!」
宗一が拳を地面に叩きつける。ゆかりだけに留まらず仲間を守れなかったことに対して。自らの無力さに激怒して。
「俺がっ、俺があんなことさえしなけりゃ! 何が世界一のエージェントだよ、そんな肩書き、何の役にだって立ちやしない…ちくしょう!」
「宗一くん…」
佳乃がかける言葉を見つけられずにいると、渚が横から声を出した。
「あの、そんなに自分を責めないで下さい」
地面に顔を向けていた宗一が渚に顔を向ける。
「わたしは、あなたのことはそんなに知りませんが…ですけど、わたしたちのためにこの食べ物を持ってきてくれたんですよね。でしたら、その行動はきっと無駄じゃないと思います。
もし食べ物を持ってきてくれなかったら、きっとわたしはお腹が空いてお父さんとお母さんのお墓を作ってあげられなかったと思います」
えへへ、とほんの少しだけ笑いながらおにぎりを口にする渚。
宗一は心が落ち着いていくのを感じた。
(両親を目の前で殺されたって言うのに…励まされてるのは俺のほうじゃないか。しっかりしろ、俺! そうだ、まだこの二人は生きてる。だったら、この二人を最後まで守り抜く!)


拳を作って思いきり自分を殴った。頭が揺れるほどの衝撃が宗一の気を元に戻した。
「…ありがとうな。目が覚めた。これからは絶対に何があっても後悔しない」
立ちあがって、側に置いてあったスコップを手に取る。
「まずは埋葬を済ませよう。俺にかかれば、こんなもんすぐに終わるぞ」
怒涛の勢いでざくざく穴を掘り始める宗一。渚と佳乃がおおー、と感心した面持ちで見ていた。
十分もしないうちに、三人分の墓が出来あがった。
「さて、後は埋めるだけだ。何かやり残したことは無いか」
「あ、少しだけ待って下さい」
渚が三人の死体に近づき、互いの手を握り合わせた。それから手を合わせる。
(お父さん、お母さん、行ってきます)
短く祈りをささげた後、渚が宗一に向き直る。
「もう大丈夫です。埋めてあげましょう」
渚の言葉に頷いて、三人がかりで墓に埋めてやった。
「…さて、これからどうするか。このまま診療所に残るか、それともどこかに移動するか」
宗一の言葉に、佳乃が手を上げる。
「あのね宗一くん。私はここに残った方がいいと思うな。お姉ちゃんのことは気になるけど、焦っても見つかるわけじゃないし…それに、すごく疲れたから」
渚も佳乃も、墓作りで疲労困憊だった。宗一はそれを汲んで今晩は診療所で休憩することにした。
「…そう言えば、まだお前には自己紹介してなかったな。俺は那須宗一」
「あっ、私もまだキミには自己紹介してなかったよね。霧島佳乃だよ。これからもよろしくね」
「わたしは…渚、古河渚です。よろしくお願いします、那須さん、霧島さん」




霧島佳乃
【時間:午後7時30分】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:疲労困憊】

古河渚
【時間:午後7時30分】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:疲労困憊】

那須宗一
【時間:午後7時30分】
【場所:I−07】
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、おにぎりなど食料品】
【状態:健康。渚と佳乃を守る】

【その他:早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。秋生の支給品も室内に放置】
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