タイミング




「こいつは相当やばい感じがするナ……」
場所はホテル跡511室。
エディは血に染まった手帳を閉じながらそう言った。

「少年……何者やの……?」
「そいつはまだ分からなイ。手帳の少年が名簿の少年と同一人物なのかも分からなイ。
それでも警戒するに越した事はないナ」
花梨がエディ達の所に戻った後、彼女を待っていたのは叱責ではなかった。
二人とも手帳の内容の解明に追われ、それどころでは無くなっていたのだ。
しかしいかんせん読み取れない字が多すぎる。511室も隅から隅まで探したが、新しい発見は無かった。

「でも、鍵って何を開くもんなんやろうな?」
「もしかして脱出経路を開く鍵とか?それだったら助かるんよ!」
「いや、残念ながらそれはないだろウ……、主催者側はそんな物を用意する意味が無いだろウ」
「やっぱそんな美味しい話はあらへんか…」
溜息をつく智子と花梨。
「まあそんなに落ち込むナ、この宝石が何か重要な役割を持ってるのは間違いないだろうしナ」
「宝石が鍵になるって、ミステリの匂いがぷんぷんするんよー」
「まあとにかく今日は休憩だナ、今無理しても体力がもたなイ」
「それじゃ移動せえへんか?1階で泊まった方が万が一の時逃げやすいやろ」
「そうだナ」

エディを先頭に階段を降りる。
そして彼らが階段を一階まで降りた時、フロントの方から声がした。
「これは……サツキちゃんの声じゃねぇカ!」
エディが嬉々としてフロントへと飛び込む。
その時一発の銃声が鳴り響いた。






――――皐月達はホテル跡のフロントで立ち尽くしていた。
「―――今、なんて?」
「残念じゃが、放送で呼ばれた中におまえさんの探し人の一人―――伏見ゆかりさんの名前があったのじゃ……」
その言葉に皐月の頭の中が真っ白になる。
「ゆか…り……」
脳裏に親友の顔が浮かぶ。
目から涙が溢れる。震えが止まらない。何も考えれない。
「ゆかりぃぃぃ!!」
私はこんな状況でも絶望していなかった。
宗一がいるから。きっと宗一なら、何とかしてくれると思っていたから。
また宗一とゆかりと3人で元の生活に戻れると信じていた。
それが、その希望が早くも砕かれた。目の前の景色が歪む。

「!?」
そんな時、奥の廊下から誰かが飛び出してきた。
敵だ!
私は反射的にその影に向かって銃を引いた。


ダァァンッ……


「エ…?」
その場にいる全ての者が固まっていた。
目の前で起きた惨事が理解できずに。
皐月の銃の銃口から煙が上がっている。
――銃弾は、エディの腹を貫いていた。
エディが、腹部から血を迸らせスローモーションのように、
ゆっくりと倒れた。

「え……エディさ…ん?」

皐月は飛び出してきた相手が誰か、ようやく気付いた。
それは彼女もよく見知った男であった。

「そんな…私敵が来たと思って反射的に……」
後30分再会が早ければ、後30分再会が遅ければ、無事に再会を果たせたはずである。
だが、タイミングが悪すぎた。
極端に不安定な態精神状態になっていた今の皐月にとって、
何者かの急な乱入は引き金を引くのに十分過ぎる理由だった。


エディは倒れたまま動かない。
その腹からはとめどもなく血が溢れてきている。
「嘘……嘘でしょ……?」
皐月は現状がまだ理解出来ない。いや、理解出来ても認める事が出来ない。
自分がエディを撃ったという事実を。
「あんた…何やっとんのや!!」
ようやく智子が状況を飲み込み、専用バズーカ砲を皐月に向かって構えた。
「いや…いやぁぁぁぁぁっっ!!」
それを見た皐月は錯乱しながらホテルの外へと駆け出していた。
彼女は恐怖と自責の念に支配されていた。

「待たんかい…この…」
「ダメ!エディさんの治療が先なんよ!」
花梨は皐月を追おうとした智子を制した。
智子がエディの元へと駆け寄る。
「エディさん、大丈夫かいなっ!?」
「こいつ…は、まずい…かもナ…」
エディは吐血しながらも何とかそれだけを口にした。

「は、早くしないと…そこの二人も救急道具探すのを手伝ってよぉ!」
花梨に言葉で幸村もこのみもようやく硬直が解け、慌てて救急道具を探し始めた。



「あかん…あかん……止まらへん!」
血が止まらない。真っ赤な血が溢れ続ける。
仲間が放った弾による傷から血が吹き出し続けている。
エディの体からは急速に体温が失われていっていた。




【場所:E−04】
 【時間:1日目18時30分】
幸村俊夫
【所持品:支給品一式】
【状態:動揺】

湯浅皐月
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾7/10)、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×2)、支給品一式】
【状態:混乱、逃亡】

柚原このみ
【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】
【状態:動揺】

ぴろ
【状態:健康。フロントに置いていかれた】



笹森花梨
【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石、手帳】
【状態:動揺】

エディ
【所持品:支給品一式、大量の古河パン(約27個ほど)】
【状態:腹を撃たれ瀕死】

保科智子
【所持品:支給品一式、専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾】
【状態:動揺】
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