「なんだ、なんだよこれ!」 いきなりの焼きつくような熱と光に視界を奪われ、雄二たち一同は混乱していた。 同様に状況把握も出来ずに右往左往とうろたえる一同の隙を良祐は見逃さなかった。 にやりと頬を上げると、ドラグノフを抱えると身を隠していた木から身体をそっと乗り出す。 武器らしい武器が確認できるのは一人。 隠し持っているのかもしれないが、混乱しているこの状況ですぐさま取り出し自分に向けて攻撃など出来ないだろう。 当たりをつけたのはベレッタトムキャットを持つ月島瑠璃子―まっすぐに銃口を向け「あばよ」と呟いた。 「皆さん右です!」 だが、トリガーを引こうとしたその瞬間上がった思いもよらぬ声に銃口はぶれ、 銃弾は瑠璃子を討ち貫くことは無くその頭上を超えていった。 「銃!?」 目を押さえながらも発せられる雄二の叫びに、良祐はチッと舌打ちをする。 問題はそれよりも今の声だ。 その主のほうを睨みつけるように確認すると、そこにはモップという場違いな武器を抱えている一人の少女…マルチ。 ブルブルと震えてはいるものの、その目はキッと自分を睨みつけていて苛立ちを募らせた。 糞、何故あいつは平気なんだ! ロボットであるマルチにスタングレネードが効かなかったことなど良祐は知る由も無く、 理由の是非はともかく自分を視認できているマルチを一番の障害と一瞬で認識し、銃口をマルチに向けた。 だが、マルチの行動が一瞬だけ早かった。 目の前は真っ暗になり、良祐の頭に割れんばかりの衝撃が響いた。 何が起きたかもわからずドラグノフを落とし、両手を当てながら悶絶する。 ドサッと良祐の足元に転がったのは、マルチにより顔面に投げつけられたモップだった。 当の本人は当たると思っていなかったのか困惑の表情を見せていたが、すぐ我に変えると再び叫んでいた。 「みなさん! いまのうちに!」 腰を抜かしたままへたりと座り込んでいる沙織の手を取り、マルチは叫ぶ。 その声を頼りに雄二も手探りにマルチの身体を掴み駆け出した。 そんな中、瑠璃子は視界を奪われた状況でも一人冷静に思案していた。 敵、銃を持っている、誰を狙っていた? 決まっている、私だ。 この中で狙うとしたら目に見えて武器を持っている自分を真っ先に狙うだろう。 どうする? 撃つ? 逃げる? 弾数が限られている中、非力な自分が勝ち残るためにはこれは大事なところで使わなければならない。 普通に撃って当てれる自信も無いのにこんな目が見えない状況で当てれるはずも無い。 だからと言ってこの状況で逃げ切れる…? 「ふざけるな、餓鬼どもぉっ!」 顔面を押さえながらヨロヨロと立ち上がった良祐の怒号が飛ぶ。 思考はかき消され、その声に反応して瑠璃子は銃口を良祐に向けた。 勿論前など何も見えていない。 だがこうしていても圧倒的に自分達は不利だろう。 そう悟った瑠璃子は運にかけた。 ドンッと弾丸は飛び出されたものの、それは良祐の身体とは見当違いの方向へと飛んでいく。 「!?」 再び耳に響いた銃声に雄二は焦りながら走るスピードを速めた。 マルチも同様に後ろを振り返ると、ついて来ているとばかり思っていた瑠璃子が未だ先ほどの場所にいるでは無いか。 「瑠璃子さん、こっちへ! 雄二さん、このまままっすぐ走ってください、沙織さんをお願いします!」 沙織の手を雄二に握らせ雄二が頷いたのを確認すると、踵を返して瑠璃子の元へ駆け寄るマルチ。 その間も瑠璃子はゆっくりと下がりながらも銃弾を発射していた。 二発、三発、四発と撃ちだすも無情に空へと消えていく。 顔面が割れるように痛む中、憎悪に満ちた顔で瑠璃子を睨みつけながら良祐は零れ落ちたドラグノフを拾う。 一瞬で殺してほしかったと哀願するくらいの惨めな苦痛を与えてやる。 そう考える彼の怒りはもはや収まらなず、ゆっくりと銃口を瑠璃子に向けた。 トリガーに手をかけた彼の思惑は、思いもよらぬ出来事によって再び遮られた。 自信の周囲が青白く光っていることに気付く。 …なんだ! 足元にはどこかで見たことのあるような図形が広がり、良祐を包んでいる。 そして考える余裕も与えられず、それは良祐の身体に強い衝撃と共に舞い落ちた。 「ぐぉっ!!」 頭上から振ってきた人の姿に良祐は体制を崩す。 その声を瑠璃子は聞き逃さなかった。 ダンッ ダンッ ダンッ カチカチカチ... 「ぐあぁぁぁっ!!」 間発いれずに全弾を撃ち尽くす。 その中の一発が良祐の左太ももにめり込み、苦悶の表情を上げながら倒れ込んだ。 「瑠璃子さん、早く!」 良祐は瑠璃子の手を取り逃げていくマルチを、足を押さえながら必死に追った。 だが襲い来る激痛が自身の身体をうまく操ることが出来ず、苦渋に満ちながらも良祐は追跡をそこで諦めた。 瑠璃子だな、覚えたぞ! お前だけは絶対に俺の手で殺してやる、何があろうともだ! 足を引き釣りながら元いた場所に戻るとそこにで良祐が見たものは地面に横たわり、気絶している一人の女性だった。 気絶しているのか、死んでいるかのようにピクリとも動かない。 たった今起きた、思い出しただけでも腹にすえる出来事が良祐の癇に障った。 人の狩りを邪魔しやがって! ドラグノフの銃口がまっすぐと女性に向けられる。 苛立ちを隠すことも無く、乱暴に発射された銃弾は心臓へと一直線に吸い込まれ 口から少量の血が吐き出されると共にそのまま女性は絶命した。 「…くそっ、とりあえずこの傷を何とかしないと…」 溢れ出る血を押さえ、転がるバックを手に取ると、良祐はゆっくりと立ち上がり引き釣りながらもその場を去っていくのだった。 残されたのは一人の女性…ユンナの死体。 何が起きたのかを理解することも無く、苦痛を感じることも無く、到着直後に彼女はゲームからリタイアすることになった…。 向坂雄二 【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】 【状態:逃走】 新城沙織 【所持品:フライパン、ほか支給品一式】 【状態:逃走】 マルチ 【所持品:支給品一式】 【状態:逃走】 月島瑠璃子 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数0/7)、ほか支給品一式】 【状態:逃走】 巳間良祐 【所持品1:89式小銃 弾数数(22/22)と予備弾(30×2)折りたたみ式自転車・予備弾(30×2)・支給品一式x3(自身・草壁優季・ユンナ)】 【所持品2:スタングレネード(1/3)・ドラグノフ(残弾8/10)・H&K SMG U(6/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5】 【状態:右足を激痛、描かれて無い所持品はそのへんにおいてあるはず】 ユンナ 【状態:死亡】 共通 【場所:I−7】 【時間:午後7時40分】 【備考:雄二たちが合流できたかどうかや逃げた先、良祐の行き先などは不明】 - BACK