ノートの行方(後編)




「…うーん、やっぱだめだね」
「…同じく」
言いながらコリンとユンナが目を開け、身体を覆う光が収束する。
「ちゃんとやってんのかよ?」
「やってるよ!」
イビルの顔はやっぱりなと言ったようにあきれ返っており、頬を膨らましながら必死に反論するコリン。
そしてその答えを聞いたエビルの表情は曇っていた。
「すまなかったな芳晴、無駄な時間をとらせた」
「ちょっ、無駄って言い方はないん…」
エビルに向かって言いかけながらも、隣のルミラの形相に開けた口がパクパクと動くだけのコリン。
「無駄なんてそんな、力になれなくて申し訳な…」
「本当だよ」
「本当ね」
またしても芳晴の言葉は二人の無慈悲な言葉によって遮られる。…グウの音も出ない。

「ちょっとちょっと、待ちなさいよ!」
当てが外れたわねと苦笑しながら、エビルの肩を抱いて部屋を出ようとするルミラを
コリンが小さな身体をバタつかせながら必死に呼び止める。
「まだまだこれからなんだから!」
「へーぇ」
言い切ったコリンの前にゆっくりと足を進ませるルミラ。
白く長い右腕をコリンの顎に伸ばしゆっくりなぞると、妖艶な笑みを浮かべる。
「後は何が出来るのかしら? お・ち・び・ちゃ・ん?」
流れるような淫靡なしぐさに、情け無いと思いながら鳥肌が抑えられず芳晴は思わず腰を抑える。
コリンも同性ながら同じ感情を抱いたのだろう。
だが負けん気のほうが勝ったようで、顎をくいっと振りルミラの手を跳ね除けながら言う。
「力がダメならここよ、ここ」
ふんぞり返りながら自身の頭を指差す。鼻息は荒く得意満々といった顔だ。
「何か詰まってたっけ?」
ズデン! と思いっきり背中からた俺込むコリン。


お約束というかなんというか、律儀な奴だ…狙って無いだろうけど。
「…ルミラさんルミラさん」
芳晴がルミラにそっと耳打ちをする。
「ん?」
「あいつ単純なんだからあんまり煽らないでください…」
「だっておもしろいじゃない?」
「後で泣くのは俺なんですから…」
「…聞こえてるんですけど?」
さすがだ。
自分の悪口は絶対聞き逃さない地獄耳。
芳晴は全てを諦めた。
とにかく自分に出来ることはたった一つしか無いと悟る。
考えた瞬間に身体はすでに動き、そして地面に両手をついてはいつくばっていた。
「頼む! なんでもするからっ!」
一同の時間がほんの一瞬だけ止まる。
「ホントに土下座したよ…」
ポツリとイビルが呟いた言葉をかわきりに巻き起こる爆笑の渦。
耐えろ、耐えるんだ俺。今俺が耐えれば全てが丸く収まる。
あぁ、江美さんまでそんな笑って、そんな笑顔出来る人だったんだ…ってちがう!
いやいかん、ここで顔を上げたら何も変わらないじゃないか。
俺は石だ、何も聞こえない、何もわからない、今起こってることは全て夢だ。
だが、じっと耐えるその姿に漢を感じるものは誰もおらず笑い声だけがこだましていた。

ひとしきり笑って満足したコリンは、またもふんぞり返りながら自論を語り始めていた。
「ま、困った時は考える。知恵が人類を進化させてきたんだから」
必死に目配せする芳晴に同情の視線を送りながらも、今度はルミラも何も言わず言葉の続きを待つ。
「人類の知恵って言えば、道具を使えると言うこと。はい、それじゃ道具と言えば? 3、2、1、はい」
ビシッと一直線に芳晴を指差す。
「へ?」
「はいブブー」


唯我独尊すぎて頭がついていけない。
「いつものあの店に決まってるじゃない。ほんっとばかね…。
 とりあえずは行動ってことで行ってみましょ、なんか良い方法あるかもだし」
結局人任せかよ…。
喉元まで湧き上がってくる言葉を必死に飲み込んで耐える芳晴の姿はまさに天晴れと表現するしかなかった。


「――と言う訳なんです」
死神のノートを探したいと告げられたショップ屋ねーちゃんは胸を弾ませていた。
記憶が正しかったら、裏ルートで入手したそれらしきものを依頼の品に混ぜて送った記憶はある。
ノートから感じていた魔力と目の前の女性から発せられる魔力がまったく一緒なのだからほぼ間違いないだろうとも考える。
しかも自分達から探しに行きたいとまで言っている。
まさに鴨がネギをしょってきた状態の展開に、どうやって集めようか必死に悩んでいたわけだから文句のあるわけも無い。
多少人数が少ないが、出来るだけと手紙にはあったし六人もいれば十分であろう。
喜びを表面に出さないように、冷静に振舞う。
「場所の特定は出来ないけれど、それ自体の存在は感じることは出来る?」
「…ああ、おぼろげだが」
ショップ屋ねーちゃんの言葉にエビルは一度目を閉じ集中すると、頷いて返す。
「それなら良いものがあるよ」
そう言いながら取り出したのは、一枚の純白のシート。中央には青白く光りながら魔法陣が描かれていた。
「特定の魔力に反応して、物体を移動させる不思議アイテム、応用すれば探したいものの魔力のところへ飛んでいける優れもの」
「へぇ…」
ご都合主義な気もするが、この人はドラ○もんだと思えばたいした問題では無いだろう。芳晴はそう自分を納得させる。
「特定できて無いから周辺になるとは思うけど、大丈夫でしょ。あとこれ、首につけて」
手渡されたものは、これまた今度は魔法とは縁がなさそうな機械めかした首輪。
「魔方陣と同調させやすくするためのアイテムだから絶対外さないで、勿論移動してからも」
カチャカチャと無機質な音を立てながら首輪をはめる一行を尻目に、流れるような作業で奥からバックを取り出すと各々に手渡す。

「で、これは向こうに飛んでから必要そうなものを入れておいたんだけど。あ、これはサービスで」
妙に手際がいいのは気のせいだろうか?と不安を覚える芳晴。
実はこの魔方陣、初施行で実験台にされるんじゃないだろうな。
落ち着いて考える間も与えないまま着々と準備を進めるショップ屋ねーちゃんは
全員の手を握らせ、テキパキと指示を出す。
エビルは目を瞑って言われたとおりに意識を集中しだした。
するとどうか。魔法人の放つ光が天を指し、全員の身体が包まれボンヤリと青白く輝きだした。
それに合わせて目を瞑り精神を集中させるように、意識を落ち着かせる。
頭の中が真っ白になっていく感覚を覚え、全身から力が抜けていく。
突如脳天から全身が引っ張られ宙に浮くような錯覚にとらわれ、全身に強い衝撃と同時に芳晴の意識は闇へと落ちていった。

「ふぅ…」
転送は成功したようで、眼前から六人の姿は忽然と消えていた。
後は向こうに本当についているかの確認。
受話器を取ると、手紙に書かれていた番号をゆっくりと押す。
Prrrrr...Prrrrr...
短いコール音の後、男とも女とも取れない甲高い声で『もしもし』とだけ発せられた。
裏の世界の人間を相手に声がどうこうとかはさいたる問題ではなく、営業用口調で返した。
「もしもし、ご依頼の件のお伺いしたいのですが、頼まれた人間は送れたと思うのですが」
『あぁそのようだね。お礼を言うよ、ありがとう』
「で、報酬のほうはいかほどで?」
『…気が早いね』
「それだけが取り柄でして」
肩透かしなどはくらいたくも無いし、こう言う交渉は迅速に済ませて忘れるに限る。
『今すぐにお届けできると思うよ。多分生涯で二度と見れないほど綺麗な花火だ』
「花火?」
ちょうどその時、机の片隅にポツンと置かれたボストンバックが、小さくカチ…カチ…と音を立て始めた。
『ほら言ったよね? あなたはゲームから除外するって』
「え…それは一体どう言う意味……」

ドガァァァァァァァン!!

あたりはつんざくような爆音に包まれ、ショップ屋ねーちゃんの言葉は最後まで語られることは無くかき消された。
店の中はボロボロに焼け焦げ、弾け飛び、生きてるものはそこにはいなかった。
だが、誰もその店の存在がわからない現状、彼女の死を知るものもまたいなかった。
たった一人、主催者を除いては…。


―気が付くと芳晴は見知らぬ灯台の頂上に倒れていた。
全身が強く痛い。気絶でもしていたのだろうか。
辺りには誰の姿も無く、眼前に広がる月と星空と海だけが芳晴を見つめていた。
訝しげに思い、そしてある事実に気付く。
――エクソシストの力が働かない
「まぁ…良いか」
元々生活にその力を依存していなかった芳晴はさも気にして無い様子で起き上がり、とりあえずどうするか考える。
「とりあえずみんなを探すかな」
江美さんに会いたい、コリンはうるさそうだな、最初に出会うのがもしもルミラさん達だったら何を話そう。
いろいろな考えが頭の中を巡りながら、芳晴は灯台を降りていった。




城戸芳晴
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:エクソシストの力使用不可、他のメンバーとの合流、死神のノート探し】

コリン
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:天使の力使用不可、死神のノート探し】
ユンナ
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:天使の力使用不可、死神のノート探し】
エビル
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:死神の力使用不可、死神のノート探し】
ルミラ
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:吸血鬼の力使用不可、死神のノート探し、暇潰し探し】
イビル
【持ち物:支給武器不明、支給品一式】
【状況:悪魔の力使用不可、死神のノート探し、暇潰し探し】
ショップ屋ねーちゃん
【状況:死亡】

時間【二日目0:00頃】
備考【身体能力お任せ】
   【特殊能力ほぼ制限で同上、特にルミラは治癒能力は多少あっても不死能力は無しのように、ちゃんと死ぬ設定で】
   【芳晴・コリン・ユンナはノートがどのようなものかは知らず、エビル・ルミラ・イビルは知ってます】
   【芳晴のスタート場所はI-10琴ヶ崎灯台、それ以外のキャラのスタート場所はお任せ】
   【島へ飛んだ時間は1回放送後、到着時間は各自誤差あり。芳晴は気絶していたので上記の時間】
   【前編同様17関連の死神のノートがあるルート全て】
-


BACK