永遠にブルー




「はぁっ……はぁっ……」
「くぅ……っ!」

夜闇に沈む森の中。
人目を避けるようにして濃厚な愛撫を交し合う二つの影があった。
弾む吐息が、行為の激しさを物語っている。

「はぁっ……ところで、何で僕たち縁もゆかりもないはずなのに
 こんなんなっちゃってるんですかねえっ!?」
「いや、俺に聞かれても……くっ!」

全裸で絡み合っているのは、春原陽平と住井護だった。
主に下半身が色々と筆舌に尽くしがたいことになっている。

「……あえて言うなら……愛?」
「僕ら会って20秒くらいで服脱いでましたよねえっ!?」
「そんな気もするな……」

二人の出逢い……それはかれこれ数時間前に遡る。



「………浩之くん、陽平くん、わたし、聖闘士じゃないよ……」

立ち止まった少女、川名みさきが困ったような顔で呟く。

「ま、そりゃそうだろ……」
「うーん、でも誰かに尾けられてるってのは気分良くないわね」
「いっそこっちからアプローチしてみるってのはどうかな」
「そ、それはいくらなんでも危ないんじゃないかな?」
「るー」

しかしみさきは、口々に意見を言い合う同行者たちの方を向くと、
真剣な顔で口を開いた。

「聖闘士は君たちだよ、浩之くん、雪ちゃん、るーこちゃん……」
「……は?」

目を点にする一行。
みさきは気にした風もなく続ける。

「わたし、気づいちゃったんだよ……実はわたし、女神アテナの
 生まれ変わりだったんだ」
「何ィ!?」

衝撃の告白に驚愕の色を隠せない浩之たち。
しかし、そう言われてみればそんな気もしてくる。

「後光が射してる……ような気がするな」
「昔っから、みさきは只者じゃないような気はしてたけど……」
「何だかわからないがすごいんだな、うーさきは」
「ちょ、ちょっと皆さん? 何で普通に受け止めてるの!?」

周りの人間のテンションについていけない春原。
そんな春原を置き去りにするように、会話は続く。

「そうか……俺って聖闘士だったんだな……」
「実は昔、ちょっと憧れてたんだ」
「それで聖闘士って何だ、うーへい」
「あー……えっと、聖闘士っていうのはね」

少年漫画の説明を始める春原。
当然のように彼を置いて話は進む。

「そういえば、アテナって○織さんじゃねえの?」
「それは先代だよ」
「え、じゃ沙○さんどうなっちゃったんだよ」
「それは秘密だよ」
「じゃ、じゃあ聖○とかは?」
「それも秘密だけど、みんなすごいことになっちゃってるね」
「き、気になるわね……」
「そうか、聖闘士というのはすごいんだな……るーも聖闘士なのか、うーさき」
「そうだよ、よろしくね」
「いやその、僕には何がなにやら……」

無視される春原。

「私、射手座なのよね……伝説の黄金聖闘士なんて、やっぱり私には
 最強が似合うってことかしら?」
「雪ちゃんは顔がこわいから牡牛座」
「あんた私の顔見たことあったっけ!?」
「ほらこわい、やっぱり牡牛座だね」
「あんたねえっ!?」
「嫌なら蟹座」
「牡牛座でいいわよ、牡牛座でっ!!」

どうも蟹座は嫌らしい。

「お、おい、それで俺は何の聖闘士なんだ!?」

ちょっとわくわくしている浩之。
彼とていまだに少年の心を忘れてはいない。
グラビアもついていない週刊少年誌は、十年来の愛読書だった。

「浩之くんは鳳凰星座でいいよ」
「でいいよ!?」

「気に入らないかな?」
「い、いや……若干の引っかかりはあるが、オイシい役どころだしな……。
 まあいいだろ、俺のことはフェニックスのヒロと呼んでくれ」
「嫌だよ、なんかかっこ悪いよ」
「お前、何気にひどいな……」

微妙に意気消沈している。

「るーはるーだぞ、うーさき」
「るーこちゃんは遠い星から来たんだよね……?」
「そうだ」
「じゃ、ペルセウス星座」
「何でペルセウス!?」

落ち込みながらも思わずツッコんでしまう浩之。

「響きが宇宙っぽいかな、って……だめかな?」
「ペルセウスは人名だぞ……」
「よく考えたら星座ってぜんぶ宇宙の星だからね。
 なんでもいいかなあって」
「適当すぎるだろ……」
「るー」
「なんか気に入ってるみたいだし、別にいいけどな……」

るーこは手を空高く掲げている。
その横で、目を輝かせている少年がいた。

「ぼ、僕は……!?」

満を持して、といった様子で尋ねる春原。
結局状況に順応することにしたらしい。
が。

「そんなの知らないよ」
「へ……?」

みさきのすげない一言に、春原は呆然とするほかなかった。

「陽平君は聖闘士じゃないからね。天敗星とかじゃない?」
「何で僕だけ冥闘士なんですかねぇっ!?」

無駄に詳しかった。

「そんなわけで、この世界に危機が迫っているんだよ……」
「そりゃ、アテナの聖闘士としては見過ごせない事態だな……」
「なんかやる気出てきたわ……牡牛座だけど、この際やってやるわよ!」
「るー」

春原のことなど忘れたかのように話に花を咲かせる一行。
見向きもせずに歩き出してしまう。

「ちょ、ちょっと、僕はどうなっちゃうんですかねえっ!?」
「知らねーよ、お前もいっぱしの冥闘士ならハーデスにでも助けてもらえ」
「いや僕そんなんじゃないですからっ!?」

無視。

「ほ、ほんとに行っちゃったよ……これから僕はどうすれば……」

とぼとぼと歩き出す春原。


どれほど歩いただろうか。
気づけばとっぷりと日が暮れていた。
辺りは鬱蒼とした木々に覆われている。

「ここは……どこなんだろう……」

力なく呟く春原。
孤独感がその全身を責め苛んでいた。
そしてそれが、彼の命運を分けることになる。

「な……!」

春原が行く手に立ち塞がる影の存在に気づいた時には、もう全てが遅すぎた。
その人物はニヤリと笑うと、手にした銃をゆっくりと春原に向けた―――。




「それこそが誰あろう、この住井護だったというわけだな……うっ」
「いやだから、どうして今の回想からこういうことになっちゃってるんですかねえっ!?
 ……ひぃぃっ!」

住井の責めに喘ぐ春原。
と、そんな二人を熱く見つめる視線があった。
二人の愛し合う、そのすぐ近くの茂みの陰。

(うわ……あんな風にするんだ……すご……)

観月マナである。
その手に持った厚い本が、ぼんやりと青い光を放っている。
心なしか、その光はマナが初めて手にした時よりも強くなっているようだった。

(この図鑑……すごい)

先刻のことである。
あてどもなく森を歩いていたマナは、向かい合う二人の影を見た。
慌てて茂みへと隠れたマナだったが、一方の男に向けられた銃口を見た瞬間、
手にしたBL図鑑から不思議な声が響いたかと思うと、突如として青い光が
二人の男に向けて飛び出したのだった。

『―――カップリング成立』

声は、そう聞こえた。
青い光に包まれた男たちは、おもむろに服を脱ぎだすと、火照った身体を
重ね合うようにして森の褥へと横たわったのだった。

(あれが……BL図鑑の力……)

認識を新たにするマナ。
だが思考に耽溺するその間も、視線は二人の男から決して離れはしなかった。



【時間:午後11時すぎ】
【場所:F−7】
春原陽平
 【所持品:スタンガン、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
 【状態:生き地獄】
住井護
 【所持品:コルトパイソン】
 【状態:アッー】
観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:腐女子Lv1】


「……ところで、聖衣はどうしたんだよ?」
「さあ、どっかに封印されてるんじゃないかな?」
「あんた、ホントに女神……?」
「新人だからね」
「頑張れ、うーさき」




【時間:16時ごろ】
【場所:G−3】
川名みさき
 【所持品:支給品一式】
 【状態:女神に覚醒】
藤田浩之
 【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
 【状態:鳳凰星座の青銅聖闘士】
深山雪見
 【所持品:支給品一式】
 【状態:牡牛座の黄金聖闘士】
ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
 【所持品:支給品一式】
 【状態:ペルセウス星座のるー】

※SIG P232(残り7発)、IMI マイクロUZI(残り30発)と予備カートリッジ(30発入り×5)、
スタングレネード(×3)はG−3付近に放棄。聖闘士は武器を使わない。
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