大いなる誤解の予感




ちーっす、この島に来てからというもの、女(チビ限定)にはバカにされる、吊るされてリンチされる、犬に命を助けてもらっている、と人生の存在意義を疑りたくなってきた高槻でーす。
まぁよ、さっき俺様の生き方は『ハードボイルドな漢を演出しつつムチムチなおねーちゃんを美味しく頂く』という路線に変更したわけよ。
それがどうよ、何よこの状況。いつか会った郁乃だか七海だとか言うチビどもが血走った目をしているオバサンにやられているではないか。
俺様は正義のヒーローなんかじゃねえ。それは自負している。しかしこんな切羽詰った状況を一山百円のミカンみたいに扱う神様はどうよ?
本当の悪は神様なんじゃないかと思えてきた。だから俺様は神様を軽蔑する意味合いもかねてこう言ってやったさ。
「ぴっこり」
…違うぞ、今のは俺様のセリフじゃねぇぞ、おいそこ、何笑ってる! 言ったのはこの隣のこん畜生だっつーの!
ええいもう、結局何を言いたかったのか忘れてしまったがハードボイルド路線に変更した以上目の前のヒロインのピンチを見過ごすわけにはいかない。
俺はポテトを引っ掴むと女のドタマに向けて投擲した。
「うらぁっ! 必殺、ポテトカタパルト弾っ!」
「ぴこ〜〜〜〜…」
情けない声をあげながら女の側頭部に突進していくポテト。俺様の存在などまったく意に介してなった女はまともにその直撃を食らう。流石俺様、甲子園のハンカチ王子も真っ青だ。
「…!?」
バランスを崩した女がよろめく。そこに間髪いれず飛び蹴りをかます。おお、かっこいいぞ俺。いっぺんこーいうのやってみたかったんだよな。
飛び蹴りを食らった女は床に無様に転倒する。その衝撃でバッグからおたまやらナイフやら銃が出てくる…って、げっ、結構強力な武器が多いんじゃね? おたまはどうかと思うが。
それでようやくこちらに気付いた女が血走った目をこちらに向ける。
「邪魔を…しないで!」
転がっていたリボルバーを掴み銃口をこちらに向ける。長細いバレルが俺様の胴体を捉える。


「真剣やべっ!」
とっさに避けようとするが、既にトリガーに指はかかっている。間違いなく死ぬ。ああちくしょう、俺の死に際のセリフもこんなもんなのか…
「ぴこっ!」
しかしそんな俺様の窮地を救ったのはまたもやポテト。女の顔面に体当たりする。銃口が反れ、紙一重で俺様の横を弾丸がすり抜けていく。助かった!
「このっ…ナメんじゃねえぞコラァ!」
女の銃を蹴り上げ、銃をどっかにやる。流石俺様、セリエAもビックリだ。
だが怯まなかったのは女の方だ。すぐさま別の銃を拾って俺様に向ける。おいおいなんて執念だよ、このオバサン!
「お願い、死んで!」
お願いと言われても俺様だってまだ死にたかない。また銃を引っ掴んで投げてやろうとする。
その時、一発の銃弾が俺様と女の間を切り裂く。俺様はぎょっとして顔を反らす。女も同様だった。
音のする方を向いてみると、そこにはいくみんだったか七ミリだったか忘れたが、まあとにかくチビの片割れがリボルバーを構えていたとさ。
「…いいかげんにしなさいよ。あんた、おかしいわよ、どうかしてるわ」
おいおい、俺様は違うぞ。肩をすくめてみせるが車椅子のチビは低い声で続ける。
「七海がまだ生きてるから今回は見逃してあげる。…さっさとどこへでも行きなさいよ」
銃口が女のほうへと向けられる。どうやら俺様ではないみたいだな。
「ぴっこり」
うるせえ、てめえに言われなくても分かってたさ。これで俺様まで撃たれたらシャレんなんねーぞ。
一方の女は形勢不利と判断したか、自らのデイパックとナイフを掴んで外へと一目散に逃げていった。はっ、ざまぁねえな。
念のために扉の外へポテトを放って調べに行かせる。俺? んな危ねえことするかよ。


「ぴこぴこ、ぴこーっ」
どうやら本当に逃げたようだ。安全になったと分かると急に肩の力が抜けた。
「ふーっ、この高槻様がここまで大立ち回りを演じたのは久々だな…」
さてチビの方へ目を向けるとチビは大きな声で倒れているもう一人のチビのところへ行き、懸命に声をかけている。
「しっかりしてっ! どこもケガはないの!?」
しかし車椅子の上だからか安否を完全に確認できていないようだ。
ふふん、いよいよ俺様の見せ場のときだ。ここいらでカッチョよく介抱してやって俺様のファンの第一号の出来あがりってわけだ。
俺様はつかつかと歩いて行き、倒れているチビの状態を確認してやる。
「ちょっと、あんた七海に…」
「いいから黙っとけ。ギャーギャー喚くな」
「なっ…ふん、分かったわよ」
ご不満そうな声で言う車椅子のお姫様。そんなチビ慰めるようにポテトが膝の上に乗っかる。
「ぴこぴこぴーこ、ぴこっ」
あん? 口だけの男だから気にするな? …後でリフティング十回の刑な。
「ぴ、ぴこぴこぴこっ」
ぶんぶんぶんと激しく全身で違うと言い張るポテト。当の車椅子のチビは何が何だか分かっていないようだったが。
さて肝心のほうはと…まずは脈を調べてみようと手首を持ち上げる。うおっ、柔らかい…しかもすべすべだ。うむ、将来いい女になるな。
「ちょっと、真面目にやってるの?」
背後から野次が飛ぶ。…危うく本来の目的を忘れるところだった。


うむ、脈に異常はない。命に別状はないようだ。気を失ってはいるが、じきに気がつくだろう。
「大丈夫だ。死んじゃいない、気を失ってるだけだ」
「そ、そう…良かった。…ところで、どうしてあんたここにいるの? 前のことといい、タイミング良く現れすぎなんじゃないの?」
んなこと知るかよ…文句ならポテトに言ってくれ、と言いたいのを我慢して俺様はとっておきの決めセリフを言った。
「ふん、前にも言ったはずだ。俺様はハードボイルド小説の愛読者だってな」
決まった、これでファンが一人出来たぞっと。…お? 何だその目は。その疑いの目は。
「もしかして…あんたって…」
何かまた嫌な予感がする。大いなる誤解の予感が。
「…ロリコン?」
…グッバイ、ハードボイルド。




高槻ロリコン
 【所持品:ポテト、食料以外の支給品一式】
 【状況:(精神的に)死亡】
小牧郁乃
 【持ち物:500S&Wマグナム(残弾13発、うち予備弾の10発は床に放置)、写真集二冊、車椅子、他基本セット一式】
 【状況:高槻をロリコン認定】
立田七海
 【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
 【状況:意識不明】
柚原春夏
 【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
 【武器(装備):34徳ナイフ(スイス製)/デザートイーグル/防弾アーマー】
 【状況:あと10人、屋外に逃走】

【その他:おたまは床に放置されたまま】
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