「とりあえず、ここから行ってみようかな」 少年は広げた地図を仕舞い、ゆっくり山を下りていこうとした。 姫君の復活という崇高な目的の為に、参加者達を殺す為に。 だが、結局それはかなわなかった。 少年の耳に鋭く風を切る音が聞こえたのとほぼ同時に少年の右足は何かに撃ち抜かれていた。 続いて腹部、左足、胸部、右腕、喉…体の様々な部位を何かが貫き、少年は大きくバランスを崩して後ろに倒れこんだ。 喉を潰された為に呼吸すらままならず、全身から伝わる激痛をおして左手でやっと右腕を持ち上げる。 するとそこにはわずかばかりの穴が広がっていた。 がさ…がさ… 草を掻き分けるような音がし、足音が少年に近づいてくる。 音がする方向を少年は見ようとするが、全身を打ち抜かれて思うように体が動かない。 そのうち少年の視界のほうに足音の主が姿を現した。 美しいブロンドの髪をポニーテールに纏める美人でスタイルのよい女性。 ただ、その女性の手には大きな石が抱えられていた。 「グッバイ、ボーイ」 女性はそう言い捨てると持っていた石を少年の頭上に振り下ろした。 (結局、今回もまた姫君の復活を成しえることは出来なかったのか……) 少年が最期にそう考えることと、少年の頭骨が砕かれるのはほぼ同時のことだった。 「ンー、戦利品はレーションかー。 上出来カナ? 出来ればガンが欲しかったけど、仕方がないネ」 ゲーム開始直後に遡る。 ブロンドの美しい女性、宮内レミィは早々にゲームに乗ることを決意し、デイバッグを開け……。 「ノォー……」 そして愕然としていた。 彼女の支給品はパチンコ… 石を飛ばす武器である。 武器といえば武器には違いないが、どちらかというとおもちゃのイメージのほうが強い。 ゲームに乗ることを決意していた彼女にとって殺傷能力の期待できないパチンコが支給品だったことを考えれば、 彼女の愕然ぶりも当然といえた。 だが、彼女の認識を覆すものがデイバッグの中に入っていたのだ。 それがサプリメントのケースに良く似たケースに入っていた6mmスチールボールだった。 いわゆる、BB弾とよばれるプラスチックの球。 それと同サイズのスチールボールは、高速で射出されると コンクリートに穴を穿ち、ガラス瓶を砕く事無く貫通せしめる能力を有している。 これにより、一見はずれに見えたパチンコが実に殺傷能力の高い武器へと変貌を遂げていたのである。 得物を入手した彼女だったが、最初に目をつけたのが山頂の少年だった。 最初は、いつでも少年を撃てる様に構えていたが、少年はまるで動こうとしない。 彼女は自分の癖を既に把握していたから、動こうとしない相手を狙撃しようとは思わなかった。 構えをといて、少年が動くのをじっと待ち……結局6時間もの時間が経過する羽目になった。 途中、死亡者の報告があったがゲームに乗った彼女には関係のない話だった。 放送を機に少年が動き…そして冒頭へと繋がる。 さて、少年が呟いていた姫君という存在。 それが真実なのかどうかは既に知る由もない。 全てはただの妄言だったのかもしれないし、そうではなく本当に姫君という存在があるのかもしれない。 だが、少年の弁を借りるのであれば、過去に幾度となく失敗を重ねたという姫君の復活というものは、 結局のところ、世界の意思によって否定され続けているということなのだろう。 おそらくこれからも永遠に。 【55 少年 死亡】 【107 宮内レミィ】 【支給品:パチンコ、6oスチールボール*90(ケース付き)、レーション三日分、デイバッグ×2、大きな石は放置】 【状態:健康】 【目的:ゲームの優勝】 【時間:18:20】 【場所:F-05、神塚山山頂】 注:スチールボールは100発入り。レミィは試射で4発使用している。定価は2000円。 - BACK