情報は宝




エディは沈んでいた。
あの後、ゆかりの死を確認して、せめても、とばかりに軽く土葬にしてきた。
自分の感傷ということは分かっていたが、蜂の巣になったゆかりを野晒しにしておくのは耐え難いことだった。
「アー、やっぱり乗っかった奴もいやがんだナァ……」
独り言ち、嘆息する。
足取りは、重かった。
放送が流れた。
ゆかりの死も発表されていた。
この放送を聴いた時の宗一と皐月の反応がありありと想像出来てしまった。
篁と醍醐の名前もあった。
この二人が死んだなどと信じられない。
放送にゆかりの名前があった以上まるきりの出鱈目ではないだろうがやはり篁が後ろで手を引いているのではないだろうかと思う。
しかし、篁がわざわざ死んだ振りをするとも思えなかった。
どう見たところで違和感は残った。
だから、今は保留にしておいた。
その放送では、他の探し人の名前は出てこなかった。
自分のも、あのイルファと言うメイドロボのものも。
こちらは殆ど誰とも出会っていなかったが、向こうはどうだっただろうか。
しかしここまで人と出会わないとどうしたものかと思う。
警戒されているのか、運が良いのか、悪いのか。


そこまで考えた辺りで、道の向こうから集団で人が来るのが分かった。
「あんだけいるってこたぁ……流石にゲームにゃのってねー……よなぁ……」
仮にそうであっても、もう一つ問題は在った。
「オレッチがゲームに乗ってねぇって……どうやって信じてもらうか……」
いきなり撃たれて蜂の巣ではたまらない。
「ハァ……」
それが、エディの急務だった。


放送が終わる。
「……春原。岡崎って……」
「ちょちょちょちょっと待って……もしかして朋也の……」
「あいつに兄弟はいたのか?」
「いや……僕は知らないけど……」
「……父親、か……」
はたまた親戚か。
もしかしたら偶々苗字が一致しただけかも知れない。
それでも看過するには二人には大きすぎる名前だった。
そのまま二人とも押し黙る。


しかし、そんな沈黙を春原はぽつりと打ち破った。
「でも……だとしたら、あいつ良かったと思ってるかもしれない」
「……どういうことだ」
「あ! いや……あいつ、父親と仲悪かったから……」
「だからって父親が死んで良かったなどと思うはずないだろう」
「……おまえにはわからないかもな」
「なんだと?」
「おまえにはわからないかもな、って言ったんだ」
「どういう意味だ」
「意味も何もそのまんまだよ。おまえにはわからないかもしれないってだけだ」
「何故だ。いがみ合っていようと家族なのだろう? 死んでよかったなどと思うはずないじゃないか」
「だから、おまえにはわからないかも、って言ったんだ。あいつだって……」
「そこまでだ、うーとも、うーへい。向こうから誰か近付いてくるぞ。構えろ」
「……分かった。春原。この話は後だ」
「僕はもうしたくないですけどねえ」
「二人とも黙ってください……来ます」
「チョイトそこゆくお嬢さん、尋ねたいことがあるんだが?」
笑顔で陽気に声を掛けてくる中年男性。
見るからに怪しかった。




「チョイトそこゆくお嬢さん、尋ねたいことがあるんだが?」
流石に怪しかったか、と思う。
「止まれ。後ろを向いて両手を挙げろ。許可するまでこちらを向くな。何用だ」
先頭にいたIMI マイクロUZIを構えた女の子が言ってくる。
素直に従って、エディは返す。
「だから、聴きたいことが、と」
(やっぱ、ゲームにゃのってねーか……)
ならば後は信用してもらえるかだ。
そこが一番難しいことは分かるが。
(つーかこの嬢ちゃん素人か……?)
言ってくることが的確すぎる。
「何だ」
「色々とアリマシテ」
「言ってみるがいい」
「んじゃ遠慮なく。お名前は?」
「断る」
「ちょ、るーこちゃん……名前くらいなら……」
スパーンッ!
快音が響く。
「阿呆かおまえはっ!! 名前を言ってはいけないと言っている傍から言う奴があるかっ!!」
「しまったーーーーーーっ!」


「駄目だ。あのうーがこのゲームに乗っていない保証はない」
「るーこ……そんな名前は無かったよナ……ルーシー・マリア・ミソラって奴カイ?」
「ばれてるーーーーーーっ!」
スパーンッ!!
快音が響く。
「だから、阿呆かおまえはっ!! 見ろ! 完全にばれたじゃないかっ!!」
「しまったーーーーーーーっ!!」
「……もうあなた達は黙ったほうがいいと思いますが」
「ルーコちゃん? ンじゃ、次。どうしたらオレッチが乗ってないって信じてくれる?」
「ふむ……まず、名前は?」
「エディ」
「何を貰った?」
「毒」
「誰かを殺したか?」
「インや」
「毒以外に武器を持っているか?」
「インや」
「そのデイパックを置いて十歩、前に出ろ」
「潔白が証明されたら返してくれるカイ?」
「返す。るーは約束は守る。安心して歩け」
「そらよーござんした。ホイッと」
エディはデイパックを置いて十歩、そのままの体勢で歩く。


「うーへい。身体は丈夫か?」
「丈夫だ」
「なんであんたが答えるんですかねえ!」
「あのデイパックを調べてきてくれ」
「そりゃいーけど……なんで身体が丈夫か聞くの?」
「あのうーディが嘘をついて、中に爆弾などを仕掛けているかもしれないからだ」
「爆弾だったら僕死んじゃうんですけど!!」
「いや、おまえなら大丈夫だろう」
「死ぬよ!」
「うーへい、男の子ではなかったのか?」
「うっ……分かりましたよやりますよ……死んだら化けて出てやる」
「何故かおまえの幽霊だと思うと怖くなくなるのだが」
「あのねえ!!」
「早く行って来たらどうでしょうか」
「茜ちゃんまで……」
スパーンッ!!!
「だからおまえは何度いえばわかるんだっ!」
「はいっ! ごめんなさい!」
「もういい……早く行け……」
春原はとぼとぼと歩く。
そしてデイパックの中を検めて、いかにも毒のような瓶を見つける。
「ひいぃっ!!」
「どうした、うーへい」
「毒が……」
そういって瓶を掲げる。


「ウソは吐いていないと言う事か」
「分かってもらえて何よりダ」
「うーへい。それに口が開いた跡はあるか?」
「ん……無いと思う」
「分かった。うーへい、うーディの身体を調べろ」
「ええっ!? 大丈夫なの!?」
「わからない。だから調べるんだ」
「ハァ……分かりましたよ……」
春原は瓶を戻し、エディに近付いた。
「やさしくしてネ」
「何の話しだよっ!!」
「ケタケタケタ」
春原のボディチェックが終わり、何もない旨をるーこに告げた。
「そうか。ならばいい。うーへい、戻って来い。恐らくうーディは白だ」
そういってるーこは銃を下げる。
「へっ? もういいの?」
「るーはいい。近くに何か隠していたりするのでなければ大丈夫だろう。うーともとうーかねはいいか?」
「私は構わない。こんな状況だからこそ出来る事なら人は信じたい」
「……私は……信用はともかく、当座の安全ならるーこさんが保障してくれそうなので構いません」
「うーディ、銃は下げた。荷は返す。こっちに来ても構わないぞ」


「そりゃ良かった。銃向けられんのはやっぱ気持ちいーもんじゃないネ。ンじゃ、質問。オメエさんとオメエさん、名前は?」
「坂上智代だ」
「春原陽平」
「ンじゃ、次。お嬢さん方、今まで他に誰かと出会ったりしてないか?」
「人探しか」
「そーいうこった。那須宗一、湯浅皐月、リサ=ヴィクセン、梶原夕菜、それと姫百合珊瑚―――――」
そこまで言った所でるーこがぴくりと反応した。
「―――――ドーした。知ってんのカ?」
「るーのたこ焼き友だちだ。ここに来てからは未だ出会っていない。続けろ、うーディ」
「へいへいっと……お後、姫百合瑠璃と河野貴明だ」
再びるーこが反応する。
「うーディ、うーを探しているのか」
「うー?」
「ああ、彼女独特のネーミングセンスだから気にしないで」
「ホォ……さっきからのはそれカ。で、うーって誰ダ?」
「だから、うーだ」
「だから、うーって……ヤメ。うーってのは姫百合瑠璃か?」
「違うぞ、うーディ。うーはうーだ。なぜわからない」
「相互理解というもんは難しいネェ。じゃ、河野貴明でいいのか?」
「そうだ。うーだ」
「で、ルーコちゃんはそのうーを知ってんのカ?」
「知っている。いや、この島で何をしているかは知らないが」
「っちゃー……全滅か……」
「あのうーには世話になった。いつか恩返しする予定だ」
るーこは大きくるーをしながら言う。


「まぁそれは分かった。で、誰も知らない?」
「私と茜は初めてであったのが春原達だ。役には立てんな」
「僕達は……結構出会ったけど今言った人は多分いなかったと思う」
「全員挙げてもらえっか?」
「ええと……藤田浩之、川名みさき、深山雪見、柳川祐也、巳間晴香、柏木梓……それと、柏木楓、森川由綺」
後ろ二人は放送にあった。
これでまた放送の信憑性が上がったと見ていいのだろうか。
「るーこちゃん、それでよかったよね?」
「ああ。間違いはないはずだ」
「ってこたぁやっぱ駄目か。ンじゃ、そっち聞きたい奴はいっかい?」
「るーはうーが見つかればそれでよいぞ」
「僕は芽衣……春原芽衣と岡崎朋也を探してる。後は藤林杏と藤林椋」
「私も朋也だな。後は美佐枝さん」
「私は……まだ、あなたを信用し切れていないのでやめておきます」
「ソーデスカ。ま、それならそれで。オレッチが出会ったのは三人だけだな。
さっきの姫百合と河野を聞いてきたイルファって姉ちゃんと、七瀬彰、折原浩平」
茜が『折原浩平』の所で思わず身体を震わせる。
それに気付いたエディは、話を転換させる。
「ンで、折原浩平と七瀬彰は鎌石村に向かってた。けっこー前だから今は知らんがネ」
茜はそっぽを向きながら、それでも注意深く聴いていた。
エディはそれを見て取って、笑みを浮かべる。


「そしてイルファって姉ちゃんがこの道を逆回りしてる。オレッチと適当なところで落ち合うつもり」
「うーディ、この先の村に行くのはお勧めできない」
「ドーして?」
「この先にマーダーがいるかもしれない。るーたちはそれに襲われて散り散りになった」
「やっぱ参加者がいやがったのか……」
「それでも行くのか?」
「あーまー、いかにゃならんでショ」
「そうか。武運を祈る」
「エディさん」
「ん? なんだいトモヨちゃん」
「これは、いるか?」
そういって智代はエディに手斧を示す。
「……? いーのカ?」
「マーダーがいるかも知れないのに手ぶらという訳にもいかないだろう。なに、私は身軽な方がいい」
智代は笑って、自分の腕を叩いた。
「茜、すまないな。だが、どうにもならなかったら大人しく殺されてやるから安心してくれ」
「……いえ。私がそれを使っても碌な事にならないでしょうから構いません。
エディさんがマーダーを殺してくれるならそれに越したこともないですし」
茜は消極的な了承を出す。
何処までが本心か。
「ンじゃ、ありがたくいただきマス。そだ。因みに皆さんどちらまで?」
「ホテル跡だ」
「了解。ほんじゃ、お気をつけて」
「ああ。うーディも」
そういって、別れていく。
再び見える事はあるのか。
それは、神ならぬ身に分かることではなかった。



「しっかし……ここまで一人も引っかからないたぁ……運のない……」
情報だけは増えていくが、それが探し人に一向に繋がらない。
しかもこの先の村には参加者がいるかもしれないという。
さらに、ゆかりの死を知った宗一と皐月の動向も気になる。
あんまり愉快な想像にはならない。
「前途多難……だネェ……」
嘆息と共に吐き出して、エディは歩き出した。


「さて。うーかね」
るーこはいきなり茜を呼んだ。
「なんですか?」
「どうするのだ? 鎌石村まで行くのか?」
「! ……何故ですか?」
「先程うーディがうーへいの名前を出していた時に反応していただろう」
「ええっ!? 僕!?」
「おまえじゃなくて浩平という奴だろう」
「何だ紛らわしい」
「……気付かれましたか」
「ああ。で、どうするのだ?」
「……いえ、構いません。ホテルに向かいましょう」
「いいの?」
「もう時間も遅いです。今から村に行くとなると夜の街道を歩くことになります。何より、今るーこさん達と別れるわけにもいきませんので」
武器の無い茜が夜中一人で街道を歩く。
この状況では自殺行為といっても過言ではなかった。
「そうか。ならばいい。行こう」
そうして、一向はホテル跡へと向かっていった。




エディ
【持ち物:瓶詰めの毒1リットル・手斧・デイパック】
【状態:意気消沈・人探し続行中】
春原陽平
【所持品:スタンガン・デイパック】
【状態:健康】
ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・デイパック】
【状態:健康】
坂上智代
【所持品:デイパック】
【状態:健康】
里村茜
【所持品:フォーク・デイパック】
【状態:健康】
共通
【時間:一日目午後六時半頃】
【場所:F-03】
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