朽ち果てるまで




鎌石村に点在する民家の一つ。
そのリビングにある食卓で、二人の少女が声を潜めながら話をしている。

「い、いいのかな?
 なんか外はすごいことになってたみたいなんだけど……」

落ち着かない様子で雨戸に閉ざされた窓の方に目をやる少女、笹森花梨。
その方向からは先程まで、断続的に銃声や爆発音が響いていた。

「放っとき。アホどもがドンパチやっとっただけや。
 ま、それもどうにか収まったみたいやし……日が出てる内はまだ大丈夫やろ」

冷静に答えたのは保科智子だった。

「ど、どういうこと?」

理解できない様子の花梨。
智子は答えない。

「それより座って、ちゃんと食っとき。
 日ィ落ちてしばらくしたら、ここ出るで」

その声音に冷たさを感じながらも、花梨は支給品の糧食を口に運ぶ。
もそもそと咀嚼して、水で喉に流し込む。

「うぅ、マズいんよ……」

情けない顔をする花梨。
眉をしかめたのは智子だった。

「これしかあらへんねやから、仕方ないやろ。
 黙って食べぇや」

二人の隠れたこの民家には、食料品の類が一切なかった。
水道も当然のように止まっている。
その他にも生活臭が無さすぎる、と智子は指摘していたが、花梨には
そんなものかとしか思えなかった。

沈黙が支配する食卓に、二人の少女の咀嚼音だけが響く。
が、突如としてその沈黙を破るものがあった。

「――みなさん聞こえているでしょうか。」

定時放送である。

死亡者の読み上げが始まる。
さすがに食事の手を止める花梨。
一方の智子は気にした風もなく、黙々と食べ続けている。
その表情には何の感情も浮かんでいないように、花梨には見えた。

「ちょ、ちょっと保科さん?」
「関係ないわ……」

そう、関係ない。
誰かが死ぬことと、自分が生きていることは関係ない。
煮えくり返る臓物からの声は、自分が生きていることと関係ない。

―――そんなに殺し合いがしたくてたまらんのか、アホタレどもが。

表情には出さない。
そんな感情は、生き延びるためには必要ない。
その代わりに声を出す。
冷静に。平静に。

「……さっきも言うたけど、夜になったら出るで」
「ど、どうしてか、聞いてもいいかな……?
 私としては、ここに隠れてた方がいいと思うん……」
「―――ウチがやる気やったら、」

その声音と目線は、花梨を黙らせるのに充分な鋭さを有していた。

「……ウチがやる気やったら、夜中にはこの辺り一帯に火ぃつけてまわるな。
 寝てる間抜けはそれでお陀仏やし、慌てて出てきた間抜けは端から蜂の巣や」
「こ、怖いこと考えるんだね……」
「いつまでもこんなところに篭ってるのは間抜けだけ、ちゅう話しや」
「そ、そういうものかな……」
「さっきの放送な。
 まだ始まって六時間ちょっとやのに、もう十人以上死んどる」
「うん……」
「ようけ死んどるな。
 このままやったら一晩でまた三十人、合わせてもう全体の三分の一が
 明日のお日さん拝まずに死ぬちゅう計算や」

智子は淡々と続ける。

「三分の一の間抜けになりたかったら好きにしたらええ。ここに残りや。
 ……ま、出て行ったかて、別に安全なわけやあらへんからな」
「う、うぅ……」

言葉もない花梨。
正直なところ、自分ひとりでここに残されるなど考えたくもなかった。
だから花梨は、恐る恐るといった様子で一つだけ尋ねた。

「ここを出てどこに……行くん?」

その問いに対する、智子の答えは明確だった。

「南や。……森に紛れるで」




【時間:18時過ぎ】
【場所:C−03(鎌石村)】

笹森花梨
【所持品:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状態:健康】

保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り2発)、支給品一式】
【状態:健康】
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