「……まだいるの?」 「ええ、敵は前方の茂みに潜んでいます。」 辺りはすっかり暗くなっていたが、詩子達はまだ睨み合いを続けていた。 「もう、しつこい敵ね!」 「ですが、持久戦なら私達の方が有利です。こちらは常に敵の位置が確認出来ますから」 お任せください、と言わんばかりに空いてる側の手で詩子を制止するセリオ。 セリオは足を損傷している。 上手く隙をついて逃げ出せたとしても、いずれ追いつかれてしまうだろう。 しかしセリオは赤外線センサーで相手が物陰に隠れていようと察知出来る。 暗闇に乗じての奇襲を警戒しないで良い分、そしてロボットであるセリオは疲労しない分、 持久戦に限ってはセリオ達の方が有利であった。 だが突然、セリオがバッと顔を上げた。 「!!」 「セリオ……どうしたの?」 「何かが……凄いスピードで迫っています!」 (ああもう、まだ動かないっての!?) 山田ミチルは焦っていた。結局彼女は交戦を続ける事を決意したが、どうにも決め手が無い。 最初は焦る事は無いと思っていた。完全に暗くなってしまえば、いくらでもやりようはあると。 そうして待つ事1時間。辺りは完全に暗くなった。 だが、問題はここからである。 先程一度暗闇にまぎれて一気に間合いを詰めようとしたが、 動き始めた途端に何故かすぐに察知されて進路のすぐ先に銃撃が飛んできた。 タイミング、位置の正確さから考えて偶然とは思えない。 理由は分からないが奇襲は通用しない。こちらからは木の影から動けない。 根競べだと思った。しかしセリオと違い、彼女は人間である。 既に彼女の疲労は限界に近付いており、集中力は低下していた。 「……?」 何かが気になり、ふと後ろを見てみた。 そこには黒い服装の少年が立っていた。 先程までは何もいなかった空間に、突然それは現れていた。 彼女がMG3を向けるよりも早く、腹に衝撃が走った。 「あうっ!」 何が起きたか分からないまま、3−4メートル程吹き飛ばされる。 腹に激痛が走る。 「ごほっ、ごほっ…!」 腹を押さえ、咳き込みながらも何とか顔上げ現状把握に努める。 顔を上げた先には、少年。 暗くて表情までは読み取れないが、自分を見下ろしているようだった。 その手には先程まで自分が持っていたMG3。 銃口は―――こちらに向いている! ミチルの目が見開かれる。 「ひっ!た…たすけ―――」 ミチルは恐怖と狼狽に支配され、我を忘れて命乞いをしようとしていた。 ダダダダ……! しかし、彼女の言葉が終わるのを待たずにMG3の音が鳴り響く。 ミチルの顔から首にかけて、4つの穴が開いていた。 首が引き千切れかけ、一瞬体がびくんびくんと痙攣したが、すぐにそれは止まった。 支給品に恵まれた山田ミチルであったが、武器だけではこのゲームは生き残れない。 結局彼女は自分自身の武器によって、絶命したのだった。 当然その銃声は詩子達の元にも届いていた。 「セリオ、今の銃声は!?」 「どうやら新手が現れたようですね……」 セリオは急いで乱入者のデータを調べ始めた。 そのデータを認知した瞬間、セリオの目が見開かれた。 >55少年 >身体能力:人間の限界を超過と推測 >装備:マシンガンの類と推測 >警戒レベル―――測定不能。即座に撤退を推奨 次の瞬間にはセリオは叫んでいた。 普段決して動揺しない筈の彼女が叫んでいた。 「詩子さん、裏口から逃げてください!ここは私が食い止めます!」 「ちょ……、セリオ何を!?」 「この敵は危険過ぎます、速やかに撤退すべきです」 「何言ってんのよ……、アンタも一緒に来なさいよっ!」 「この足では私が逃げ切る事は不可能です。 私は人の役に立つ為に作られました。お願いですから、早く行ってください」 そこまで言って、セリオは詩子の背中を強く押した。 「さあ、早く!」 「〜〜〜っ……、分かったわよ!セリオ!あんたも何とかして生き延びなさいよ!」 「努力します」 詩子はそのまま民家の裏門を抜け、走り去っていった。 (どうしましょうか……) 敵はマシンガン系統の武器を持っており、身体能力も自分より遥かに高い。 このまま戦えば勝ち目は全く無い。セリオは賭けに出る事にした。 民家の窓に向かって体当たりをし、窓をブチ破りそのまま中に転がり込む。 すぐに起き上り、自分が向かってきた窓の方へと銃を構える。 (これでここからは侵入出来ない筈――!) すぐに玄関が乱暴に蹴破られる音がし、 敵らしき足音が聞こえてきた。 今自分がいる部屋への侵入経路は3つ。 自分が入ってきた窓、右方向と左方向に一つずつある扉。 さあ、どちらから来る―――? セリオは右方向に向けて銃を構えた。 ドゴッ!! 恐らく椅子か何かを投げつけたのであろう、右方向の扉が大きな音と共に破られた。 そして、そこから何かが飛んできた。コロコロと地面を転がる。 それは、血塗れであった。 それは、山田ミチルの首だった。 その顔は血に塗れ、目は見開かれたままだった。 ドゴンッ!! 直後にそれとは別方向、左方向の扉が破壊され、何かが飛び込んできた。 それこそが本命、少年自身であった。少年の取った作戦は、陽動作戦。 囮で気を引いてる隙に別の方向から侵入し、敵を殺害する。 誰でもあのようなモノが飛んでくれば動揺し、隙を見せるだろう。 ―――相手が人間だったのならば。 「作戦、通りです」 少年が飛び込んできた瞬間には、セリオはまだ顔は右の扉の方を向いたままだったが、 銃だけは既に少年の方向に向けていた。 ――部屋に篭ればあの敵は確実に侵入してくるだろう。しかし侵入する側は次の動作が1手遅れる。 正面から侵入しても態勢を整える前に撃ち殺されるだけである。 この敵はその程度の事は読んでいるだろう。そして必ず、何らかの方法でこちらに隙を作ろうとするだろう。 しかし、こちらは赤外線センサーで敵の動きが分かる。陽動作戦など通じない。裏の裏をかけるはずである。 それでもこれは賭けだった。相手が手榴弾やダイナマイトの類を持っていれば終わりの、危険な賭けだった。 だがともかく、セリオはその賭けに勝利したのだ。 ダアァァンッ!! 間髪入れずに銃弾を放つ。 「私の作戦勝ちですね」 勝利を確信しながら撃った先を見たセリオは―――敗北したのは自分だったと悟った。 視界に映るのは、大きな盾。 盾を構えた少年には、傷一つ付いていなかったのだ。 「なかなか頑張ってたけど……残念だったね」 その台詞の直後少年の手元が光り、またMG3の音が鳴り響く。 ダダダダ……!! ……走馬灯というモノはロボットにも存在するのだろうか。 メモリーの奥から長瀬主任や研究所の面々、藤田浩之、マルチの顔から浮かび上がってきた。 彼らの顔を見て、セリオは心が安らぐのを感じ、そのビジョンを眺めたまま彼女の機能は停止した。 少年はゆっくりと歩を進め、セリオの銃を回収した。 「バッグはいらないよね、どうせこれからたくさん手に入るだろうしね」 そして少年――――黒い悪魔は地図を取り出し、次の獲物を求めて動き出した。 共通 【時間:1日目、21時半頃】 【場所:c-03】 柚木詩子 【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)&予備弾丸2セット(10発)・支給品一式】 【状態:逃亡中、疲労】 少年 【持ち物1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19、MG3(残り17発)】 【持ち物2:支給品一式、レーション3つ、グロック19(15/15)・予備弾丸12発。】 【状況:健康。目的は参加者の皆殺し、行き先はお任せ】 山田ミチル 【所持品:支給品一式は死体傍に放置】 【状態:死亡】 セリオ 【持ち物:支給品一式は死体傍に放置】 【状態:死亡】 *B-2、B-10にこの話を採用する時は、少年のMG3の弾数を(残り22発)にしてください。 - BACK