「あーん、もう! どうして何もないかなぁ!」 ホテル跡5階の一室にて、笹森花梨は一人タンスやらクローゼットやらを漁っていた。 「幽霊は出てこないし、面白そうなのも何も無いし、宇宙人の解剖跡もないし!」 幽霊はともかく、宇宙人などを期待するのはさすがにお門違いというものであろう。しかし花梨はめげずにゴミ箱の中身を漁り始める。 かりん は コ゛ミは゛この なかを しらへ゛た! なんと! しようす゛みティッシュ をてにいれた! 「いるかぁーーっ!」 肩で息をしつつ次の部屋へと向かう花梨。すでに探索した部屋は十を超えていた。エディや智子が見たらさぞかしあきれ果てるだろう。 隣の部屋、511室のドアノブを回す。今までもそうだったのだが、どの部屋もロックがかかっていない。いや無理矢理こじ開けられたというべきで、鍵が壊された部屋が少なからずあった。 もちろん鍵が壊れてない部屋も数多くあるのだがそれにしても鍵が壊されている部屋のほうが多過ぎる。 おまけにキーピックなどで開けられたなんて可愛いものではなく、鍵の部分に拳銃弾と思われる銃痕がついていたり、斧などでドアそのものを半壊させられた部屋もあった。 (誰かが、強盗にでも入ったのかな?) そうに違いない。でなければ、ここまで何もないというのはおかしすぎる。しかしここであきらめないのがスクープハンター、いやミステリハンター花梨の使命だった。 がちゃ、とドアを開け、中を見渡す。相変わらずの殺風景な部屋だった。だが花梨はそこで妙な違和感を覚えた。 「何だか、妙に綺麗なんだよね〜。まるで掃除されたみたいな…」 普通、こういう放置された部屋は埃などが積もっているのが当たり前だ。花梨がこれまでに調べた他の部屋もそうだった。が、ここは他に比べて埃の量が少ない。 「ふっふっふ、パンピーの目は誤魔化せても私の目は誤魔化せないんよ。きっと、ここに何かあるはずっ!」 喜び勇んで部屋の中を捜索し始めた。 まずは机から探す。すると、引出しの一つに鍵がかかっていた。 「およ? 鍵なんて今までかかっていなかったのに」 ますます怪しい。…となれば、実力行使しかないっ! 部屋にアレがないかと探す。アレさえあれば問題なくこんな鍵開けられる。 「あっ、あったぁ〜!」 花梨が見つけたのは一本の針金。そう、花梨はピッキングをしようとしていた。 普段からミステリ研活動のためと称してこっそり備品やら何やらを持ち出していた花梨には鍵開けなど朝飯前になっていた。 器用に針金を曲げて鍵穴に指し込む。5分くらいの格闘の後、カチリ、と鍵が開く音がした。 ビンゴっ! さっすが花梨ちゃん、これくらい当然! 机を勢い良く開ける。すると、あるものが出てきた。 「…なんだろ、これ? 日記…? それに、宝石…」 花梨が取り出したものは血に染まった手帳と青い宝石だった。宝石はともかくとして、どうして手帳が? 「ま、何でもいいや。なんだかバイオハザードみたいなんよ」 状況は全然違うが。花梨は宝石をポケットに仕舞い、手帳を読み始めた。ひょっとしたら『かゆ、うま』とかそういうことが書かれているかもしれない。 最初の数ページをパラパラとめくってみる。 三日目 このくそったれたゲームももう三日目や。最初何人もおった参加者の連中ももう半分以下、いやもうひょっとしたら3分の1を切ってるかもしれへん。 和樹も、瑞希っちゃんも、牧やんも彩ちゃんも千紗ちぃも、あの大バカ詠美も、みんな死んでもうた…多分こみパの面子で生き残ってるのはウチだけやろうな。 今ウチに出来るんはこうやってまた後に来るはずの、次の参加者達に向けてメッセージを残してやるだけや… 「何なの、これ…」 手帳に書かれていたのは花梨が期待していたようなものではなく、悲壮な思いを綴ったひとりの人間の日記だった。しかも文面を見る限り、この島では以前にも殺し合いがあったと推測できる。 …それも、今回と同規模の。 花梨は日記のページを読み進めていく。しばらくは状況のメモや死亡者のリストが書かれていたが、あるページから妙に切羽詰った文体になっていた。 くそっ、いよい よウチも年貢の納め時かもしれへんな 今はなんとかここにみをかくしてるけど見つかるんも時間の問題かもな… けどだまって死 ぬわけにはいかへん、なんとしてもあの悪魔と宝石のことを 知らせとかんといけ ん。きっとあの悪魔は次の殺し合いにも参加しとるはずやからな ここから先は血痕の付着が激しく、ほとんど読み取れる文字はなかったがかろうじて意味の分かる文面を読み取る。 の 少年 悪魔や ろし合いは主催者の思うつ 少年にはきぃつけや、 れは のジョーカ や 宝石は をひらくも んや、これが鍵になっとる ホントかど わからへんけどためしてみる価値はある ウチは何 できなか けど、 少年から ウチ 最後まで守り抜 もんや 主催者をぶっ潰してく ごめんな、詠美 その文字を最後に、手帳から読み取れることはなかった。花梨は改めてポケットに仕舞ってあった青い宝石を見る。 「鍵、って書いてあったよね…何の鍵だろ?」 肝心な部分が読み取れなかったせいで何を「開く」のか分からないが、よほど重要なものに違いない。…推測にしか過ぎないが、この宝石は文中にあった「少年」、つまり敵から奪い取ったものなのだろう。 「少年」がどんな名前か知らないが、文面から今回のゲームにもいると仄めかしている。 ――少年。 その名前には覚えがあった。名簿に、その名前がはっきりと刻まれていたのだから。 …無論、「少年」と今回の「少年」は違う人物の可能性もある。しかし一人だけ本名ではなく「少年」と書かれていたのは何かしらの意図を感じる。 「…気をつけておいたほうが、いいよね」 かりんは今の出来事をふかくこころにきざみこんだ。 「さて、そろそろ戻ろうかな。…きっと怒ってるよね、二人とも…」 こっぴどく叱られる自分の姿を脳裏に浮かべながら、花梨は二人の元へ戻ることにした。 『笹森花梨(048)』 【時間:1日目午後6時ごろ(放送は室内のため聞き逃した)】 【場所:E−4、ホテル跡、5階】 【持ち物:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、青い宝石、手帳】 【状態:少年に警戒を抱く。エディと智子の元に戻る】 【その他:青い宝石が何を開けるのかは不明】 - BACK