頼むよNASTY BOY




民家の塀を遮蔽物として身を潜めながら、宗一は状況を分析し始める。
まず相手は今単独行動を取っている、それも素人だ。
仲間がいるならば、せっかく不意打ちに成功しているのだ、そのまま
マシンガンを持った少女の張った弾幕で、こちらを仲間の射線まで
誘導すればいい。
そんな発想の無い素人だとすれば、火器を持っている者が全員で
めくら撃ちをしてくる可能性が非常に高い。
いずれにせよ、こちらに視認された少女がその場に突っ立っている間中ずっと
伏兵がこちらの様子を窺っている意味など、どこにもない。
それでは囮にすらならない。ただの的だ。

それに先刻、少女はまずこちらに対して先制攻撃を成功させたにもかかわらず
いったん射撃を止めた。
何かを迷っていたのか、状況の把握に時間がかかったのか、それは判らないが
次弾の斉射までに空いた間がとにかく不自然だ。
撃つなら撃つ、撃たないなら撃たない。
そういった割り切りのよさ、行動の抑制といったものがまるで感じられない。
素人相手であるならば、その道のプロである自分に敗北の要素は無い。
そう確信できるだけの経験が、宗一にはあった。

(さて……弾切れを待つか、それとも……)

素人であるならば、残弾の確認をせずに撃っている可能性は高い。
マガジンの交換といっても時間がかかるだろう。
適当に応射しているだけで、無駄弾をばら撒いて自滅すると判断。

(さっさと片付けて戻りますか……)

結論を出した宗一の行動は早い。
塀の影から銃口だけを覗かせて、まず一発。
数瞬を置いて、パラパラと応射が来る。

(さて、お次は……)

おもむろに学生服の上着を脱ぐ宗一。
脱いだ制服を、そのまま塀の陰から投げ出す。
先程のエサで敏感になっているのか、今度は反応が早い。
軽い連射音が響き、見る間に制服が蜂の巣にされていく。

(ま、安いもんか……)

程なくして、弾の雨がやむ。

「……!?」

予期していない事態に戸惑うような気配が伝わってくる。
間髪いれず、塀の陰から飛び出す宗一。
案の定、弾切れに対処できずに困惑している少女。
突然現れた宗一の影に驚く間も与えず接近すると、今やただの
鈍器と化したH&Kを蹴りつける。

「……ッ!」

少女の手からマシンガンが放物線を描いて飛んでいく。
苦痛に表情をゆがめてしゃがみ込む少女。
その姿に内心で一つ謝りながら、宗一は手にしたFive-SeveNの銃口を
少女に突きつける。

「……はい、チェックメイトだ」

見上げる少女の表情は、怒りとも落胆ともつかない。
どうしたものかと迷う宗一はそのまま、

「―――動かないでくれ」

戦慄した。
背中側からかけられた声は、明らかに自分に対して向けられていた。

(馬鹿な、この状況で新手だって……!?)

想定外。
何で今このタイミングなんだ。
今まで指をくわえて見ていたとでもいうのか。
幾つもの疑問が宗一の脳裏をよぎる。

「ひ、氷上くん……」

少女が、どうやら背後にいるらしい誰かの名を呼ぶ。

(くそ、マジで仲間なのかよ……)

油断以外の何者でもなかった。
素人は何をするかわからないから怖い。
そんな金言が、今更ながらに宗一の頭の中を支配していた。




 【場所:I−06、07境界付近】
 【時間:午後6時20分】
那須宗一
 【所持品:FN Five-SeveN(残弾数19/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、食料(数人分の量。缶詰・レトルト中心)】
 【状態:自己嫌悪】
太田香奈子
 【所持品:H&K SMG U(0/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、フライパン、懐中電灯、ロウソク(×4)、イボつき軍手、他支給品一式】
 【状態:困惑】
氷上シュン
 【所持品:ドラグノフ(残弾10/10)、100円ライター、折り畳み傘、他支給品一式】
 【状態:健康】
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