梶原夕菜はホテル跡へと向かっていた。 先程の澤倉美咲の錯乱で受けた攻撃によって足を打撲しており、 その足取りは重かった。 (困ったわね………) 夕菜は焦っていた。 この足では思うように動き回る事が出来ない。 このような状態で敵に狙われたらまず逃げ切れないし、 何より動き回れないと宗一を探す事が出来ない。 早く足を治す事が必要だ。早く足を治して、宗一を探す。 探す過程でゲームの脱出に役立ちそうに無い人間や、 いつ裏切るか分からない単独行動者は、この薬を使って錯乱させる。 そうやって障害を排除しながら宗一と合流出来れば、きっと何とかなる。 きっと宗一ならゲームを破壊してくれる。彼女はそう信じていた。 宗一の為なら自分の手が汚れても良い。自分が死んでも良い。 それでも宗一には、生き延びて欲しかった。 (そうちゃん……待っててね) 地図によると、もうすぐホテル跡に着くはずである。 まずはそこで一晩休んで足を癒そう。 怪我は重くない。一晩休めばきっと治る。後一頑張りだ。 そう考えていた時、突然背後から声がかけられた。 「君、大丈夫かい?」 「っ!」 驚いて振り向いた先には――黒を基調とした服の男。少年が立っていた。 「あ、ごめんごめん。驚かせる気はなかったんだ」 少年は笑顔で謝罪している。 「肩を貸すよ、ほら」 そう言ってから、少年は彼女に肩を貸そうとしていた。 「え……、なんであなた、私の事を警戒しないんですか?」 それは、本心から出た言葉だった。 参加者の数を減らすつもりの彼女が言うのもなんだが、 少年の無警戒さは度が過ぎる。 この少年は何故こんな状況で素直に人が信用出来るのだろうか。 少年は夕菜の盾を指差し、微笑んでいた。 「盾じゃ、人は殺せないだろ?」 そう言っていた。 (な―――それだけの理由で?) 呆然とする夕菜の前に、再び少年の肩が差し出されている。 今度は素直に夕菜も肩を借り、少年に支えられながら歩き始めた。 「あの……ありがとうございます」 「構わないよ。こんな時こそ助け合わないとね」 少年は見た目に似合わず力強く、夕菜を支えながら歩いていても息一つ切らさなかった。 この少年はゲームを破壊する時に戦力になる。 それにこの少年は、見ず知らずの自分を怪しみもせずに助けてくれた。 無防備な所はあるが、彼はとても親切で、心優しい。 この少年とは協力したい。仲間として一緒に脱出したい。 夕菜はそう考えていた。少年への警戒心は、もう消えていた。 (良かった、これでそうちゃんを助けにいける―――) 彼女は安心して、微笑んでいた。 少年も後ろを振り返り、微笑みを返してくれる。 だが、 ごきりっ、という音が聞こえたかと思うと、 彼女の視界が90度回転し、次の瞬間には彼女の意識は暗闇へと沈んでいった。 彼女は痛みを感じる暇も、敵の存在を認識する暇も、 宗一の無事を祈る暇もなく、ゲームから退場する事となった。 結局彼女はこのゲームで残るには甘すぎたのだ。 少年は相変わらず笑顔を絶やさないまま彼女のバッグと盾を拾っていた。 「さて、次はどこに行こうかな」 少年は彼女の首が折れた死体には一瞥もくれずに地図を取り出し、 次の行き先を考えていた。 人の心を持ったままではこの任務は辛すぎる、人を殺し続ける事には耐えられない。 だから少年は、自分の心を凍りつかせ、一切の感情を捨てる事に努めていた。 自分に与えられた使命を果たす為に―――――そして、感情の無い殺人マシーンと化す為に。 【時間:1日目19:30頃】 【場所:E−04とF−04の間くらい】 少年 【持ち物1:強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、注射器(H173)×19】 【持ち物2:支給品一式、レーション3つ】 【状況:目的は参加者の皆殺し、行き先はお任せ】 梶原夕菜 【状態:死亡】 - BACK