外に自分で食料調達にいくのは、リサとかいう女に怪我を理由に止められた。 まあ今日は少々派手に動き回りすぎた。 休憩して体力を回復する事は必要かもしれないな。 そして今俺は倉田に誘われ、栞という女と3人で海の家の入り口で星空を見ている。 確かにこの島の星空は綺麗だとは思うが、1日に何度も見るもんじゃないと思うんだがな。 「凄いです…、ドラマに出てくるような綺麗な星空ですね…」 「あははーっ、そうですよねー」 星空を眺めながら、はしゃぐ栞と佐祐理。 「ふん、くだらん。綺麗なのは認めるが、ずっと眺めるようなものではないだろう」 対照的に不機嫌そうな柳川はぶっきらぼうにそう言ったが、 「ふぇ〜、でも佐祐理は綺麗なものはずっと見ても飽きませんよー?」 「もう…、折角ロマンチックだったのに、そんな事言う人嫌いです」 食料の時同様またも女性陣二人から反論され、彼は黙るしかなかった。 しばらく星空を堪能した後、佐祐理は一つ、疑問に思っていることを聞く事にした。 「……柳川さん、ちょっと聞いても良いですか?」 「構わんが、なんだ?」 「柳川さんはもしこのゲームを無事終わらせる事が出来たら、その後何をしようと思ってるんですか?」 「!」 言葉に詰まる。全く予想外の質問だった。 「…分からない。考えた事も無かったな」 柳川はメガネを指で押さえ、考え込んだ。 ゲームに参加する前の彼は、鬼に完全に取り込まれていた。 そこに本来の彼の意思など無かった。 それにゲームが始まり、制限によって鬼の意思が抑えられてからも、彼が考えた事はゲームの破壊の事のみ。 その後の事など、まるで考えていなかった。 「佐祐理は、一杯やりたい事あるんですよーっ」 「舞や祐一さんと一緒にまた学校に行きたいし、お弁当も食べたいです」 「二人と一緒にまたダンスパーティーに出るのも良いですねーっ」 「ずっと一緒に、たくさん思い出を作りたいです」 佐祐理は―――とても楽しそうに、話を続けている。 栞も微笑みながら、話に聞き入っていた。 「…そうか。その二人、よっぽど良い友人なんだろうな」 それが、柳川が抱いた素直な感想だった。 彼女のしたい事はどれも、舞と祐一と一緒に、というものばかりだった。 「祐一さんは私も知ってますけど、本当に良い人ですよ」 ちょっと意地悪ですけどね、と唇に人差し指を当てながら、栞は付け加えた。 「あははーっ、二人とも佐祐理の自慢の親友なんですよー」 「舞は無口だけど凄い優しい子なんです。無愛想だから誤解されやすいんですけどね」 「祐一さんは変な冗談をよく言うけど、面白いし頼りになる人なんですよーっ」 笑顔を浮かべたまま、言葉を続ける佐祐理。 話を聞いてるだけで、彼女にとってその二人がどれだけ大事な存在かが伝わってくる。 しばらくすると佐祐理は突然話を止め、真剣な表情になった。 「どうした?」 「……柳川さんには、友達の方や、帰りを待っている方はいないんですか?」 真っ直ぐな瞳で柳川を見つめながら、そう口にしていた。 濁りの一切ない、綺麗な瞳で。 だから柳川も、素直に答えるしかなかった。 「残念ながら、いないな。人付き合いは苦手なんでな」 唯一の親友も、今ではもう廃人状態になってしまっている。 隆山署の連中も、ただの同僚に過ぎない。 彼に友人と呼べる者は、誰もいなかった。 「……………」 佐祐理は黙って続きを待っている。 「こんな馬鹿げたゲームの主催者は許せん。俺は必ず主催者側の人間を殺す。 そして、それを成し遂げた後なら死んでも構わないと思っている」 俺には元の生活でしたい事など、特に無かった。 それに元の生活に戻っても、きっとまた鬼に鬼に取り込まれ、殺戮を繰り返してしまうだろう。 だからこのゲームさえ終わらせれれば、刑事としての正義さえ貫けば、もう自分の命に未練など、無かった。 柳川は視線を落とし、自分の手を見つめた。 血で汚れた手。幾人もの命を奪ってきた手。 (俺は、償わなければならない……。) 自分よりも、他の罪の無い参加者達を生かして帰したい。 目の前の少女達を、生かして帰したい。 「そうですか…」 佐祐理はとても悲しそうな表情で、そう答えた。 佐祐理も、栞も、何も言えない。 佐祐理はこの話題を振った時、幾分期待していた。柳川も帰ってやりたい事があると言ってくれる事を。 帰りを待っている人がいるからここで死ぬ訳にはいかないと言ってくれる事を。 だが返ってきた返事は、ある意味最も彼らしいものだった……。 「………………………」 「………」 「……」 沈黙が続く。 「………でも」 佐祐理は意を決したように―――ちょっと息を吸い込み、何かを言おうとした。 「待て、どうやらお喋りの時間は終わりらしい」 「え?」 佐祐理と栞は柳川の言わんとする事がまだよく理解出来ていない。 「来客のようだ。それも、とびっきりタチの悪い、な。」 そう言い、森の方を指差す。 その方向を見た途端、佐祐理と栞は表情を強張らせた。 そこから歩いてくる人物は、異常な殺気を放っていた。 その人物が放つ殺気は、戦闘時の柳川のそれと同様のものだった。 即ち、人間とは似て異なる者。鬼が放つ殺気。 復讐鬼と化した女―――柏木梓が放つ殺気だった。 その表情は恐ろしく無表情で、 その瞳からは、憎悪の感情しか読み取れなかった。 柳川はまだ梓が思い違いをしている事を知らない。 それでも、梓が自分に対して強烈な殺意を抱いている事だけは、容易に理解出来た。 その手には、特殊警防。普通の人間が持っている分にはさしたる脅威では無いが、 制限されているとは言え鬼の血を引いた梓が持てば、それはまさしく凶器と化す。 ゲームを止めようとする者と、ゲームに乗っていない者。 本来なら戦わずに済む筈の両者だったが、このゲームでは一つの誤解が、 一つの疑心が、生死を懸けた戦いにまで発展する。 結局柳川に許された休息の時間は、ごく僅かに過ぎなかった。 【時間:1日目午後10時半ごろ】 【場所:G−9、海の家】 柏木梓 【持ち物:特殊警棒、支給品一式】 【状態:柳川への憎悪。第1目標:柳川の殺害 第2目標:瑠璃姉妹、初音の捜索、保護 第3目標:千鶴のマーダー化を止める】 倉田佐祐理 【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:恐怖、ゲームの破壊が目的。】 柳川祐也 【所持品@:出刃包丁、ハンガー、鉄芯入りウッドトンファー、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】 【所持品A、自分の支給品一式】 【状態:警戒、治療は完了したが、直りきってはいない】 美坂栞 【所持品:リサと自分の支給品一式、二連式デリンジャー(残弾2発)】 【状態:恐怖、香里の捜索が第一目的】 - BACK