氷川村V




PM5:00過ぎ。
向坂雄二一行、氷川村到着。
静かな場所である、立ち並ぶ民家に人気は感じられない。

「なぁ、何でこんな時間かかったんだ?」
「さぁ・・・」
「まぁ、目と鼻の先のはずだったんだけどね」
「はわわ・・・すみません〜〜」

顔を覆うマルチ、道中こんなことがあったんだ。




「はぅ?!」
「どうした、マルチ」

いきなり大声を出したマルチ、貴明が聞いてみたところ。

「わ、私の耳がぁ〜〜」
「あれ、本当だ。アンテナみたいなの、かたっぽなくなっちゃってるね」
「うお、マジだ。なくても動けるもんなのか?!」

興味深そうにジロジロ見られる、マルチは頬を染めて俯いてしまった。

「はう〜〜ダメなんです〜、わ、わたし、わたしはメイドロボとして、あ、あれがないとぉ・・・な、ないとぉぉ!!」
「お、落ち着いてマルチ。多分そこら辺に落としただけかもしれないからさ」
「そうそう。さっきからよく転んでたし、その弾みなんじゃね?」

・・・が、これに意外と手間取った。

「・・・え、えっと。ここでも・・・あれ、あっちでも転んでなかった?」
「いや、新城。ここもあそこもみーんなだ」
「はわぁ、すみません〜〜〜」

結局茂みの奥から見つかるまで、ゆうに一時間弱。
本来ならば日が暮れる前に、到着できたというのに・・・

「す、すみません〜・・・」
「いいから、気にしないの。見つかって良かったね」
「は、はいっ!ありがとうございます、沙織さんっ」

ここまで他の敵対者に会うこともなく順調に来れたからか、彼らはのん気なものであった。
緊張感の欠片もない。

だが、それはここまで。




「・・・!雄二、あっち誰かいる」

貴明が雄二の手を引く、沙織とマルチも向かいの民家の影に逃げ込んだ。

「・・・おい、誰も来ないぞ」
「しっ!静かに。」

貴明の真剣な表情に、思わず雄二も押し黙る。

あれから十分以上が経過した。しかし、場は膠着状態であった。互いに相手の出方を伺っているためだ。

「おい貴明。どうすんだ?」
雄二が貴明に尋ねる。
「まだ相手が何者か、武器がなんなのかもわからない。もう少し様子を見たほうがいい」
「そ…それなら私が試しに外に出て………」
「だ…だめだよマルチちゃん! 危ないよ!」
貴明たちの向かいの物陰に隠れていたマルチが顔を出そうとしたのを一緒にいた沙織が制止する。
「――ならこうしよう。雄二、これ持っててくれ」
そう言うと貴明は自分の持っていたショットガンを雄二に手渡した。
「え!? 貴明おまえ何する気だ!?」
「俺が試しに外に出て相手に話しかけてみる。それで、もし相手が敵だったらそいつを敵に向かって射ってくれ」
「ば…馬鹿。おまえ死ぬ気か!?」
「そ…そうだよ貴くん! それ凄く危ないと思う!」
「やめてください貴明さん。そういうことはやはり私が……」
「みんながそう言ってくれる気もわかるよ。でもさ。いつまでもこうしていられないでしょ?
こうしているうちに別の敵が来て全滅なんてことになったら洒落にならない」
「そ…それもそうだがよ」
「大丈夫だ。俺だってそう簡単に死ぬつもりはないよ」
そう言って貴明は雄二たちにニッと笑った顔を見せる。
「――わーったよ。でも、間違えておまえを射っちまうかもしれねーからな?」
「サンキュー」
貴明同様、覚悟を決めた雄二はショットガンを握った。

その時……



「待てぇい!」
「ん?」
「え?」
貴明たちの耳に聞き覚えのない男の叫び声が聞こえた。

「だ…誰だ?」
「どこから聞こえた?」
「はわわ…わかりません」
「――!? 見て。あそこ!!」
「!?」
沙織が指差す方へ貴明たちが目を向ける。

そこには沈みかけている夕日をバックに一人の男が立っていた。
――それも、わざわざ民家の屋根の上に……

「……なんだあれは?」
「さあ…」

「このクソゲームのルールに縛られてしまっている愚かなガキ共よ、この俺を見るがいい。
ゲームに乗ることなどなく、ただ愛する妻と娘を守るために自分の信念を貫き通し一直線に前に突き進む男……………
人それを『父親』と言うッ!」

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「わ〜。かっこ良いですね〜」
なんとかと煙は高いところが好きとは言うが、まさか本当だったとは、貴明たち(マルチ以外)は思った。

「………おい! そこのガキ共、なにぼけーっとしてんだよ! ここは『だ…誰だおまえは!?』って聞いてくるのがお約束だろうが!?」
「知るか」
「くっ…最近のガキはマ●ン●ボも知らねえのかよ……
せっかく村を見つけたからダッシュで駆けてきたっていうのによ………」
などといいながら今度は肩で息をする男。
しばらくすると、調子が戻ったのか再び顔を上げて貴明たちにこう言った。

「あー…本題に入るが、おまえら古河渚と古河早苗っていう奴らを見かけなかったか? 妻子なんだが……」
「ええっと、俺達ここにいるメンバー以外に会ったのってあなたが初めてなんです」
「ふむ、そうか・・・仕方ない。それは、もう俺の勘に任せて突っ走れと言う意味として受け取っていいのだな?」
「は?」
「よおし。待ってろ早苗ぇぇぇぇぇぇ!む、あっちから早苗の匂いがする気がするぅぅぅぅぅぅ!」
「……………」
そう言うと男――古河秋生(093)は診療所へと駆けていった。
もちろん民家の屋根から下りて。(しかも、やや飛び降り気味に)

「……なんだったんだ? あのおっさん?」
「さあ……」
取り残された貴明たちはなにがなんだかわからず、ただ途方に暮れるだけしかできなかった。
「あの…」
「ん?」
宗一たちが話していると、背後から女の子の声がした。
振り替えるとそこには物静かな感じのする自分たちと同年代の少女がいた。

「あっ。るりるり!」
「え? この子が?」
そう。今沙織が言ったとおり、彼女こそ沙織が探していた人の1人、月島瑠璃子(067)だった。


「でも、よかった〜。るりるりが無事で」
「うん……あとは長瀬ちゃんたちだね……」
その後、自己紹介などを一通り済ませたあと、瑠璃子を加えた貴明、雄二、沙織、マルチはそろって診療所へ向かっていた。

「こっちは5人。これでまた少し安全になったな」
「うん。そうだね…」
「あのおっさんを追いかけるっていうのも心配だけど・・・」
「でも、面白い人だったじゃない。できれば力になって欲しいね!」
「そうですね。それに診療所に浩之さんたちもいるかもしれませんし」

ゲーム脱出への希望が見えてきた貴明たちは診療所へ向かう足が自然と早くなっていた。




男は、その様子をずっと観察していた。
自分の気配を読み取り即座に対応しようとしていた貴明の姿勢は、素晴らしいと褒めてやりたいくらいだった。
だが。

「あの男が現れなければ、お前は今頃放送に名前を呼ばれていたかもしれない。・・・甘いな」

姿を隠したままやり過ごしたのは、那須宗一-------エージェント、NASTYBOYだった。
彼は知人を探すことを第一に、この氷川村にて身を潜めていた。
いくらか人の出入りはあったようだが、彼の求める人物は現れていない。

「診療所ねぇ。あそこには何人か女が入ってったた気がするけど・・・どうしたもんかな」

正直、今彼は自分の立ち位置に悩んでいる所があり。
何故ならば。

「こんな当たり武器、俺にゲームに参加しろと言ってるようなもんじゃないか・・・」

彼の右手でひかるのは、自動拳銃FN Five-SeveN。
まさに、当たり武器。宗一のために用意されたかもしれないと言っても過言ではない舞台。
まだ彼の行動は決まっていない・・・どうするかは、時間の問題かもしれないが。




 河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 向坂雄二
 【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 新城沙織
 【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 マルチ
 【所持品:モップ、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 月島瑠璃子
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く。隙をついてマーダー化するつもり】

 古河秋生
 【所持品:S&W M29(残弾数5/6)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。ダッシュで診療所へ】

 那須宗一
 【所持品:FN Five-SeveN(残弾20/20)、ほか支給品一式】
 【状態:普通】

 【時間:午後5時50分】
 【場所:I−07】
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