守る者、そのカタチ




パンッ!!
その銃声はあまりに突然で、銃弾が彼女に当たらなかったのはただの偶然にすぎなかった。
彼女、松原葵は自分が狙われていると悟るととっさに木の陰に身を隠した。
銃弾の飛翔した方向から一人の女性が姿を現した。
姫百合姉妹の為にこのゲームに乗ることを決めたイルファである。

「貴女に恨みはありませんが、瑠璃様達の為に死んで頂きます!」
そう言い放ち、銃を構えてじわりじわりと間合いを詰めていくイルファ。
葵は逃げ出そうにも、迂闊に動けばただ撃たれるのみである。容易には動けない。
葵の得物は鎖鎌。熟練者ならともかく、素人が容易に扱えるものではなかった。
もっとも、武器が何であれゲームに乗ることなどまったく考えて無かったのだが。

(銃さえ無力化すれば話し合う余地があるかもしれない……)
(徒手でなら遅れをとることもないはず……)
(だけど、ただ出たのでは撃たれるだけ……)
(ギリギリの間合いと、あと一点何か決め手が欲しい……)

(……さっき、なんて言った?)
(恨みはないけど誰々の為に死んで欲しい…だったっけ……なら!)

「守るものがあるのなら!どうしてこのゲームを壊そうと思わないんですか!!」
葵が叫ぶとわずかにイルファの動きが鈍る。その一瞬の隙を突いて葵は討って出た。
狙うは、銃。

がし!

手ごたえは、あった。
だが。

葵の突きは銃を持った右手ではなく左腕を捉えていた。
左腕の影から銃口が見える。

パンッ!パンッ!
銃声二発。
どさり、と音を立て葵は崩れ落ちた。

葵の誤算は二つ。
イルファの運動能力が普通の人よりは優れていたことと、
イルファがメイドロボだったこと。
もしイルファが普通の人間だったら激痛で動けなかっただろうに違いない。

動かぬ塊になった葵を見てイルファは思う。
(ゲームを壊す…その響きは甘美かもしれません……)
(ですがそれは…あまりにも儚い夢まぼろしです……)

葵の荷物を詰め替えて、イルファはその場を立ち去った。
愛しい者達を守るために……




【97 松原葵 死亡】

【9 イルファ】
【時間:午後3時】
【場所:D-02】
【支給品:マカロフ(装弾数5予備弾16)・鎖鎌・デイバック(二人前)】
【状態:左腕にダメージ】
目的:瑠璃・珊瑚・貴明以外の全員の排除
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