復讐と保護と




「ふぅ……。」
水瀬秋子は民家の一室で、大きな溜め息をついていた。
あの後名雪は気絶してしまったが、逆にそれが幸いして落ち着いて治療を行なう事が出来た。
もし錯乱した状態のままだったならば、治療を行なう事も容易ではなかっただろう。

肩の傷は深くゲーム中の完治は望めないが、後遺症が残るほどではなかった。
このゲームから生きて帰れさえすれば、体の傷は治る。
問題は心の方だ。
今はベッドで寝息をたてているが、うなされている。
酷い悪夢を見ているのかもしれない。

「よっぽど怖い目にあったのね……。」
名雪の頭を撫でながら見守る。

起きた後名雪は正気に戻ってくれているだろうか?
娘の心はまだ壊れてはいないのだろうか?
今は、ただ祈るしかない。
その横では澪も眠っている。名雪とは対照的に、安らかに眠っている。

娘はゲームに乗るような子ではない。それは母親である自分が一番よく知っている。
名雪は誰かに襲われたのだ。何もしていないのに一方的に、襲われたのだ。
傷付けられ、泣き叫びながら逃げ惑う我が子の姿を思い浮かべた。



(ゆるせない……………)
強く握り締めた拳から、自身の血が滴り落ちる。
名雪を傷付けた者が誰かは分からない。しかし、ゲームに乗った誰かである事は間違いない。
ゲームに乗った者達を狩り続ければ、いつかは名雪の仇に辿り着く筈である。
今はゲーム開始時とは状況が違う。今の自分には銃も刃物もある。
ならばマーダー達と遭遇した時の結論は一つ。
(ゲームに乗った奴ら……、死をも上回る恐怖と苦痛を、味あわせてあげるわ………!!)
復讐の瞬間を想像すると、何故か口元に笑みが浮かび上がってくる。
激しい怒りの感情が沸きあがっているはずなのに、笑みが浮かび上がってくる。

だが今は感情に任せて動き回るわけにはいかなかった。
本当なら今すぐにでも狩りに赴きたい。ゲームに乗った者達を殺してまわりたい。
だが、今自分がいなくなれば目の前で眠る娘達を誰が守るのか。
娘達の命、それは復讐よりも優先すべき事だ。
娘を傷付けたマーダーは絶対に許せないが、
娘や未来ある子供達を助ける事より優先すべき事など、存在しない。

だから、今はこうして娘の苦しそうな寝顔をただ見守るしか、無かった。

トッ…
トッ…

「!」
秋子はすぐさまその音に気付いた。
外から微かだが足音が聞こえてきた。
秋子はすぐに武器を手に取り、外へと向かった。
愛する娘達を守る為に。
そして足音の主がマーダーなら、想像を絶する苦痛を与える為に―――




【時間:午後9時頃】
 【場所:F−02】

 水瀬秋子
 【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、包丁、殺虫剤、ほか支給品一式】
 【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
  ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】

 上月澪
 【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
 【状態・状況:浩平やみさきたちを探す。今は睡眠中】

 水瀬名雪
 【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
  赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:肩に刺し傷(治療済み)、睡眠中。起きた後の精神状態は次の書き手次第】
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