あれは誰? その人は突然風のような速度で現れた。 黒い長い髪の美しい女の人がこっちを見ていた。 その人は緑色のトカゲみたいな生き物に跨っていた。 あの生き物ちょっと可愛いかも……… そんな事を考えながらトカゲを見ていると、その人は乗り物から降りてこちらを見た。 初めてその人の目をみた。その瞬間背筋がゾクリとした。 冷たい、何の感情も通っていない目。 その目を見た瞬間、私は迷わずに逃げ出していた。 「ぁっつ!」 背中に鋭い痛みが走り私はもんどりうって地面に倒れていた。 次の瞬間、私はお腹を蹴られて何メートルも地面を滑っていた。 怖い怖い怖い。殺される。 痛い痛い痛い。体中のあちこちが痛い。 熱い熱い熱い。背中が熱い。手を背中に当てて見ると、手は真っ赤になっていた。 真っ赤な手を見た瞬間、私の意識は薄くなっていった…。 倒れたまま見上げた景色には、冷たい濁った殺意の目が移っている―――― そこで神岸あかりは目を覚ましていた。 今はもう出血は止まっていたが、血を流しすぎたのかまだ意識は朦朧としている。 自分が神社の建物の中にいるらしき事だけは、何とか把握出来た。 「あぐっ!?」 意識が朦朧としたまま立ち上がろうとし背中に激痛が走る。 堪らずあかりは床に座り込んだ。当分は動けそうになかった。 状況を整理しようとするが、上手く頭が働かない。 仕方が無いのであかりはまた眠る事にした。 今は何も考えられない…。 国崎往人は観月マナと別れてから歩き続けていた。 ―――しかし一つ、大きな問題があった。 「腹減った……」 往人は今にも倒れそうな顔色をしていた。 彼の燃費は非常に悪い。それに今は背中に男を背負っている。 もはや体力が尽きるのは時間の問題だ。 しかし今の彼は旅芸人をしていた時とは状況が違う。 「今こそコイツの出番だな」 そう言って往人は自分のバックの中身に目をやる。 そこには二人分の食料がたっぷりと詰まっていた。 往人の目がキュピーンと、音を立てそうなくらいの勢いで光る。 そう、今の彼には十分な食料がある。これだけあれば当分食料には困るまい。 「後は食う場所だが……」 今は山の中である。ここでも食えなくはないが、出来ればもう少し落ち着ける場所で食べたい。 そう考えながら歩いていると前方に神社が見えてきた。 ようやく往人は落ち着いて食べれそうな場所を見つけた。 自然と歩くペースも早くなる。参道を通り神社の中を進んでいく。 しかしそこで彼が見たものは血で赤く染まった制服姿のまま眠っている少女の姿だった。 「な……、お前大丈夫かっ!?」 荷物と月島拓也を地面に置き、慌てて駆け寄る。 少女はすやすやと寝息を立てていた。とにかく生命の危機には瀕していないようである。 しかし血まみれの外見から考えるに、傷が浅いはずはない。 出来る限り早い処置が必要だろう。 「………本当に今日はロクな事がないな」 往人はそう呟いていた。彼はまだ当分飯にはありつけなさそうだった。 国崎往人 【時間:一日目午後8時20分頃】 【場所:鷹野神社(F-6)】 【所持品1:トカレフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)】 【所持品1:化粧品ポーチ 支給品一式(食料のみ二人分)】 【状態:空腹、少し落ち込んでいる】 月島拓也 【時間:一日目午後8時20分頃】 【場所:鷹野神社(F-6)】 【所持品:支給品一式(往人持ち)】 【状態:気絶中】 神岸あかり 【時間:一日目午後8時20分頃】 【場所:鷹野神社(F-6)】 【所持品:支給品一式】 【状態:血まみれ、睡眠中。全身に無数の軽い擦り傷、打撲、背中に長い引っ掻いたような傷】 - BACK