「ハァ…ハァ…うーへい、大丈夫か」 平瀬村のとある建物の一角で、るーこと春原は周囲の安全を確認しつつ二人は一時の休息を取っていた。 がむしゃらに走ってきたため、途中で何かが聞こえたような気もするが結局聞き取る事が出来なかった。 息も絶え絶えなるーこに対して春原の方はまだ若干余裕がある。自分が元サッカー部の経験があるとは言え、やはり男と女だ。春原は改めてその事実を確認せざるを得なかった。 「僕はまだいけるけど…そっちの方こそどうなのさ」 「…うーへいが羨ましい。るーは…少し、疲れた」 苦笑いをしてるーこが建物に寄りかかり座りこむ。春原はるーこを気遣って着ていた制服の上着をそっとかけてやった。 「ふふ…『うー』に情けをかけられるとはるーも落ちたものだ。戦士として情けない」 「バカ、何言ってるのさ。つらい時は互いに助け合っていくもんなの。誰かが誰かを一方的に守るとか、戦うとか、そんなもんはないから」 ニッと笑って語りかける春原に、るーこも少しだけほぐれた表情を見せた。 「さっき、るーが『かえで』とかいううーを抱えたうーに銃を向けたときもうーへいは止めてくれたな」 ――やめなよ。 ――……うーへい? ――こいつ…泣いてるよ。 そんなやつが殺すわけ無いよ。……少なくとも、こっちの女の子は。 るーこの頭の中で柳川の出来事が反芻される。 「…だから、るーはうーへいが羨ましい。るーが持ってないものをうーへいはたくさん持っている」 それまで一度も見せなかったるーこの側面に、春原はある種の困惑さえ覚えた。 これまでの連続した緊張から解放されて、気が滅入ったのかもしれない。どんなに気丈でも、るーこは女の子なのだから。 しかし、困惑ばかりしても仕方がなかった。 「だったら、これから手に入れてけばいいじゃん。僕だって同じさ、僕にはないものをるーこはたくさん持っているからね。るーこくらい度胸があれば岡崎にも杏にも…って、どうでもいいや。 ともかくさ、ここでじっとしててもしょうがないだろ? 他のみんな、探しにいこうぜ」 るーこに手を差し出す。彼女は少しだけ間を置いてから「ああ」と言って手を取った。 「うーへい…これ、返すぞ」 るーこが春原の上着を返そうとする。しかし春原は首を振って拒否する。 「いいよ、るーこ汗でびっしょりだろ? 風邪引いちゃいけないからさ、着とけよ」 「しかし、それはうーへいも同じだろう」 「僕はこういうのには慣れ…いやいや、風邪を引かない鋼鉄の肉体なのさっ! バカは風邪を引かないってね…って、僕はバカじゃねぇよっ」 一人でボケたりツッコんだりする春原に思わずクスリと笑ってしまうるーこ。 「ああもうとにかく! しばらく着てていいから! ほら行くよ! こうなったら、まず着替えから探すぞっ」 「…ありがとう」 小声で言ったその言葉は、春原には聞こえていなかった。 春原は気付いていない。無意識に、「るーこちゃん」から「るーこ」へ呼び名が変わっていたことに。 より強く、彼女を支えてやりたい、と思っていたことに。 それは春原の心のどこかにあった男としての責任感がそうさせたのかもしれない。妹を守っていた、昔のように。 るーこは気付いていない。無意識に、春原を一人の人間として信頼していることに。 それはるーこの心のどこかにあった彼女の寂しさがそうさせたのかもしれない。 二人がその事に気付くのは、まだもう少し後。 『春原陽平(058)』 【時間:1日目午後6時過ぎ(放送は聞き逃した)】 【場所:F−02】 【所持品:スタンガン・支給品一式】 【状態:少しだけ疲労。着替えを探す。次に仲間の探索】 『ルーシー・マリア・ミソラ(120)』 【時間:1日目午後6時過ぎ(放送は聞き逃した)】 【場所:F−02】 【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】 【状態:やや疲れ気味。着替えを探す。次に仲間の探索】 - BACK