秋生の戦い




鉈を構え、いつでも切り掛れるように体勢を低くし、鹿沼葉子は相棒を促す。
「挟み撃ちにしましょう。二対一なら、確実に勝てます」
天沢郁未も薙刀を構えつつコクリと頷き、二人が左右に分かれる。

「ちっ…テメェらも必死だな、まあ仕方ねぇか。生きるためだもんな」
古河秋生は銃を鉈を構えた少女の方へ向け、一瞬だけ視線を
横たわる愛妻へと向けると、再び「ちっ」と舌打ちして、向き直る。

  娘と共に生き延びるためとは言え、コロシアイなんぞしたくねぇもんだ。
  これがゾリオンだったりしたなら飛び上がるほど喜べるってもんだがなぁ。
  まあ、愚痴ってたところで状況が良くなるわけじゃねぇ。
  残弾は…残り3発。それぞれに1発ずつ当てたとして、遊べる弾は1発のみ。
  しかも相手は女とはいえ2人がかりか…っち、とことん不利だな。

「はぁぁぁぁっ!!」
気合の声と共に、葉子が切り掛ってくる!
「あめぇぇぇぇっ!」
横っ飛びして葉子の袈裟切りを交わすと、すぐさま郁未の間隙が襲うっ…。

「ちっ」
ガキィィィィンッ!
与えられた愛銃の長い銃身で薙刀の一撃をいなすと、そのまま踏み込み…
ドゥッッ!
郁未の脇腹に膝を強く入れる!!

「ぐ…」
呻きながら倒れる郁未の死角から葉子が再び切り掛る!
「!?」
さすがに反応が遅れ、
ザシュウッ!!
左肩に鉈の一撃が掠る!!

「あいってえええぇぇっ!」
一瞬気を失いそうになるほどの激痛が秋生を襲うが、キッと持ち直し、
激痛で捩った身体をさらに反転させつつ、
バクンッ!!
渾身の回し蹴りを葉子に見舞う。
よろけた体勢のまま部屋の隅、元いた場所の方へと周回し、再び2人との距離を取り直す。

  やりにくいな…手加減してやりてぇとこだが、こいつら中途半端に
  連携とってきやがる。いっそ完全に手錬か初心者の方が動き易いんだが。
  まあ、うまくはまってくれよな…。

激痛の走る左肩を上げてポリポリと頭を掻きつつ、銃を構えなおす。

  …くっ、不可視の力さえ使えれば…。
  先の芳野とか言ったヤツといい、この父親といい、わたし達が能力を制限されて
  大の大人が自由自在に動けるなんて理不尽な話だわ。
  しかもこいつ、銃を持っている上に動きが素人じゃない。
  だけど、今は部屋の隅にいる。やれるならこれがチャンスか…!?

郁未はヨロヨロと立ち上がり、葉子に合図を送る。
「一気にいくわよ」 「はい」

2人は構えを取ると、
「やあああああぁぁっ!!」
一斉に打ち込んできたっ!

かかった…!!
秋生は内心ほくそ笑んだ。
おそらく、移動のしにくい隅に移動した事をチャンスだと思ったのだろう。
それこそが秋生の罠だったのだ…!!

「おおおおおおおおお」
ブンッッッッ!
手元にあった椅子を左腕の痛みも構わず、思い切り郁未に投げつけるっ!
急に力を入れたために、ブシュウッと左肩から出血する…。

「え!?」
秋生に意識が集中しすぎて予想出来なかったのであろう郁未に避ける術は無かった。
ガツン!頭に直撃し、その場に昏倒する。
「郁未さんっ!」
一瞬、葉子の目が郁未に逸れる。それが葉子の失敗だった。

これがいつもの遊びなら、「お前に、レインボー」とか咥えタバコで
決めセリフを吐いているところだ。

「―――わりぃな、オレの女の仇は取らせてもらうぜ…」
ガオォォン!!
銃弾は葉子の太ももを撃ち抜く…!
「あぁぁぁぁぁっ」
悲鳴を上げて葉子は吹っ飛び、身に襲う激痛に意識を失う。

「こんな事になってアレだが…できりゃ、オマエらも生きてくれ」
捨てセリフを残し、2人から武器を取り上げ、早苗の遺体を右肩に抱えて診察室を後にする。

診療所を出てしばらく歩くと、渚が待ち構えていた。連れの女も起きたらしい。
「バカか、テメェはぁっ!逃げてないでどうすんだよっ!」
「お父さんを…お父さんを置いていけるはずがありませんっ」
涙を流しながら、それでも毅然としている渚を、それ以上責められるわけがなかった。
「……ちっ。今は逃げるぞ!いつアイツらが目を覚ますとも限らねぇ」
「おい、渚とそこのオマエ、これ持っておけ」
ガシャン、左手に持っていた鉈と薙刀を落とす。
渚が薙刀を、佳乃が鉈をそれぞれ持つ。

「ふぅ…気の休まる時がねぇな…」
血は引いたが、痛みの治まらない左腕でタバコを咥え、火をつける。
……と、激戦の疲れで身体がフラっとし、早苗を危うく落としそうになる。
一見余裕に見えた戦いも、実際は年齢とタバコのために体力が低下し、
しかも左肩に裂傷を負った秋生には短期勝負を臨んだ結果だったのだ。

―――早苗、間に合わなくてすまねぇ。オマエの分まで渚を守る。
―――だから、今は安心して眠ってくれ……。

肩で眠る愛妻の髪に、そっと顔を寄せる。
険しい表情で眠る早苗に笑顔が戻った……気がした―――




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【時間: 18:30】

【場所:I-7 診療所外】
古河 秋生
 【持ち物:S&W M29(残弾数2/6)、ほか支給品一式】
 【状態:左肩裂傷、逃亡、右肩に早苗の遺体を抱えている】

古河 渚
 【持ち物:薙刀】
 【状態:父の帰還で若干の落ち着きを取り戻す。父と共に逃亡】

霧島 佳乃
 【持ち物:鉈】
 【状態:渚から説明を受け、現状を把握。上記2人と共に逃亡】

【場所:I-7 診療所内】
天沢 郁未
 【持ち物:支給品一式(水半分)】
 【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)、頭に軽症と軽い出血、気絶中。ゲームに乗っている】

鹿沼葉子
 【所持品:支給品一式】
 【状態:肩をケガ(行動には概ね支障なし)、右大腿部銃弾貫通(出血、痛み共に大)、気絶中。ゲームに乗っている】
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