選択の時




美坂香里は焦っていた。
待ち伏せをしていたものの、思ったより獲物はかからない。
自分の出発自体、思ったよりも他者より遅かったようで。
最初の犠牲者を出した後、数時間粘ったがこの様である。

「情けないわね・・・」

今はちょうど、木から降りて人を探すために歩き出したところであった。
それは何故か。

---------栞を探すためだ。

先ほど死者の一覧が放送にて流された。そこに妹の名前はない。
だが、体の弱い栞のことである・・・はっきり言って時間の問題だ。

(栞は私が守らなきゃ、栞は私が、私が、わたしが・・・)

握ったアーミーナイフに力がこもる。
移動中である今は、狙撃銃であるレミントンは鞄にしまった状態で。
香里は護身のためにこの、即戦力になりえる代物を手にしていた。
・・・このナイフは、射殺した河野貴明の支給品であった。

一時間ほど歩いただろうか、少し視界の開けた場所に他よりか少々目立つ木があった。
何故目立つか。

「お前、よくこのトラップ地帯を無事で通り抜けられたな」
「おい女、俺を降ろせ!!」

何とも間抜けな絵面。思わず香里も気が抜ける。
そこには何故か、片足をロープに取られ宙吊りになっている男が二人。
恐らく二人の物であろう荷物は近くに散乱している。

香里は二人の男を無視して、まずその荷物漁りから始めた。

「あ、てめっ!!俺様の荷物を勝手に漁るなっ」

うるさい。だが、作業を止める気なんてサラサラない。

「レトルトのラーメンに化粧品一式・・・大外れね」
「何を言う。ラーメンセットなんて当たりにも程があるだろ」
「・・・」
「まぁ、食せる状況を作らなくちゃいけないんだけどな。第一に。」

チャキン。香里のナイフが男のうちの一人の頬に当てられる。

「・・・馬鹿にしてるの?」
「失敬、ちょっとしたジョークだ」
「女、俺を降ろせ!!!」

ふう、と。一つ溜息。
この二人を殺すのは簡単なことであった。
ナイフでメッタ刺し、レミントンで一発。その行為に対するためらいはない。
だが、余裕があるからこそ、香里にはしておきたいことがあった。

「人を探しているの。美坂栞っていう女の子、知っているかしら」

様子をうかがう。二人からの反応はない。

「降ろしてあげる、その代わりの条件よ。教えて」
「その女の特徴は?」
「・・・降ろして欲しいだけ、そのための嘘をつかれるのはごめんだから。」
「成る程」


ナイフで脅して吐かせる事も一理ある。
だが、ここで変に騒がれ人を呼びつけることも香里は望まなかった、だから。

--------居場所を吐かせた後殺す、栞らしき人影を見覚えなかったようであっても殺す。

これが、香里の出した結論であった。

「会った女の特徴が会えばいいんだな、よし。俺様が見たのは車椅子に乗ったガキと黒い髪のチビと・・・あともう一人、チビだ。」
「・・・最後の人の特徴、もう少し教えて欲しいんだけど」
「覚えてねえよ、とにかくガキだガキ」
「・・・あなたは?」

騒がしい方の男が使えないと分かると、香里は矛先をもう一方の男に向ける。
男は何か考えるようにした後、言った。

「お前と同じ制服のヤツなら、見た」
「・・・それで?」
(む・・・)

香里の表情は変わらない。
・・・正直、男は彼女を舐めてかかっていた。
彼女の探し人、可能性として考えられるのは「家族」か友人だ。
だが、人数で見れば圧倒的に「家族」で参加させられている可能性は低い。
・・・名簿のチェックが同時にできていれば、それは問題にすらならなかっただろうけれど。今の宙吊りの彼には酷なことだ。

(同じ制服のあの女、アレだと思ったんだけどな・・・)

いきなり鞄を投げつけてきたあの少女。
・・・たっく、俺が何をしたと言う・・・。


「それで?もう、誰にも会わなかった?」
「あと、ポニーテールの女とショートカットの女」
「・・・」
(ダメか。あと何か・・・)
「終わり?」
「いや、あと・・・こう、おかっぱ?みたいな」

すっと。目に見えて分かる、変貌。
香里の表情が、厳しくなる。
(お、ビンゴか)

「その子、髪は何色だったかしら」
「・・・茶」
「服装は?」
「そこまでよく見てねーよ」
「じゃあ、スカートだった?」
「・・・ああ、ズボンではなかったと思う」

そして、これは賭け。
男は実際に会った少女の特徴を、香里に伝えた。

「背は小さい、胸も小さい。年頃は・・・あんたより、少し下に見えた」
「その子よ、その子が栞よ!!教えなさい、どこで見たの!!!」
「まあ待て、ぶっちゃけ俺はその栞って子とすれ違った後数時間もこうしてるんだ。
 地形的にどの辺、と言われても地図じゃあ感覚的に無理だ」
「・・・なんですって?」
「実際に行けば分かる、多分。案内してやるよ」

つまり、本当に降ろせと。これが、男の要求。
実際あれだけ栞の特徴を言い表した男の情報は、香里にとって喉から手が出るほど欲しいものであった。
だが、ここで始末しなかったおかげで後の行動に響くというのも望まない。
選択の時だった。




美坂香里
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【持ち物:アーミーナイフ・Remington Model 700Police装着数4 残弾数51、支給品一式】
【状態:迷い中】

国崎往人
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】

高槻
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】

月島拓也
【所持品:なし】
【状態:気絶中】

【備考:往人の所持品と高槻の所持品は木の根元に散在、詳細は下記に。
    トカレフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(×4=往人と名雪と拓也と高槻のバッグ)】

(Bルートと違い栞の服装は私服)
-


BACK