折原、そっちは調子はどうだ? お前は放送で呼ばれなかったしまだ無事だよな? 大体お前、そう簡単に死ぬようなタマじゃないしな。 俺は今、長岡さんや耕一さん、川澄さんや吉岡さんと一緒に平瀬村を目指している所だ。 一癖ありそうな奴ばっかりだけど、ゲーム開始から半日足らずでこんなに仲間が集まったのは、 幸先が良いっていえる事なのかもな。 もちろん裏切られる可能性も考えないといけないけど、今一緒にいる連中は信用出来る………と思う。 勘だけど、何故か確信に近いレベルで、そう思えるんだ。 だけど、今はあまり雰囲気は良くないんだ。放送があって以来、空気が重い。 あの後武器の分配だけは済ませたけど、それ以降会話が無い。 みんな色々と考え込んでるみたいだ。 なあ折原、こういう時こそ俺の出番だよな? ……………………………………………………………………………………………………………… 「なあ、長岡さん」 住井護が横を歩く長岡志保に声を掛けていた。 「ん、なに?」 「さっき情報交換の時に何回か、耕一さんの事を変態さんって呼んでたよな?何でなんだ?」 ピクピクッ!! 耕一の顔が引きつる。これ以上は無いというくらい、嫌そうな表情だ。 「なになに?志保ちゃん情報が聞きたいわけ?」 一方の志保は、目を輝かせている。 「ああ、頼む。なんか、面白そうだ」 「あれはねえ、ゲームが始まってすぐのことなんだけど…」 「ちょっと待ったぁーーっっ!!」 慌てて志保を制止する耕一。 その様は正に、必死である。しかしそれも当然だ。 志保の事だ、色々と脚色して話を伝えるに決まっている。 男の名誉がかかっているのである。 「ん、耕一さんどうしたんだ?」 「いや、あれには事情があってだな……、まあ、とにかくその話題は禁止にしてくれ、頼む」 そういって苦笑いしながら、両手の手のひらを顔の前で合わせてお願いのジェスチャーをする耕一。 「隠し事っスか?面白そうだから聞かせて欲しいッスよー」 「うーん、教えてあげちゃおっかなぁ、どうしようかなぁ」 「勘弁してくれ〜〜」 ニヤニヤしながら聞き出そうとする住井とチエ、必死に制止する耕一。 教えたくてたまらない様子で、ウズウズしている志保。 そしてその話題を気にせずに黙々と歩き続ける舞。 この構図は、10分程続いた。 最終的に耕一は秘密を守り抜いた。 耕一は男の名誉をかけた戦いに勝利したのである。 住井は実の所、 耕一が志保に変態と呼ばれる理由について触れられたいであろう事は予想していたが、 敢えてその話題に触れた。 耕一への嫌がらせというわけではなく、その話題なら場の空気が和むと思ったからである。 住井の試みは成功し、一同の空気は幾分か柔らかくなっていた。 周囲への警戒は怠らないものの、会話をしながら歩き続ける一同。 時折各自の顔に笑顔も浮かんでいた。 しかし、彼らが街道に近付いてきた時、それは起こった。 「………何か臭う」 マイペースで歩き続けていた舞が、突然口を開いた。 「これは………、血の臭いか!?」 そう言って耕一と舞は臭いのする方向へと駆け出していた。 残りのメンバーも慌てて後を追う。 走った末に彼らの辿り着いた先には、一つの惨劇の結末があった。 倒れたまま寄り添う二人の体。 月宮あゆと、草壁優季の遺体だった。 上から上着をかぶせられていて怪我の状態は把握し切れない。 把握しきれないが、飛び散った血の量からいって、二人とも既に死んでいる事は明らかだった。 「こんな、酷い………。」 住井以外はまだ直接、人の死体を見たことが無かった。 死体を初めてみたショックは大きく、一同は暫くそのまま黙り込んでいた……。 暫くして、諦めきれないのか、耕一が遺体に近付き上着の下を覗き込んだ。 ……そしてすぐに表情を曇らせていた。 「片方の子の制服……、私達と同じ学校みたいね」 「そうッスね、放送に私の知り合いの名前は無かったッスけど……」 「……みんな、行こう」 耕一はそれだけ言うと、歩き出した。 みんな、その言葉に従って歩き出した。 このゲームにおいて死者にしてあげれる事は、殆ど無い。 死体を埋めるのは時間がかかりすぎる。 「誰だか知らないけど……、お前達の分も生きてみせるからな」 耕一は一度だけ振り返り、そう言っていた。 そう、今彼らが横たわる二人に対して出来る事は、 二人の分も頑張って生き続ける事だけであった。 【時間:1日目午後7時頃】 【場所:現在はg-03の街道】 『川澄舞(028)』 【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】 【状態:普通。祐一と佐祐理を探す。平瀬村に向かって移動中】 『吉岡チエ(117)』 【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】 【状態:普通。このみとミチルを探す】 『住井護(059)』 【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式(水は半分ほど)】 【状態:普通。浩平を探す】 『柏木耕一(019)』 【所持品:大きなハンマー・支給品一式(水は三分に二ほど)】 【状態:普通。柏木姉妹を探す】 『長岡志保(071)』 【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式(水は三分に二ほど)】 【状態:足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】 - BACK