ゲーム開始直後、月島瑠璃子は樹の上に登った。 支給された品は何処かの鍵、戦闘に役立つものではなかった。 見知らぬ他人の生死に特段の興味はない。 安否が気になる人物はいるが、さしあたって知る術はない。 従って、川の流れを眺めながら国の行く末を案じるが如く、 しばらく様子を見ることにしたのだった。 正午、彼女は封じられていたはずの電波の力が戻ってくるのを感じていた。 この島は、哀しみの電波と狂気の電波に満ち溢れている。 特に、狂気の電波は島の中央部にある山の上空から多く飛んでくる。 あるものは一人生き残るために躊躇いなく他者を殺し、 あるものはその場で協力することにした同胞を無残に殺され嘆き悲しむ。 人が死ぬとき、人を殺すときに発せられる電波はあまり好きではない。 いつしか彼女は、この殺し合いを止めたいと考えていた。 今なら電波が使える。きっと何か出来るはずだ。 対抗するのなら、同じく電波を扱える兄と祐介に協力を仰ぐべきだろう。 しかし、祐介と拓也が協力し合うことなどありえないことはわかっていた。 あの夜の出来事がまだ後をひいているからだ。 また、兄の拓也は間違いなくゲームに乗っている。 今の彼は、瑠璃子がそばにいないと正気を保っていられない状態である。 とりあえずは現状を把握すべく、電波を調べることにした。 どうやら祐介は、二人の少女と共に行動しているようだ。 そのうち一人は裏があるようだが、しばらくは大丈夫だろう。 (くすくす、長瀬ちゃん、祐介おにいちゃんなんて呼ばれて微妙に鼻の下が伸びてるね。 後でお仕置きだよ) チリチリ (この感覚は……) 「祐介おにいちゃん、どうしたの?」 「いや、何でもない」 (これは瑠璃子さんの電波……力は封じられているのではなかったのか? 電波が使える?) 続いて拓也の様子を探る。彼はちょうど、源蔵に吹き飛ばされたところだった。 彼自身の精神状態もだいぶ参っているようである。 止めはさされていないようだが、このままではまずい。 彼女はそちらに向かってみることにした。 月島瑠璃子 【時間:午後5時ごろ】 【場所:H-9】 【持ち物:鍵、支給品一式】 【状態:主催者に対抗する、拓也に会いに行く、後で祐介にお仕置き】 - BACK