守るべき存在




「あんたら、何やってるんや!」

川澄舞と向坂環、対峙する二人の間に入るよう、一人の女性が飛び出した。
長い髪を一つでまとめ、スーツで決めた一見キャリアウーマンのような出で立ち。
神尾晴子だった。

「いい加減にしいや、アホらし。
 ほら、二人ともその物騒なもん早よしまい」

・・・先に戦闘体勢を崩したのは、環だった。

「不利になりそうだし、それなら私は退散するわ」
「待て、逃がさない」
「機会を見つけてまた来るから安心しなさい。・・・だって、気に入っちゃったんですもの」

すっと細められる環の瞳は、舞の手の中の日本刀にピントを合わせていた。

「今度会ったら、それであなた自身をきざんであげる。楽しみに待ってなさい」

呆然、二人のやりとりに晴子はついていけていない。
そしてその時になり、環の足元で伏せている一人の少女の存在にやっと気がついた。
辺りには血の流れた跡、今は止まっているように見えるものの傷は浅くないだろう。

「じゃあね、無様なナイトさん。それとおせっかい焼きのおばさん・・・私の邪魔をした罪は重いわよ。
 あんた達のために強力な武器、かき集めてやるわ・・・」
「ちょ、あんた一体・・・」

晴子の言葉を待たず、環はその場を離脱した。
彼女の鬼のような形相、殺意に満ちた表情で、晴子はやっとこの場の状況を理解できたのだった・・・。


「・・・チエ」

環の姿が見えなくなると、舞は前のめりに倒れ伏せている吉岡チエの元に駆け寄った。
抱き起こそうとすると、ぼうっとしていた晴子もさすがに我に返り彼女の手を掴んで止める。

「ちょい待ち、気安く動かしたらあかんっ」
「・・・」
「裂けてるんは首やろ、下手したら傷広がるで・・・それ貸し」

晴子はうつぶせになっているチエをゆっくり自分の膝に上げながら、舞の身に着けいてるケープを指差した。
即座にリボンを解く舞、その行動の素早さには晴子も舌を巻く。

「お!気が利く子はお姉さん好きやで」
「・・・おばちゃん?」
「アホっ、お姉さんや!!・・・それにしても倒れたのが前のめりやったのが難儀やな。
 余計に血が出てるさかい、危険度も三倍増しや」

ケープを包帯代わりに巻きつける晴子、舞はじっとその様子を見ていた。
何もできることはない、せめてとチエの手を握る。
・・・温かかった。それは生命の温度。
そう、彼女はまだ生きている。
守れなかった苦悩、でも彼女は生きていてくれた。

「チエ・・・」
「・・・・・・・・ん・・・・・」

舞の呼びかけに対し、うめき声が返される。

「意識はあるんやな、でも動いちゃあかんで。
 ・・・ん、これだけの出血さかい、輸血も考えなあかんかもな」


「輸血・・・」
「うちらにその処置ができるとは到底思えへんけどな」

晴子の呟きには耳を貸さず、舞はすぐさま地図を広げた。
今いる場所の近くに村はある。・・・だが。

「病院、ない」
「せやな、こっちの・・・氷川村?なら診療所があるみたいやけど」

地図に載らないほどの小さな物ならあるかもしれない、だがそんな所に輸血用の血液があるとは思えない。
いや、まして「診療所」ですら、そんな大掛かり物がちゃんと用意されているのかと、不安要素は尽きない。
だが、行ってみなければ可能性すら存在しないのだ。

「ほな、行くか」
「はちみつくまさん」
「はぁ?」
「・・・」
「あっはは、けったいな子やな〜。そういう変なとこ、うちの観鈴ちんそっくりや」
「?」
「うちは神尾晴子。晴子さんでええよ」
「川澄舞。・・・そっちは、チエ。吉岡チエ」
「そか。じゃあ、チエちゃんの方はうちがおんぶするさかい、ちょっと手伝ってや」
「ぽんぽこたぬきさん」
「はぁ??」

ふるふる。舞は、首を横に振っていた。
その指す意味は。


「私が、背負う」
「アホ。人一人背負うって、死ぬほど疲れるで〜」
「・・・」

舞は頑な態度を崩そうとしなかった。
さすがの晴子も、これにはお手上げで。

「じゃーないな。その代わり交代制やで、あんたが疲れた言うたらうちが代わる、これでどや」
「はちみつくまさん」
「・・・ま、決まりやな。ほな、いこか」

舞、チエの荷物も抱え上げ、計3つになってしまった荷物をしょいながら晴子が先導する。
その後ろを、舞はゆっくりと歩き出すのだった。
背中にはチエ、ずしりとした重みを苦に感じることなどない。
この背中の温もりは、今の舞の守るべき存在そのものなのだから。




川澄舞
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:なし(チエを背負っている)】
【状態:氷川村を目指す】

神尾晴子
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:武器不明・支給品一式、日本刀・牛丼一週間分(割箸付き)・舞の支給品一式、チエの支給品一式】
【状態:氷川村を目指す】
 
吉岡チエ
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:なし】
【状態:重傷、首の後ろを真横に切られている・氷川村を目指す】

向坂環
【持ち物:バタフライナイフ、爆竹&ライター(爆竹残り9個)、他基本セット一式】
【状況:逃走済み・貴明を探すついでに邪魔者を減らす方向に】
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