倉田佐祐理を抱え、夜の闇に消えた柳川祐也の姿を柏木梓はただただ目で追っていた。 彼女の心は空洞で。 何も、考えられず。 自分の犯した罪と、手にかけた際に起こった人の肉を抉る感覚が全てを麻痺させていて。 だから、彼女は気づかなかった。 周りの様子に、何も気を使うことができなかった。 すれは、即ち。 一つのチャンスであった。 梓の背後には足元を忍ばせた影があり、それはもう真後ろまで来ていた。 だが、梓は気づかない。 先ほどの勢いなら締め付けてやることができたであろう。 だが、今の梓は気づけない。 --------来襲者もそれを知っていたから、臆することなく彼女の背中をとった。 (無様だな) 微動だにしない彼女の襟首に向かい。 七瀬彰は、渾身の力を込めアイスピックを突き刺した。 「っ・・・・・・・ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」 グサッグサッグサッ! 両手でしっかり握りこめ、何度も何度も反復運動を繰り返す。 崩れ落ちていく肢体の様子にも気にせず、その行為をただただ繰り返す。 やがてセーラー服が真っ赤に染まりきるまで首を抉り終わった頃、彰はその手をやっと止めた。 「ふう・・・」 返り血を浴び、気持ち悪くなったのでそこら辺に落ちていた支給品であろう鞄をさぐる。 鞄は計三つ、彰は水の入ったペットボトルを探しそれで顔を洗った。 「・・・ん、やばいな。服にも飛びすぎてる」 上着は黒であったからよかったが、その中は白のインナーであったから。 その赤は、あまりにも目立ちすぎていた。 「何か、代わりの物なんてないかな」 ガサゴソ、荷物をさらに探る。 だが、それは想像以上に良い結果をもたらした。 「・・・何だ?吹き矢にナイフ・・・こっちは銃が二種まで?! ははっ、本当ついてるな。怖いくらいだよ」 そして、最後。彰は知らないが、それは今目の前で赤に染まっている少女の物。 遠慮なく開けた鞄の中、その中には。 「・・・あはは、はは・・・」 今ならはっきり言える。神はきっと、存在する。 そして、今それは・・・七瀬彰の元に、降臨しているであろう。 今、彼の手には「早間友則なりきりセット」という説明のついた一種の着替えが。 ピンクのシャツに派手なズボン、そしてクロスのペンダント。 彰は血に染まったタートルを脱ぎ捨て、新しいシャツに袖を通した。 ズボンは・・・ここで脱ぎ着する度胸はさすがになく、脇に放置する。 ペンダントは、胸元が寂しいのでついでにつけてみた。 上から自分の上着を羽織るけれど、それでも彰は真新しい自分に生まれ変われた気がしてならなかった。 そう、いつもの地味な自分では決してしないであろうコーディネート。 そこに意味があった。 「僕は変われる、そうだ、僕は変われたんだ・・・」 その表情に、いつもの彰の優しさは微塵もない。 ベルトにナイフをさす、片手にはコルト・ディテクティブスペシャル。 その他の武器は全て鞄へ、食料などもまとめあげる。 当初の目的は美咲を守ること。 美咲以外の邪魔者を殺害すること。 それは美咲のための殺害という名目がついていた・・・が、今は。 今の彰の表情には、佳乃を殺害して悪夢を見たときのような罪悪感は・・・微塵も、なかった。 七瀬彰 【時間:一日目午後11時】 【場所:G−9】 【持ち物:アイスピック 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明) 八徳ナイフ コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3) 二連式デリンジャー(残弾2発) 他支給品】 【状況:ゲームに乗っている】 柏木梓 死亡 シャツやズボンはそこら辺に捨ててあります - BACK