「はい、これで応急処置は完了よ」 海の家にて協力することになった柳川祐也(111)と倉田佐祐理(036)は情報交換をしつつ、リサ=ヴィクセン(119)の治療を受けて一息ついていた。柳川は包帯の巻かれた左肩を少し動かしながらリサに尋ねる。 「随分と手慣れているようだったが、どんな仕事をしている」 「そうね…正義のヒーロー、かしら?」 「ふぇー、すごいですね…」 佐祐理が感心したような声を出した。 「信じるんじゃない、倉田…貴様、はぐらかすな、本当の事を教えろ」 「あら、嘘はついてないでしょう? このゲームを壊すのは、悪なのかしら?」 軽口を叩きつつ本当のことを教えようとしないリサに、柳川は諦めたように「もういい」と言って隣にいる美坂栞(100)に目を移した。 「おい、美坂とか言ったな。この女は何者なんだ?」 「えっと…正義のヒロイン、じゃないでしょうか」 「Oh、yes! 女なんだから、ヒーローじゃなくてヒロインだったわね」 「ふぇー…かっこいいですね」 柳川は頭を抱える。どいつもこいつも… 「でも、間違いはないと思いますよ。だって、リサさんは醍醐っていう人を知っていましたから。一流の傭兵だったそうです。普通の人だったら、そんなこと知りませんよね」 醍醐…さっきの放送で言っていた奴か。そんなことを知っているとは、やはり只者ではない。まぁ何にせよ、軍事関係の仕事についていることだけは間違い無さそうだな。 武器の取り扱いに関しては俺より頼りになるだろう、と柳川は思った。 「さて、治療が完了したところで、問題が一つあるわ」 真剣な表情でリサが語り出す。何事かと柳川は耳をそばだてる。 「食材がないのよ」 「…は?」 思わず素っ頓狂な声を上げる柳川。 「どうも先客がいたらしくてね。あらかた食べ物を持ってかれたみたいなのよ」 「…くだらん。食料なんぞどうにでもなるだろう。支給品のパンだってある」 バカバカしいという風に、手をひらひらと振る。 「そうでもないですよ。食料はこの島では重要な問題だと思います。お腹が空いてたらまともに行動も出来ませんし、食料を巡って争いが起こるかもしれませんから」 「それに柳川さん、パンは貴重な携帯食だと佐祐理は思います。いざという時の為にパンは残しておいておいたほうがいいかと…」 女性陣二人から反論され、柳川は考えが浅かったかもしれない、と思った。…確かに、どこでも食べられる携帯食は貴重だ。 「それにあなたも気付いているでしょうけど、この島、やけに静か過ぎると思わない? 緑の多い島なのに動物や鳥を見かけなかったでしょう?」 「…そう言えば、確かにそうですねー。普通なら犬さんや鳥さんがたくさんいそうなのに」 それには柳川も気付いていた。食料を取らせない為に意図的に仕組んだとしても、島の動物を根こそぎ狩ってしまったとは考えにくい。つまり。 「…やはりこの島は人工島、ということか?」 「Yes、ましてや貴方の言う『鬼の力』とやらが発揮できないのならね」 それに、ここが世界のどこに位置するのか分からなくさせる狙いもあるし、とリサが付け加える。 「ともかく、この島では食料、特に携帯食は貴重よ。まだ一日目だからあちこちに食料はあるでしょうけど…もたもたしてるとやばいわよ」 「…分かった。で、誰が外に探しに行く? 俺が行こうか」 柳川が立ち上がろうとしたのをリサが制する。 「貴方はまだケガをしているでしょう? 今後の為にも、今は傷の治療に専念するべきよ。ここは私が行くわ」 「リサさん、だったら私も」 「栞もここにいて。夜は一人の方がかえって行動を悟られにくいものよ。特に私は、ね」 含みのある言い方をして、栞を座らせる。 「なら、言葉に甘えさせてもらうが…トンファーだけでは心許ないだろう。これを貸してやる」 柳川が懐からコルトディテクティブスペシャルを取り出し、リサに渡す。 「Thanks、ありがたく借りるわ。トンファーはここに置いておくわね。それと佐祐理、ナイフも借りていいかしら?」 「それは構わないですけど…そんなものでいいんですか」 「ナイフは扱いなれているわよ。物は使いよう、ってね」 佐祐理からナイフを受け取ると、リサは銃の残弾を確認しながら柳川に言う。 「それじゃ、ここは任せたわよ柳川。くれぐれもレディ二人にそそうのないように」 柳川は鼻で笑いながら「百も承知している」と言ってさっさと行けと促した。それを見届けて、リサが夜の世界へ駆け出していく。 その後姿を見つつ、栞が不安そうに言った。 「大丈夫でしょうか、リサさん…」 「あの女なら心配無い。恐らく奴はその道のプロだ。ひょっとしたら、元CIAの隊員だったかもしれんぞ。まあ推測に過ぎんが」 「佐祐理は元GRUの人だと思いましたけど…推測ですけどね」 「は、はぁ…で、でもきっと大丈夫ですよね」 「そんなことより、ここの留守を預かったんだ。武器の確認をするぞ。備えは万全にしておく。…そう言えば美坂、お前の武器は何だったんだ?」 言われて、栞はたった今気付いたように手を合わせた。 「あっ、まだ見ていませんでした。これが私のバッグです」 まだ見ていなかったことに呆れつつも柳川はデイパックを受け取る。それはずっしりとした重みがあった。 「結構重いな…何なんだ」 デイパックを開けてみると、そこには米軍の突撃銃、M4カービンがあった。 「アサルトライフル…ですねー。これって、結構すごい武器じゃないですか?」 「こんな武器だったとは知りませんでした…だからこんなに重かったんだ」 栞が唸りながらM4を見る。 「…まあいい。何にせよこれで戦力は増強だ。留守は十分守れそうだ」 M4を取り出し、構えてみる柳川。まだすこし肩は痛むがどうということはない。M4を置き、その他の武器を確認した後、矢を佐祐理に、デリンジャーを栞に渡して休憩することにする。 そして三人の、リサが帰ってくるまでの長い夜が始まった。 【時間:1日目午後9時半ごろ】 【場所:G−9、海の家】 倉田佐祐理 【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:普通。ゲームの破壊が目的。】 柳川祐也 【所持品@:出刃包丁、ハンガー、鉄芯入りウッドトンファー、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】 【所持品A、自分の支給品一式】 【状態:治療は完了したが、直りきってはいない】 美坂栞 【所持品:リサと自分の支給品一式、二連式デリンジャー(残弾2発)】 【状態:健康、香里の捜索が第一目的】 リサ=ヴィクセン 【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、八徳ナイフ】 【状態:健康、食料を探す】 - BACK