林の中を駆ける笹森花梨。 彼女は三つばかしツイていた。 一つ目は、彼女の好奇心を擽る言葉が主催者から語られたこと。 彼女は自他共に認めるミステリ好きであり、ミステリを追い求める為ならばどんな事だってやってのける。 今年の夏休みは雨月山の鬼伝説を調べる為に隆山温泉に行くつもりだった。ミステリ研の合宿として。 もちろん部員であるところのタカちゃんは強制参加だ。 二つ目は、支給された得物が猟銃…それも実猟で使い勝手のいい水平二連銃だったこと。 そして弾丸…九粒弾とよばれる散弾が結構な量入っていたこと。 そして、三つ目は…… 「あうー、どうして追いかけてくるのよー!!」 彼女の最初の標的が沢渡真琴だったことである。 彼女は最初、林の中に隠れていたのだが、真琴に照準を合わせるほんの少しの物音を 真琴は聞きつけて逃げ出してしまった。 あわてて追いかけるも、木々が邪魔となってなかなか真琴に照準を合わせることが出来ない。 二人の鬼ごっこは暫く続いたが、距離はほとんど縮まることはなかった。 追いかけること数分、急に視界が広がる。林を抜けたのだ。 花梨と真琴の間を遮る物は何一つ、無かった。 「もらった!!」 花梨は躊躇無く引き金を引くと猟銃から放たれた九粒弾が真琴の左半身を貫き、真琴は崩れ落ちた。 銃で狙いを定めたまま血の海に沈む真琴に近づくと、花梨の目の前で真琴の体が狐のそれに変貌を遂げていた。 花梨は全速力の鬼ごっこで息を切らせながら、目の前で起きた現実を確認するように呟いた。 「はぁ…はぁ……主催者の言葉は本当やったんよ……」 「主催者の口ぶりだと、他にもいっぱい居そうだったな……」 「ひょっとしたら人間に化けた宇宙人とかも居るかも……」 「…よし、ミステリハンター笹森花梨、調査開始なんよ!」 花梨はそう言うと、狐が持っていたデイバッグを手に取りその場から立ち去った。 笹森花梨、彼女は三つばかしツイていた。 だから、たった一つの不運に気が付かなかった。 (ちょっと…ウソでしょ……) (笹森さんがゲームに乗っていたなんて……) 花梨と真琴が疾走していた林の、直ぐ脇の藪から一部始終を見られていたこと。 そして、その見ていた人物が互いに顔見知りである十波由真だったことを…… 52 沢渡真琴 死亡 【状態:死体は狐になっています】 【48 笹森花梨】 【支給品:猟銃(水平二連銃)、九粒弾(19発、うち1発装填)、真琴の支給品(不明)、デイバッグ×2】 【状態:軽い疲労】 【70 十波由真】 【支給品:不明】 【状態:驚愕】 【時間:15:00頃】 【場所:D-04、高原池付近】 - BACK