反旗の狼煙




柳川裕也と倉田佐祐理は灯台へ向かって移動しようとしていた。
氷川村からは少し遠いが、他に良い候補場所が地図上にはない。
それに、灯台なら見晴らしも良く比較的安全で、休憩するには最適の場所と考えての事だ。

二人は並んで歩いていた。しかし、佐祐理には心配事があった。
だから彼女は一つの提案をする事にした。
「あの…、柳川さん。荷物を持ちましょうか?」
「ん、何故だ?」
「だって、柳川さん怪我していますし、それに荷物も佐祐理の方がだいぶ少ないですし…」
拳銃二つに、デイパックも二つ。
柳川の荷物は、佐祐理の荷物の二倍程の量があった。

「いや、心配は無用だ。体力は、常人より遥かにあるのでな」
柳川はそれだけ言うと、再び歩き出した。
確かに鬼の血を引く柳川の体力は、常人の数倍はゆうにあるだろう。

しかし、今は彼は怪我を負っている。
ここで無理をする事は、怪我を悪化させてしまうのではないか。

「えいっ」
「む…」
佐祐理は柳川のデイパック(本来は楓のもの)を彼から奪っていた。
そして、それを肩にかけるとそのまま歩き出した。

「おい倉田、心配いらんと言っただろう。無理をするな。」
「あははーっ、こう見えても佐祐理は体力には自信があるんですよーっ」
佐祐理は笑いながらそう言って、荷物を返す事はしなかった。
戦闘とは無縁の生活を送っていた自分は、戦闘に関しては彼の役に立てない。
ならばせめて、こういう時に彼を助けてあげたかった。

「……筋肉痛になっても知らんぞ」
柳川はぶっきらぼうにそう言い放つと、彼もまた歩き出した。


そうしてしばらく歩いていると、彼らは海辺に一つの家を発見した。
「あれは……、海の家、みたいですね。」
「ああ、そのようだな。」

まだ距離は遠く、細かい部分までは見えない。
「はぇー、どうしますかー?」
「取り敢えず、調べてみるか。出来れば村から近い場所を確保したいしな」

そのまま海の家まである程度近付いた時、柳川は突然右手を佐祐理の前に出し、
彼女の歩みを制止し、彼女の前に躍り出た。
「ふぇ、なんですか?」
「…あの家から人の気配がする。それも複数だ。」

「――――!」
佐祐理の表情が強張る。
いつでも撃てるよう、銃を構える柳川。
やがて、海の家のドアが開き、トンファーを携えた女が出てきた。
金髪の、美しい女だった。
しかし柳川は一目でその女が、戦闘慣れしている事を見抜いていた。

「Don't shot,落ち着いて。」
「そう言う貴様は、この状況で随分と落ち着いているようだな。ゲームに乗った者か?」

金髪の女―――リサ=ヴィクセンは肩をすくめながら言った。
「本当に失礼ね、私は戦う気はないわ。殺人鬼扱いされるのは今日で二度目よ」

しかし、その台詞を聞いても柳川は警戒を解かない。
目の前の女が一般人で無いことは間違いない。そう簡単に、信用していいものか?
柳川と、リサの間に緊張が走る。
しかし、それは長くは続かなかった。


「あなたは……、倉田さんですか?」
ドアの影から佐祐理とほぼ同じ服装の少女が姿を出していた。
「ふぇー、そうですけど……。その制服、同じ学校の方ですか?」
「ええ、多分そうだと思います」

少女は無警戒にそのまま近付いてくる。
「初めまして、私は美坂栞っていいます。」
「初めましてーっ、倉田佐祐理です」
佐祐理も少女の様子を見て警戒を解いたのか、同じく近付いて挨拶をしていた。

佐祐理は学校ではそれなりに有名人だった。
生徒会関係の話や、不良少女と認識されている舞との交友関係等、噂になる要素は多い。
学年の違う栞でも、知っているほどだ。

その様子を見て、ようやく柳川も警戒を解き、銃をおろしていた。
「Hu…,やっと落ち着いてもらえたようね。私はリサ=ヴィクセンよ。」
「ああ、悪かったな。俺は柳川裕也だ。」

「All right.とにかく、続きは家の中に入って話しましょう。ここでずっと立っているのは危険よ。」
家の中に戻り、彼らは本題へと入っていた。
自分達の目的、自分達が知っている情報についてだ。

「あなた達、随分と苦労してきたのね…。」
全てを聞いたリサはそう言う他、無かった。
「ふぇ〜、佐祐理よりも、柳川さんの方が何倍も苦労してると思います…。」

佐祐理の言う通りだった。
柳川は、ゲームが始まって10時間程度でもう幾度もの修羅場を潜っている。
自分達は比較的平和だったが、この島では殺人ゲームが確実に進行しているという事を、
リサは再度思い知らされた。



そして同時に頼りになるとも思った。柳川から感じられる迫力は、尋常ではない。
エージェントである自分ですら、目の前の男には勝てるかどうか分からない。
主催者との対決において、これ以上無い戦力になるだろう。

「お互い最終目的は同じようだし、もし良ければ、私達と一緒に行動しないかしら?」
即座に決断し、そう提案していた。

「良いだろう、ゲームを止めるには戦力が必要だからな」
柳川も同じように考えていたのだろう、即座に了承していた。
そうして二人は、握手した。
主催者の打倒を誓って。
この殺人ゲームを一刻も早く終わらせる事を誓って―――。


主催者へ反旗を翻す為に協力する者達は、
各地で確実に増えてきている。
しかし、まだ主催者の正体は全く見えてこない。
彼らの望みは叶うのだろうか?
それはまだ、誰にも分からない事だった。




【時間:1日目午後9時ごろ】
【場所:G−9、海の家】

 倉田佐祐理
【所持品@:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品A:八徳ナイフ】
【状況:普通。ゲームの破壊が目的。】

 柳川祐也
【所持品@:出刃包丁/ハンガー/コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)】
【所持品A二連式デリンジャー(残弾2発)、自分の支給品一式】
【状況@:左肩に切り傷。腕が動かせなくなる程では無いが、傷はそれなりに深い】
【状況A:疲労。背中に軽い切り傷。ゲームの破壊が目的。】


 美坂栞
【所持品:支給品一式、支給武器は不明】
【状態:健康】
【備考:香里の捜索が第一目的】

 リサ=ヴィクセン
【所持品:支給品一式、鉄芯入りウッドトンファー】
【状態:健康】
【備考:宗一の捜索及び香里の捜索が第一目的、最終目的はゲームの破壊】
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