もっと/食べないと




 木陰に支給品の食料を食べている少女が一人、その名を川名みさきという。
彼女は今、ゲーム開始時のことを思い出していた──


 カチリと音がして、拘束が外される。
「君は目が見えないそうだね。このまま外に出損ねて爆死というのでは
あまりに興がないから、出口までは音声で誘導してやろう」
彼女は音声に従い、支給品を受け取って外に出た。

「これから君たちには殺し合いをしてもらう」

 そんな台詞をうわの空で聞きながら、彼女には強く感じていることがあった。
それは──

「うー、お腹がすいたよ〜!」

 そう、空腹感である。



 時刻は昼飯時、いつもなら学食でカレーの皿を積み上げているところだ。
彼女は出発地点を離れると、素早く支給された食料をあさり始めた。
支給された食料はパンやレーションなど6食分あったが、
大食漢の彼女にかかれば1食で尽きる量である。
3食分程食べたところで、彼女は半球上の物体がディバッグに入っていることに気が付いた。
真ん中の辺りがやや出っ張っていて、飲食店で店員を呼ぶ際に用いられる
ボタンとよく似ている。説明書は付属されていたのであるが、
盲目の彼女には意味がなかった。
「これがわたしの武器? なんだろう、へぇボタンかな?」

「トリビア、雪ちゃんのスリーサイズは上から81・55・83。
へぇ、へぇ、へぇ」

 彼女は親友の貧乳を暴露しつつ、そのボタンを連打してみた。
「うわっ」
突如としてボタンから煙が噴出される。
「けほっ、けほっ。煙幕?」
彼女は煙が納まるのを待って、食事を再開した。満腹にはまだ程遠い。

 すべての食料を食べ尽くし、水を飲み終えたところで彼女は感想を述べる。
「このパン美味しくないよ。士郎のやつも修行が足りないね」
「士郎?」
「あれ? 誰かいるのかな?」
「やっと気が付いたか」

 一陣の風が吹きぬけ、何か布のようなものがはためく音が聞こえた。
このときになって、彼女は漸く目の前の何者かの存在を知覚したのだった。

「──問おう。貴方が、私のマスターか」

「マスターって……何?」

 その日、運命に出会う。




 川名みさき
 【時間:午後1時ごろ】
 【場所:G-03】
 【所持品:召喚スイッチ(使用済み)、食料と水を除く支給品一式】
 【状態:満腹度30%】

 アロウン
 【時間:午後1時ごろ】
 【場所:G-03】
 【所持品:マフラー】
 【状態:みさきと契約を結ぶ】
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