「ちっ、俺が言うのもなんだが、えげつない殺り方だな」 この島の『イレギュラー』とさえ呼べる男、岸田洋一は脳漿がぶちまけられた藍原瑞穂の死体を見て毒づいた。側に鉈が無造作に置かれていたことから、これで殺られたらしい。 「女だったらしいが…これじゃ屍姦さえ出来やしない、クソッ」 唾を瑞穂の死体に吐き捨て、鉈を手に取る。ずっしりと手に響くその重さは、岸田にとって手ごろな得物だった。ポケットにカッターを入れ、鉈を一、二回振ってみる。 「ふん、まあまあだな。これで少しはまともになったか」 ついでに何か役に立つものは無いかとデイパックを漁ってみる。出てきたのは島の地図、方位磁石、参加者名簿といかにも不味そうなパンと水。 「けちくさい主催者だな…ガキの給食か」 無造作にパンの袋を開け、乱暴にそれを平らげた。ついでに水も全て飲む。先程の小麦粉がまだ口の中に残っていて鬱陶しいことこの上なかったのだ。 「さて、パーティ会場に戻るとするか。メインディッシュは…やはり極上の女に限るな、ククク」 か弱い女どもが嬌声を上げて悲鳴を上げるところを想像しただけで、岸田の逸物は固くなるのだった。 邪悪な笑みを浮かべながら、再び岸田は鎌石村へ向けて歩き出す。鎌石村までは、すぐそこだった。 「いいかげん日も暮れてきたわね…で、どうするのお二人さん? このまま森で待機する? それとも宿を探す?」 役場から少し離れた森の中で、相楽美佐枝と小牧愛佳、来栖川芹香はこれからの動向を話し合っていた。 「………」 「え? 野宿は危ないからどこかの目立たない建物がいいって?」 (こくこく) 「ふぅん…で、小牧さんは?」 「えっと…あたしは、来栖川さんに賛成です。建物の方が、隠れるところは多いですし」 「ま、そりゃそうよね。火炎放射器も目立ちすぎるし。そこらへんの家を適当に見繕ってそこで休憩するわよ、オーケイ?」 はい、と言う声が二人から聞こえるのを確認して、美佐枝は森から出るように促した。ずっと森を歩き続けてきたせいで、三人とも服は汚れている。 「はぁ…この服、クリーニングしたばかりだって言うのにねえ」 「あたしもです…どこかで、洗濯できる家があればいいんですけど」 (ふるふる) 「そうですよね…そんなに都合良くはいきませんよね…え、喋りながら歩くと人に見つかりやすい? あっ、ご、ごめんなさいっ」 「…あー、そっか…ごめんなさいね。注意力が散漫になってきたかしらねぇ」 それからは三人とも黙って街路を歩く。…しかし、その後方から一筋の鋭い目線が刺していたのに、三人は気付いていなかった。 しばらく歩いて行くと、町の北の方に一軒の小屋を見つけた。 「相良さん。あの家なんか良さそうじゃないですか?」 愛佳が家を指差しながら小声で伝える。 「そうね…うん、いいんじゃないかしら。来栖川さん、どう?」 (こくこく) 「決まりね。それじゃ行きましょうか」 そう言いながら、美佐枝は懐からマイクロウージーを取り出す。 「えっ!? さ、相良さん、何するんですか!」 愛佳が慌てて美佐枝に詰め寄るが、美佐枝は愛佳のおでこをコツンと弾きながら言った。 「ばぁか、中にもし殺人鬼がいたらどうすんのよ。牽制に使うだけ」 「あ、そ、そうなんですか…」 縮こまりながら引き下がる愛佳。美佐枝はきちんと弾薬が入っていることを確認すると、家のドアにそっと手を掛けた。カギを確認しても、かかっている様子はない。 「二人は下がってて。もし銃撃戦になったら危ないから。特に来栖川さんはね」 手で下がるよう合図すると、二人は美佐枝のやや後ろへと離れる。美佐枝はそれを確認すると、一気にドアを開け放ってウージーを構えた。 しかし、そこはもぬけの空で、荒らされた形跡すらなかった。 「…いない、か。二人ともいいわよ、ここには誰もいないみたい」 再び手で合図すると、愛佳と芹香がそそくさと走ってくる。美佐枝はウージーを下ろし、改めて小屋の中へと入って行く。愛佳と芹香もそれに続いた。 「…しっかし、随分と殺風景な小屋よねぇ。キタナイ部屋よりかマシだけどね」 「………」 芹香は何かを探すようにタンスや台所を熱心に調べている。 「来栖川さん、何を調べているんですか?」 「………」 「えっ!? 食べ物がなにもないんですか!? 缶詰とか、インスタントとかも?」 (こくこく) 「マジ? あっちゃー…目立たないところを選んだのが失敗だったかしらねぇ」 美佐枝が頭を掻きながら嘆息する。芹香はまだ調べながら呟く。 「…えっ、これ全部新品なの? はぁ、道理で新築っぽい匂いがしたかと思えば…」 「建てたばっかりで、食料とかがまだ用意されてなかったんでしょうか?」 わかりません、と芹香が小声で言う。そして、新築にしても包丁や鍋、フライパンまで何から何まで新品なのもおかしいと思います、と付け加えて。 「確かにね…調理器具や小物まで新品なのは、確かにおかしいわね」 「それじゃ、この建物は…」 「意図的に主催者側が建てたって可能性もあるわね。この人数だもの、そんなことをしてもおかしくないわ」 三人の間に、沈黙が佇む。しかしすぐに美佐枝がそれを打ち消す。 「ま、何にしたって有効利用しない手はないわ。食料が無かったら探すまでよ。ここなら、そうそう他の参加者に見つかる事もないだろうし」 「そうですよね。それじゃ、みなさんで食料を探しにいきましょうか?」 そう言って動きかけた愛佳を、芹香が手で制す。 「………」 「えっ? 荷物を持って移動するのは大変だから、荷物の見張り役を残して誰かが食料を探しに出た方がいいって? で、でも…」 「………」 「荷物を持ってると動きも遅くなるし、身軽な方がいざという時にも逃げやすいって? まぁ、そりゃ確かにそうだけど…誰が行って、誰が残るの?」 美佐枝がそう言うと、芹香は愛佳と美佐枝をそれぞれ指差した。 「あ、あたしと、相良さんが探しに行くんですか? でも、それだと来栖川さんが…」 「そうよ。探しに行くならあたし一人でも大丈夫よ」 (ふるふる) 「外の方が危険性は高いから、そちらの方に人数を割いた方がいい? いや、うーん…でもねぇ…」 美佐枝は渋ったが、芹香はぐっ、と指を立てて、万が一誰かが入ってきても、いざとなったらこれで応戦します、と言ってぽんぽんと火炎放射器を叩いた。 「…はぁ。分かったわよ、あなたを信じるわ。それじゃ行きましょ、小牧さん」 「あっ、は、はい…」 まだ少し未練を残しながらも、美佐枝に連れられて愛佳は小屋を出た。 しばらく離れたところで、愛佳が美佐枝に囁く。 「あれで良かったんですか? やっぱり、誰かが戻ったほうが…」 「…あたしもそう思ってたところよ。けどねぇ、あの子、結構頑固そうだったから、取り敢えず言う事を聞いておくしかないでしょ? …それで、小牧さんにお願いがあるんだけど」 「…あたしが、小屋に戻るんですね」 「そ。やっぱり一人より二人の方がいいでしょ? あたしなら一人でも大丈夫だから」 これもあるしね、と言ってウージーを掲げる。 「…分かりました。来栖川さんにはあたしから説明しておきます」 「オーケイ、いい返事ね。それじゃ、後は任せたわよ。パパッと取って、すぐに戻ってくるから」 「はいっ、相良さんも気をつけて下さいね」 「分かってるわよ。それより、早く戻って。ただの杞憂かもしれないけど、何か、嫌な予感がするのよね…あたしが心配性なだけかもしれないけど」 美佐枝は苦笑しつつ、愛佳の背中を押してやった。愛佳はととっ、とよろめきながらもすぐに走り去っていった。姿が見えなくなるのを確認すると、美佐枝も改めて走り出した。 「ククク、尾行されているとも知らずに、バカな奴らだ」 美佐枝と愛佳が分かれた後、悠然と芹香のいる小屋の前に現れたのは岸田だった。彼は街中で喋っていた美佐枝たちを発見した後、ずっと追跡していたのだ。 「一人になるということがどんなに恐怖になるかということを、身をもって教えてやろうか、黒髪のお嬢さん?」 ぺろりと舌なめずりをしながら、岸田は小屋まで移動する。手には、血濡れの鉈を持って。 「意外と肉付きも良かったからな…楽しみだ。さぁ、楽しい楽しいパーティ、第二幕の始まりだよ〜」 来栖川芹香 【持ち物:バックパック式火炎放射器、愛佳・美佐枝のデイパック】 【状態:やや疲労】 小牧愛佳 【持ち物:包丁】 【状態:やや疲労、芹香の元へと戻る】 相楽美佐枝 【持ち物:ウージー(残弾25)、予備マガジン×4】 【状態:健康、食料を探す】 岸田洋一 【持ち物:鉈、カッターナイフ】 【状態:健康、芹香を狙う】 共通 【時間:一日目午後5時半】 【場所:B−3】 - BACK