悲しむ二人、計算する一人




長瀬祐介達は、氷川村を歩いていた。
氷川村に着いた彼らはまず村の西部の上半分を探し回ったが、
初音の姉を見つけることはおろか人影一つ、見つけることが出来なかった。
「うーん……。誰もいないね……。」
「そうだね……。」
「もしかすると、みんな警戒して人が集まりそうな場所は避けているのかもしれませんね。」
「確かに、そうかもしれないね。こんな状況だから仕方ないか…。」

「何か情報くらいは得れると思ってたのに、参ったな……。」
そう言って僕は俯いた。
しかし初音ちゃんは気丈だった。

「ううん、大丈夫。お姉ちゃん達は強いし、きっといつか会えるよ!」
本当は彼女が一番落胆しているはずなのに、精一杯の笑顔でそう答えてくれる。

初音ちゃんは本当に良い子だ。優しくて、強くて…。
何としても守り通して、彼女の姉達に会わせてあげたい。
もはや僕にとって、それが最優先事項になっていた。

だから、僕も弱気になってはいけない。
「……そうだね。諦めなければ、きっと何とかなるよね。」
微笑みながら答える。
「一旦休憩しようか。歩き回って疲れただろ?」

そして今は民家の中にいる。
有紀寧と初音はリビングで休憩しており、
祐介は何か役立つ物は無いかと他の部屋を物色しているところだった。

「使えそうなのは、これくらいかな。」
祐介が民家から見つけたのは、包帯、消毒液、それにゴルフクラブだった。
(拳銃や防弾チョッキが置いてあれば心強かったんだけど…、まあただの民家にそんな物騒なものはないよね)



物色を終えた祐介は、リビングへと戻っていった。
「おかえり、祐介おにいちゃん!」
「うん。ゴルフクラブを見つけたんだけど、これは有紀寧さんが持っててよ。」
「え…、でも……。」
「いいからいいから。何もないよりマシだと思うよ。」

「分かりました…、心配してくれてありがとうございます。」
有紀寧は微笑みながら、そう答える。
しかし内心は、毒づいていた。
(全くこの程度の武器で、護身になると思ってるんでしょうか?)

私は絶対に死ぬにはいかない。
死んでしまった兄のためにも、何としても生きて残るんだ。
身の守りは万全を喫したい。ゴルフクラブ程度では明らかに不十分だ。

「ねえ祐介おにいちゃん。これからどうするの?」
「そうだね…。外が完全に暗くなる前に、村の西部の残りの民家や、東部も探索したいかな」

「それが良いですね、真っ暗になった後は動き回るのは怖いです…。」
不安げな表情を浮かべながら答える。
私が演じるべきは、守られる者。弱い女の子。
十分な武装が無いのなら、代わりに彼らを盾にするだけだ。


それぞれの思惑を抱きつつ、彼らが出発しようとしたその時、
「――みなさん聞こえているでしょうか。今から僕は一つの放送をします。」
例の放送が流れてきた。



瑞穂ちゃんが、死んだ。それは僕にとって、かなりショックな事だった。
頭を鈍器で殴られたような、強烈なショックだ。
しかし、今はそれよりももっと重大な事があった。
「そんな………、そんな…………。いやぁぁぁぁぁ!!」
そう、初音ちゃんのお姉さん……、柏木楓の名前が、死亡者発表の中にあった。
「楓お姉ちゃん、どうして……!!」
「こんなのやだ、こんなのやだよぉ……!」
初音ちゃんは泣き崩れている。

「う、うう……。」
有紀寧さんも、そんな初音ちゃんの様子を見て、目に涙を浮かべている。


「うぁぁぁ……。」
初音ちゃんの泣き声は止まらない。それも当然だろう。
道中、彼女の姉の話題を振ると、彼女は本当に楽しそうに姉達の話をしていた。
(よっぽど大好きな、大事なお姉さんだったんだろうね……。)
それなのに、彼女はもう、二度と楓お姉ちゃんには会えないんだ。

そう考えると僕もどんどん悲しくなってきて、
いつの間にか初音ちゃんを後ろから抱いていた。

「ゆうすけ…、おにい、ちゃん…?」
「ごめんね…。」
「え……?」
「ごめんね……。僕がもっと早く初音ちゃんのお姉さん達を見つけられていれば、
こんな事にはならなかったのに……。」
目から涙が溢れてくる。嗚咽が止まらない。

初音ちゃんが僕の手を握ってくる。
「ううん……、祐介お兄ちゃんのせいじゃ、ないよ……。」
「ごめんね、ごめんね……」


祐介と初音は、抱き合いながら泣いていた。
部屋の中に、二人の嗚咽が、ずっと響き渡っていた。
そんな中、宮沢有紀寧は……。
表面上は悲しそうな表情をしていたが、心の中は冷静そのものだった。

(開始から6時間程度で約15人も……。これは、思ったよりも早くゲームが終わりそうですね。)
彼女は冷静に、これからの事を計算していた。

次にどう動くべきか、どうやってもっと強力な武器を手に入れるか、いつリモコンを使うべきか。
そして、この、愚かな盾達をいつまで使うべきか。
そう、私は絶対、死ねないんだ。




『宮沢有紀寧 (108)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:リモコン(5/6)・支給品一式・ゴルフクラブ】
【状態:前腕に軽症(治療済み)。強い駒を隷属させる。】

『長瀬祐介 (073)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式・包帯・消毒液】
【状態:号泣。目的は初音を守りつつ、彼女の姉を探す事】

『柏木初音 (021)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:鋸・支給品一式】
【状態:号泣。目的は祐介に同行し、姉を探す事】
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