幸か不幸か




街道沿いに車椅子を押し進む小牧郁乃と立田七海。
「分かれ道だね……どうしよう郁乃ちゃん」
「みんなが集まりそうなところに行きたいけど……鎌石村だと遠回りよね」
地図を広げながら現在位置を確認する。
狙撃された場所、自称ハードボイルドの天パの怪しい男と別れた場所、そしてたった今抜けてきた東崎トンネルを順になぞる。
「こんなことなら最初っから北に行っておけばよかったわ、もう」
疲れがたまっているのか、失敗したなと気落ちする郁乃に七海が少し照れながら声をかけた。
「でもでも、こっちに来たから私達会えたわけですよね」
「ま、それもそうね」
ゆっくりとしたペースではあるが、高槻と別れた後は、幸か不幸か誰とも遭遇することなく進むことが出来た。
自分達の取った選択は少なくとも当たりの部類に入るのではないだろうか、と郁乃は考えた。
「今更村に向かうってのもなんか負けた気がして癪に障るし、この無学寺ってところに向かってみる?」
地図に伸ばした指をツーッと下に動かす。
「もうすぐ陽も落ちるし、ここなら屋根もありそうだしね」
七海が頷くのを確認すると、地図をバックにしまい車椅子の進路を右に向けた。
「――それにしても大丈夫?」
「え?」
「七海ずっと歩きっぱなしじゃない、少し休も?」
ずっと歩きずくめ、しかも車椅子を押しながらだった七海を労い、郁乃が声をかける。
「これぐらい大丈夫ですよ」
「でも……」
「いいからいいから、さぁ行きましょう!」
息が荒くなっているのが目に見えていたのだが、そう言われるとしつこく言うのも逆に失礼な気がした。
「休みたくなったらすぐそう言ってよ?」
「はいっ」
車椅子の身を不甲斐無く思いながら、しぶしぶながらハンドリムを手に取った。

「――そう言えば七海はなにをもらったの?」
地図をしまった時に見えた自分の支給品のことを思い出しそう尋ねていた。
思い出すのもばかばかしくなるくらいの品物で、出来れば永遠に忘れていたかったのだが思い出してしまったものはしかたがない。


「もらった?」
良くわかってない様子で頭にクエスチョンマークを出しながら七海は首をかしげた。
「ほら、最初に変なウサギが言ってたでしょ。『武器を渡す、ランダムだ』みたいな」
「あー言ってましたね」
とノンキな顔で微笑んだ。
「そう言えばまだ見てなかったです、ちょっと待ってくださいね」
車椅子を止め、担いだバックを降ろすとガサゴソと中を漁りだした。
「うーんと、うーんと……あ、これかな?」
「なにこれ……?」
「ちょっとわかんないですね」
「説明書は?」
「あ、はいこれです、えーっと、『フラッシュメモリ』?」
七海の手にちょこんと乗る一枚のフラッシュメモリ。
だが二人ともそれが何なのかはわからなかった。
「ちょっと説明書貸して。えーっと、なになに……?
 『フラッシュメモリは、ソフトやデータを記録する小さな記憶装置(重量わずか数g!)で、
  デジタルカメラや携帯電話、携帯端末(PDA)などのデータ保存用に使われているんだ。
  またフロッピーディスクではデータが入りきらないときにデータを持ち運ぶのに使ったりすると便利だよ。
  データのやりとりをするときにUSBに直接差し込んで使用してね』
 ……ですって」
「……つまり、なんなんでしょう?」
「何かしらのデータが入ってることだとは思うけど、少なくとも武器ではないわね……はぁ」
銃をもらっている人間がいたというのに自分達はなんて運がないのだと溜め息がもれた。
――まぁさっき会った自称ハードボイルドもなかなかの外れっぷりだったけど。
高槻のバックからはみ出ていたぬいぐるみの頭を、あれが支給品なんだなと想像して笑いがこみ上げていた。
「郁乃ちゃんはなにをもらったんです?」
興味津々な顔で尋ねてきたその言葉に、露骨に顔をしかめる郁乃。
「やっぱ気になるわよねぇ……あんま思い出したくないんだけど……」
ブツブツと呟きながら一冊の本をバックから取り出し、七海に手渡す。
「……『OGARINA』?」

「もう一冊あるわよ」
不機嫌そうに取り出したそれには、今度は『YUKI・MORIKAWA』と書かれていた。
表紙には水着姿で楽しそうに笑う女性がそれぞれ映っていた。
「写真集なんか渡されてどうしろって言うのかしらホント!」
「あ……あはは……」
郁乃の態度に困り果てながら「あ、ありがとう」と申し訳なさそうに頭を下げ写真集を返すと
全く納得がいかない様子で乱雑にバックにしまいこんだ。
「あーあ、こんなんで無事につけるのかしら……」

郁乃の心配も杞憂に終わり何事もなく二人は無学寺に到着した。
ウサギの言葉どおり寺は多少壊れされていたが、想像よりも広い様式になっており無事な部分が多いほどだった。
これなら一晩をしのぐにはちょうどいい場所かもしれない、と二人は中に入るものの
緊張のためか極度の疲れが襲いそのまま倒れこむように眠りについた。
このため二人は大事な放送を聞き逃すことになるのだが、二人の探し人の名前が無かったのもまた強運だったろう。




小牧郁乃
 【時間:1日目放送直後】
 【場所:F-9無学寺】
 【持ち物:写真集二冊、車椅子、他基本セット一式】
 【状況:七海と共に愛佳及び宗一達の捜索、休息中】
立田七海
 【時間:1日目放送直後】
 【場所:F-9無学寺】
 【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
 【状況:郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索、休息中】
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